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見えない次元からの革新:東レ「ナノデザイン」が設計するテキスタイルの未来

2025.09.05
これまでにも革新的な技術を見せてくれた東レ株式会社。私たちfashion tech newsでも、その動向は常にアンテナを張ってきた。
今回は、同社の持つ繊維の分子構造をナノレベルで制御する革新的技術「NANODESIGN®(ナノデザイン)」に注目したい。この技術は、従来の繊維開発の常識を覆し、デザイン性と機能性、そしてサステナビリティを高度に両立する新素材を次々と生み出しているようだ。
そこで、同社部長の野村建太さんと繊維研究所所長の増田正人さんに、5年以上にわたる開発の軌跡と、その成果である代表的なテキスタイル製品を紐解きながら、同技術がアパレル産業にもたらす可能性を語っていただいた。

PROFILE

野村 建太(のむら けんた)

東レ株式会社 婦人・紳士衣料事業部長

1994年入社。20年にわたる婦人・紳士衣料用のテキスタイル営業を経て、2014年からマレーシアのテキスタイル会社で営業に従事。

2019年よりスポーツ・衣料資材事業部でのスポーツ・アウトドアテキスタイルの営業を経て、2022年から再び現職に。国内外の婦人・紳士衣料用テキスタイルを、さまざまなアパレル向けに販売を行う部署を統括している。

PROFILE

増田 正人(ますだ まさと)

東レ株式会社 繊維研究所長

1999年入社。繊維研究所で汎用繊維の製造プロセス研究に携わり、東京工業大学に出向、産業用繊維の高性能化に関する国家プロジェクトに従事。

2005年4月から社内復帰し、幅広い用途分野の高性能繊維に関わる研究・技術開発に携わる。2025年8月から現職。

「ナノデザイン」の技術とは?

「ナノデザイン」は、繊維の断面を自由自在に操作することができる。
「ナノデザイン」はその名の通り、ナノレベルで繊維を操作する技術となっており、合成繊維を製造する際に、非常に細かいレベルでポリマーを配置できるという。その技術力の高さは素晴らしく、冒頭の画像のように、繊維の断面に「TORAY」の文字を描き出すこともできる。
この技術は、実際にどのような効果を繊維にもたらすのだろうか。
「これまで我々の合成繊維は、天然繊維であるシルクやウールを追いかけることをコンセプトに開発してきました。
今回『ナノデザイン』によって、さまざまな断面を持つ原糸を開発することができました。それにより、これまでにない機能や風合いを持たせるという、夢のようなテキスタイルを生み出せるようになりました」(野村さん)
野村さんによれば、繊維の性質はその構造がすべてを決定するという。そのため、バネのような分子構造を組み込めば、ストレッチ性を実現でき、断面を異型にすれば、天然繊維のような独特の風合いや光沢を生み出せるとのこと。
組み合わせ次第で、これまでには難しかった機能性を持たせることが「ナノデザイン」で可能になった。

5年の歳月をかけた開発プロセスと乗り越えた壁

「ナノデザイン」は、自由自在に繊維の構造を操ることができる。
「ナノデザイン」はそのコンセプトが生まれてから、最初の製品が商業化されるまでに、約5年の歳月を要している。5年と聞くと、比較的早く完成した技術のようにも思われるが、どのような開発プロセスだったのか。
「当時弊社は、繊維の細さを追求する研究を行っていました。そのなかで、従来の方式では限界が見えていたのも事実です。そこで新たな技術の設計・開発が進められました。
その際、エンジニア部門と繊維研究部門が手を取り合い、弊社の強みである溶融紡糸のプロセッシング技術の刷新に迅速に取り組むことができました」(増田さん)
どうやら「ナノデザイン」は単なる素材開発ではなく、生産技術そのものを根底から革新する、同社の威信をかけたプロジェクトだったようだ。この技術は、これまで同社が開発してきた素材以上に、前例のない多様なテキスタイル展開をもたらした。
野村さんは、「この『ナノデザイン』の誕生により、合成繊維開発の現場が、これまでの天然繊維の追求という領域から、天然繊維を超える素材の追求へと変化してきた」と語る。

