JA/EN

AI検索

関連ハッシュタグ

Articles

ポケモン着物から平安モードまで:「MISAMARU」が問い直す、“着物”の自由と境界線

2025.08.28
日本の伝統服「着物-KIMONO-」。その可能性を、軽やかに現代のファッションに生かすブランドがある──「MISAMARU」だ。
かつて、すべての日本人が日常着として身に着けていた着物は、いまや様式美と格式の象徴となっている。
そんな着物を、もう一度ストリートへと呼び戻そうとするMISAMARUのアイテムは、異色かつ自由なスタイルそのもの。デザイナー・みさまるさんに、そのクリエイションの秘密を聞いた。

PROFILE

みさまる

和装ブランド「MISAMARU」デザイナー。大学時代から、着物をカスタムし普段着に取り入れるコーディネートや、ポケモンを刺繍した自作着物がSNSで注目を集める。著書に『フリースタイル着物コーデBOOK』(KADOKAWA)。着物ライクブランド「KUDEN」アンバサダー。2024年、MISAMARUをスタート。

「普段着」にならない、不思議な「伝統の服」

MISAMARUの服は、浴衣・羽織・紋付き・袴、時には平安期の衣服までをモチーフとして取り入れながら、シルエットや丈感を自在にカスタムしたデザインが最大の特徴だ。
スカートやレザーブーツ、シルバーアクセサリーなどの洋装アイテムとも独特の相性を見せる。
ショート丈の着物×袴パンツ 画像提供:みさまる
新作が発表されるたびに大きな反響を巻き起こすが、デザイナーのみさまるさんは、はじめからファッションの世界を目指していたわけではなかった。
「はじめて着物を意識したきっかけは、七五三で着物を着たときです。かわいくて、子どもごころに自分でも着てみたいと思いました。でも、『着付け師』をしていた祖母に、呉服屋さんに連れていってもらって驚きました。
1着数十万円もして、とても買えない......不思議でした。こんなにかわいくて、日本人が伝統として大切にしてきたものなのに、普段着として身に着けられないなんて」
正統派の着物は、襦袢や帯などの装備が必要で、手入れにも知識が求められる。もっと自由に、気軽に着られる方法はないのだろうか──。

ルールもマニュアルもない、“フリースタイル着物”の原点

そのアイディアが形になりはじめたのは大学生のころだ。
「ポリエステル製のリーズナブルな着物や、中古の着物をネットで見つけたんです。これなら買えそうだと、服装に取り入れるようになりました。といっても、ほとんどコーディネートのお手本がなくて」
周囲に「和装ミックス」をしている人などいなかった。ひとりでコーデを楽しむうちに、面白い出会いが起こる。
着物にスカートとレザーベルトをミックス(2020年頃) 画像提供:みさまる
「SNSで着物好きの方々の和洋折衷コーデを知り、影響を受けました。『これだ! 私もやりたい!』と。オフ会を開いて交流したり、自分でもコーデを投稿したりするようになりました」
仲間はネット上にいた。そして2019年頃から、パンクやゴシックスタイルに和装を合わせたみさまるさんのコーデが徐々に話題となる。
「和装の書籍を読むと、室町時代くらいまでは帯を締めずに紐などでラフに留めるスタイルも多かったそうです。昔は自由に着崩していたなら、今の時代だって襦袢を着ずに洋服に合わせてもいいし、形を変えてもいいはず。丈を直したり絵を描いたりなどカスタムも始めました」
帯のない「室町時代風コーデ」 画像提供:みさまる
こうしてみさまるさんは、和装コーデを楽しむ「自作勢」のユーザー/クリエイターとして有名になっていった。着物ライクブランド「KUDEN」のアンバサダーを務め、「着物コーデ」の書籍も出版。活動を通してSNSのフォロワーは数千、数万と広がっていった。
『「襦袢なしでもOK」「普段着にプラス」「帯代わりのベルト」 フリースタイル着物コーデBOOK』(2022年出版) ©Misamaru KADOKAWA 2025
なかでも、もっとも大きなバズが起きたのが「ポケモン刺繍」の着物だ。
「西陣織会館で日本刺繍の職人さんにお会いする機会があって、刺繍が施された着物に興味を持ちました。本格的な日本刺繍は私にはとてもできませんが、大好きなポケモンを着物に刺繍して着たい、と思ったんです」
専門的な知識がないまま、刺繍・刺繍・刺繍の毎日。数ヶ月かけて完成した羽織はニュースでも取り上げられるほどに。
ポケモンの「カイオーガ」を刺繍した着物はSNSで話題に 画像提供:みさまる
「ポケモン着物」は、世間に着物のかわいらしさを改めて思い起こさせた。しかし、自由な発想の和装コーデに対しては、複雑な反応も見られた。
画像提供:みさまる
「着付け師だった祖母には、ものすごく嫌がられました。『格式を乱すな、間違った着方をするな』と。SNSでも同じような声がありました。伝統的な着物を愛する方々からすれば、私のスタイルは反感を持たれても当然ですよね。そのころから“和装ってなんだろう”と考えるようになりました」
同じ“着物好き”のはずの人々からの批判は、少なからず葛藤を呼んだ。しかしその声はやがて、MISAMARUというブランドの種になっていく。

