JA/EN

AI検索

関連ハッシュタグ

Articles

逆さ構造で撥水性を維持! 傘「SAKASANANO」を支える東レの先端素材

2026.09.07
創業40周年を迎えた傘ブランド「ウォーターフロント」が、これまで培ってきた知見を生かし、傘が抱える課題の解決を目指した新商品「SAKASANANO(サカサナノ)」を発売した。価格は税込みで14,300円と傘としては高額ながら、販売を開始すると第1弾は約2週間で完売したという。
東レの先端技術「NANODESIGN®(ナノデザイン)」と、ぬれた面が内側になる逆さ構造を組み合わせたこの傘は、どのように高い撥水性を実現し、その性能を維持するのか。株式会社ウォーターフロントの大島裕貴さんに話を聞いた。

市場から姿を消しつつある「超撥水傘」復活へのチャレンジ

実は昨今、高い撥水性能を謳った傘は市場から消えつつあるという。背景には環境破壊や健康リスクの懸念から、世界的に有機フッ素化合物(PFAS)規制が進んでいることが挙げられる。
「かつて撥水加工は生地をフッ素でコーティングするのが主流でした。それが規制を機に、さまざまなメーカーさんが苦労して新たな撥水素材の開発に取り組みました。その結果、現在も撥水性能を備える商品はあるものの、昔のような超撥水を謳う商品は少なくなっています」
一方で、頻発するゲリラ豪雨など、撥水傘へのニーズはむしろ高まっていると感じていた。従来のフッ素系撥水加工に頼らず、最高水準の撥水性を備えた傘を作ることはできないのか。それが開発のきっかけとなった。

東レが開発したナノレベルの新素材が突破口に

フッ素を使った撥水加工では、生地表面にフッ素で細かな凸凹を作り、水を最小限の接点で支えることで実現していた。
「そこで当初は、生地に別の加工を施すことで同様の効果が得られないかと検討しました。しかし、試作を重ねても実現は難しいことがわかりました」
そんなときに出会ったのが、創立100周年を迎えた東レが発表した技術「NANODESIGN®」だった。
「これは後加工ではなく、糸そのものをナノレベルで設計する画期的な技術でした。従来の合成繊維は、溶かした原料を円形の穴から押し出して作り出します。ところがNANODESIGN®では、その穴をナノレベルで自在に分割・制御できる。たとえば断面が星形や楕円形の糸、内側が空洞になった糸などを、ナノサイズの細さで作り出すことができます。そしてこの技術を使えば、我々が求めている超撥水の生地が作れることがわかりました」
雨粒が非常に面白い形状になる
「SAKASANANO」に採用された素材は、さまざまな太さや断面形状の糸を複雑に組み合わせることで、生地の表面に人間の目には見えない微細な凹凸構造が形成されている。これにより、撥水剤のみに頼るのではなく、水滴が生地に接触する面積を極限まで減らし、玉のように滑り落ちる最高水準の撥水性を実現している。
顕微鏡でしか見えないミクロの世界で撥水性を高める構造を作り出す。このアプローチは、従来の撥水加工とは異なる発想によるものだった。

高い撥水性能を長期間維持するための「逆さ構造」

使用年数を重ねるうちに、傘の撥水性が落ちてきたと感じたことはないだろうか。
「先ほどお伝えしたように、本来は生地表面に凸凹があることで撥水機能を発揮します。ところが使っていくうちに、傘を閉じるときに付着する手の脂によってその溝が埋まり、撥水性が落ちていくのです。また傘を巻くときの圧力などによって突起部が潰れることも、同様に撥水性能が落ちる要因になります」
この問題を解決したのが、同社が6〜7年前から展開していた「逆さ構造」の傘だった。傘を閉じるとぬれた面が内側になるこの構造は、それまで機能性よりも「ユニークさ」を強調したバラエティグッズとしての側面が強かった。しかし、撥水性能が落ちる一因が「生地に手が触れること」であるならば、触らずに畳めるこの構造こそが本質的な解決策になりうると考えられた。
最先端素材の「NANODESIGN®」とこの逆さ構造が融合することで、持続性の高い超撥水機能を実現した。
傘を逆さに畳む構造を採用した「SAKASANANO」。手の脂や汚れが撥水面につきにくく、高い撥水性能を維持しやすい設計となっている。14,300円(税込)
「ただNANODESIGN®は傘用の生地ではなかったため、他の問題が浮上しました。特に問題だったのが耐水圧です」
撥水性と耐水圧は似て非なるものだと大島さんは語る。
「撥水性は水を弾く機能ですが、耐水圧は生地の表面に水が染み込もうとする力に、裏面へ水を通さずどれくらい耐えられるかを示すものです」
たとえばシリンダーの間に生地を挟み、上から水を加えていく。どれだけの水圧をかけると下のシリンダーに水が垂れてくるのかを測るのが、耐水圧の試験である。耐水圧が低いと、豪雨などで雨粒が強く当たった際に、内側に水が漏れてくることになる。
「当初の素材ではこの耐水圧が非常に弱く、傘には使えないものでした。そこで糸の密度を極限まで上げることで、耐水圧を高めることに成功しました」