「uts-FIT®」が実現したストレッチ性

「uts-FIT®」は超極細微細捲縮によって、ストレッチ性と生地表面の凹凸により、さらりとした触感を実現。
では、この「ナノデザイン」によって、どのような素材を作り出すことができるようになったのか。
2016年に発表された「uts-FIT®(ユーティーエス フィット)」は、「ナノデザイン」を応用した最初の製品だ。ポリエステル超極細微細捲縮テキスタイルと呼ばれるもので、適度なストレッチ性と軽やかな風合いが特徴となる。
2種類の樹脂成分を貼り合わせた構造(バイメタル)で、かつ微細なスパイラル構造にすることで、マイクロファイバーでありながら、撥水性や防水性も持たせることができるようになった。そこで現在は、ダウンジャケットの表地やアウターウエアに採用され、動きやすさと快適性を両立する新しい選択肢を提供しているという。

シルクを超える挑戦:「Kinari™」と「Camifu™」の特性

野村さんが先に語ったように、「ナノデザイン」は天然繊維の持つ繊細な風合いや美観を追求するだけでなく、合成繊維ならではの機能性を持たせることができる。その代表例が、2019年に発表された「Kinari™(キナリ)」と2020年の「Camifu™(カミフ)」だ。
「Kinari™」は、シルクの持つ優雅な光沢やきしみ感を再現する。「ナノデザイン」によって繊維断面を複雑な形状に制御し、光の乱反射をコントロールすることで、深みのある光沢とドライなタッチ感を実現した。そこに、家庭で洗濯できるイージーケアという実用性も掛け合わさっている。
「Kinari™」は繊維が作り出す微細空隙によって反射面を分散し、美しい光沢を生み出す。
一方の「Camifu™」は、日本の伝統的な素材である和紙の質感をテーマにしている。繊維の表面に微細な凹凸構造を作り出し、「ナノデザイン」による3種類の異なるポリマーを配置した。これにより、和紙のようなゆらぎのある魅力的な表情を持ちながら、顧客の要望に合わせた機能性を付け加えられるようだ。
断面が扁平のC型となっているのが特徴の「Camifu™」。一部にリサイクルポリマーを使用し、環境への配慮も怠らない。

サステナビリティへの貢献:PFASフリーとリサイクルの実現

2021年にも「Qticle™(キューティクル)」というストレッチ性とイージーケアを特徴とする繊維も開発されたように、「ナノデザイン」の技術は広まりを魅せつつあるが、まだまだ課題は多いという。
「Qticle™」は、繊維表面に微細な凹凸があるバイオミメティクス(生物模倣)テキスタイル。
「現代のアパレル産業において、環境負荷の低減は避けて通れない社会課題ですが、『ナノデザイン』は、このサステナビリティの側面でも重要な役割を担うと考えています。
たとえば、撥水加工などに用いられるPFAS(有機フッ素化合物)は、その環境残留性が世界的に問題視されています。これに対し、『ナノデザイン』を応用した撥水素材『DEWEIGHT™(デューエイト)』は、繊維の表面構造を緻密に設計することで、PFASフリーでありながら高い撥水性を実現しています」(増田さん)
繊維の複雑な凹凸により、空気層を形成し、撥水性を確立。(左)テキスタイル表面、(右)糸束断面
また、欧州を中心にリサイクルができるかどうかの視点も重要だという。海外展開を狙っていくうえでは、機能性を謳うだけでは不十分であり、環境配慮への関心、とりわけ、製品使用後のリサイクルプロセスも視野に入れた循環型経済への貢献度も問われるようだが、そこにも「ナノデザイン」は貢献できるはずだ。

「ナノデザイン」が変えるテキスタイル産業の未来

「ナノデザイン」は、繊維をナノレベルから設計し直すことで、これまでのテキスタイル業界の常識を塗り替えつつある。今後、同社は「ナノデザイン」を携えて、どこへ向かうのか聞いてみた。
「まだまだコストを下げることが難しい技術ですが、まずはファッション用途での可能性を広げていくつもりです。そのうえで、この技術にかけられている期待は社内外でも高いものとなっており、さまざまな分野への応用が期待されています」(野村さん)
「服を着ない日がないように、繊維は日々の生活と切り離せません。少しでも日常をより快適で豊かにできる素材を継続して開発していきたいと思います。また、次世代の情報通信のような成長分野でも『ナノデザイン』の技術を応用して、陰ながら生活を支えていきたいとも考えています」(増田さん)
「ナノデザイン」の技術とそれによって生み出される繊維は、まさにテクノロジーによる未来の創造となるだろう。同社は、テキスタイルの未来をより豊かで持続可能なものへと導いていくはずだ。

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