ブランドの火付け役は“推し活”と“妖装”──たどり着いた「平安モード」

画像提供:みさまる
2024年にOEMを活用してブランド「MISAMARU」を立ち上げる。あくまで“自作の延長”としてのスタートだった。
「紋付きの裾をばっさり切って、クロップド丈にリメイクしたアイテムをSNSに投稿したら、『どこで売ってるの』『欲しい!』という声が多くて。だったら、工場にお願いして商品化してみようかなと思ったんです。和装コーデが好きな方に届けばいいなと思っていました」
当時は、すでに結婚・出産も経験し、育児と並行しながら準備を進めていた。最初に発売したのは、「ショート丈の着物」と「ショート丈の羽織」のわずか2点。それでも、予想を超える反響があった。
「すぐにSOLD OUTになって、急いで追加生産しました。SNSの反応を見ると、ゲームやアニメキャラの“推し活”で使ってくれたり、妖怪の格好を楽しむ“妖装”ファンの方々に喜ばれたりなど、いわゆる“着物好き”とは異なる層にも届いていたんです」
「フード付きフェイクファー羽織」 画像提供:モデル/Sigma 撮影/泥パン
着物の可能性に驚きつつ、個人で和装コーデを始めた当初の気持ちを思い出した。もっと着物をリーズナブルに、手入れも簡単に、そして自由に着こなせたら……。
様式美に敬意を払いつつも、「日常のファッションとして着物を楽しむ選択肢を与えたい」。MISAMARUはそのコンセプトをより色濃く表現するようになっていく。
そのなかで生まれたのが「平安モード」だ。
「平安モード」 画像提供:みさまる
「ブランド立ち上げの時期に、日本の古墳時代から現代までの服飾史を学び直して、見つけたのが水干(すいかん)や狩衣(かりぎぬ)など平安貴族の日常着でした。肩が開いた、すごく独特な形。この裾からインナーの着物が覗いたらかっこいいだろうなと考えました」
「自分が着たい」という純粋な思いから始まったみさまるさんの創作は、やがて1000年前の平安装束という、着物の中でも特にマイナーな領域へと行き着いた。ユニセックスのアイテムにアップデートされた「平安モード」は大きな話題となる。
「『平安モード』には反省点もあります。ホワイトの平安モードが、神社関係者の方が着る『白丁(はくちょう)』『浄衣(じょうえ)』という衣装に似てしまったんです。私の勉強不足が原因で、神社の境内では着用を控えるよう注意喚起することになりました。
それでも、ホワイトはファッションを楽しむ上で欠かせない色です。今でも、伝統との向き合い方に悩みながら試行錯誤しています」

着物はどこまでアップデートできるのか?

みさまるさんは服飾の専門教育を受けず、アパレル関係の仕事にも就いたことがない、完全なストリート出身だ。正統派の着物ユーザーにリスペクトを示しながら新しい着物を模索するなかで、最近ある言葉に励まされたという。
「京都の着物卸の業者さんとお話ししたときです。伝統とのバランスに悩んでいると打ち明けたら、『伝統を守るのは、芸妓さんや歌舞伎関係など、その道の人たちの仕事。あなたがたは好きに着ればいいんだよ』と言われたんです。
これまでは、着物を着ることは“日本の歴史を背負う責任ある行為”のように感じていました。でも、そんなに気負わなくてもいいのかもしれない、と今は思うようになりました」
そしてブランド立ち上げから1年、株式会社MISAMARUとしての法人化に踏み切った。現在は実店舗の準備を進めている。
この秋の最新作のモチーフは「学ラン」。これまで発表してきたどの和装ジャンルとも異なるデザインの着想源となったのは、大正時代の鉄道員の制服だという。
「着物袖学ラン」 画像提供:みさまる
「京都鉄道博物館で見た、大正9年(1920年)の鉄道員の制服。その洗練されたシルエットや、時を経て生まれた着古し感に惹かれました。そこで、クロップド丈の着物に金ボタンや詰め襟のディテールを取り入れ、コーデしやすいようアレンジしたのが『着物袖学ラン』です」
今回、伝統的な着物よりも明治・大正期という近代の服を取り上げた理由は、意外な和装の歴史との出会いにあるという。
「このアイテムの企画中に日本の制服の歴史を学びました。そのなかで明治期に『改良服』や戦後に『ニューキモノ』という、着物を実用的な衣服にアップデートしようとする運動があったことを知り、強く共感したんです。私も100年以上続く『改良服』の歴史を受け継いでいるんだと」
伝統ある服を再解釈して、ファッションに昇華する。スーツや革靴で常に試みられてきた発想の転換は着物でも可能なはずだ。デザイナーにとっても、それを着る私たちにとっても。

Text by GANTAN

Tags

この記事はいかがでしたか?

シェアリンクをコピーしました

Related Articles

Related Database