長年培った知見を生かし、構造上の課題を解決

構造上にも課題が発生した。密度を高めたために生地が想定以上に分厚くなり、閉じ切れなくなってしまったのだ。そこで閉じる力を補助するためのバネを内部に追加した。この改良は結果的に、傘が自立する際の安定性を高めるという副次的な効果も生んだという。
「また、SAKASANANOは生地が2枚仕立てになっているため、開閉時に生地同士が張り付きやすくなります。そこで内側の生地にベンチレーションの穴を開けています」
ベンチレーションの穴ひとつとっても、何度も試作が重ねられた
この穴はプロダクトデザイナーを務めた角田陽太さんとの間でミリ単位の攻防が続いたという。
「角田さんからはデザインの観点から穴を少なくしたいとリクエストをいただいたのですが、品質管理を考えると一定数の穴は必要でした。穴の大きさや数など、デザインと機能性が折り合うのはどこか、数ミリ単位で何度も確認しました」
細部にまでこだわり、無駄を削ぎ落としたデザインになっている

逆さ構造がもたらした副次的な機能

撥水性の維持のために採用された逆さ構造だが、ぬれた面が内側になる利点は多い。
「たとえば車に乗るとき、傘についた雨粒で車内がぬれるのが嫌だという方、電車でシートに座って脚の間に傘を挟んだときに服がぬれるのが嫌だという方は、この商品がそのストレスを解決してくれるはずです」
愛車のシートを雨粒から守ることもできる
さらには自立するため、置き場所に困りにくいのも利点だろう。
また構造上、生地が2枚仕立てになったことで、外側の生地は取り外して交換できるように設計されている。どれだけ優れた撥水生地でも、紫外線や汚れによる経年劣化は避けられない。しかしSAKASANANOなら外側の生地だけを新しいものに交換することによって、高い撥水性能を維持しながら一本の傘を長く使い続けることが可能だ。ウォーターフロントでは、この考え方を「育てる傘」と表現している。
傘骨は「長傘と折り畳み傘の間のような構造になっている」と大島さんは語る
「壊れたら捨てる、撥水しなくなったら捨てるという断続的なものではなくて、機能を復活させて、長い時間をかけて楽しんでもらいたいという思いが込められています。また、将来的にさらに高い機能性を持った生地ができたときも、外側だけを付け替えることもできますし、デザインバリエーションの展開も考えています」

撥水機能を維持させる、傘のプロが教えるライフハック

SAKASANANOは高い撥水性を長く維持させる機能を持っているが、実は手持ちの傘でも撥水性を回復させる方法があるという。
「撥水性が落ちるのは凹凸がなくなってしまったせいですから、傘をひろげて、38〜40度程度の温水シャワーで表面の汚れを洗い流します。陰干しをしたら、生地から3〜5cm離してドライヤーの熱を当てるか、ドライ中温にしたアイロンを軽くかけましょう。このとき、スチーム機能を使うと生地が水分を含んでしまうため、必ずドライにするのがポイントです」
また、雨にはさまざまな汚れが含まれているため、使い終わったら水滴をよく乾かすことも大切だという。
「傘の水気を切るときは、傘を閉じた状態で先端を下に向け、ハンドル部分を持って地面に向かって軽くトントンと叩くといいでしょう。これなら周りに人がいる状況でも、スペースを取らず簡単に雨粒を払い落とすことができます」
日々の少しの工夫で、傘の撥水性を長持ちさせることができるのだ。
傘が抱える課題に向き合ったことで、「SAKASANANO」は想像を超える売れ行きを見せているという。素材だけでなく構造まで見直し、撥水性能を長く維持するための工夫を重ねた。素材と構造の両面から、傘の使いやすさを再設計したプロダクトといえる。

PROFILE

大島 裕貴(おおしま ゆうき)

株式会社ウォーターフロント 
SCM部部長兼経営戦略室/マーケティング室室長

Text by Junko Hayashida

Tags

この記事はいかがでしたか?

シェアリンクをコピーしました

Related Articles

Related Database