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自動車・ロボットの試作を手がける企業から誕生したアパレルブランド:「ritsu(リツ)」
2013年にオバマ前大統領が演説でモノづくりの可能性を示してから、一気に関心が集まった3Dプリンター。今では産業界だけではなく、一般層にまで広まり、世界のモノづくりは新しい時代に突入したともいえるだろう。
試作品事業に用いる3Dプリンターを駆使したアクセサリーをはじめ、ritsuの抽象画に溶け込むような美しいデザインは、工業製品で培った日南の技術がベースにあることに驚かされる。
では、日南の技術力とritsuは、どのようにしてクリエイティブを展開してきたのだろうか。今回はritsuブランドディレクターの堀江りつさんにお話を伺った。
日南の技術力とアパレルの出会い
工業製品とアパレルは、同じモノづくりでありながら一見異なるジャンルのように思えるが、ritsuにとって日南の技術は不可欠な存在だ。日南は自動車やロボットなどの工業製品の試作品製造を担う開発支援企業として、さまざまなメーカー企業の製品開発をサポートしている。
「私たち日南は、自動車メーカーやオーディオメーカーなど、各業界のメーカーが開発段階で必要とするさまざまな試作品の製作を通じて開発支援を行っている企業です。
たとえば、東京ビッグサイトなどで展示される原寸大の新型モデルのモックアップなどを手がけています。つまり実機ではなく、開発段階での検討用モデルをつくるというイメージですね」
アパレルのサンプルが試着によって実生活での使用イメージを明確にするように、工業製品においても、試作の段階から実機に近いビジュアルや動きがモデルには求められるという。

「モックアップでも、実際に動く試作品(リアルプロトタイプ)を求めるクライアントが多いです。アパレル業界で例えると、実際に試着できるサンプルのようなイメージですね。
AIやシミュレーション映像などでお客様に開発イメージを提供する場合も増えていますが、それだけではなく、自動的に動く装置を備えたモックアップや、できる限り実機に近いモックアップも製作します。それらを実現するには設計が不可欠なので、そういった工程に対応できる部門も社内に有しています。
最終的に量産品につながる試作品なので、デザインを実際に形にするための機械、製造設備もすべて社内に揃えています。また、大手メーカーのデザインセンターと相談しながら、来年や再来年に発売される車や家電製品などのデザイン業務を請け負うこともあります」

日南の工場を見学すると、その規模に驚かされる。3Dプリンターをはじめ、車のシートの縫製、印刷加工、粘土模型、塗装、システム開発など、あらゆる試作品の製作が可能な環境が整っている。自動車からオーディオ機器まで、私たちが日常的に目にしているメーカーの製品のほとんどが、こうした試作プロセスから生まれているのだ。
こうした背景のもと、モノづくりで培った高い技術力と品質を融合させたアパレルブランドとして、ritsuはスタートした。
3Dプリンターで表現するボホ・シックの世界
ritsuのブランドコンセプト「ボホ・シック」は、自由で民族的なスタイルのボホ(ボヘミアン)とシックの持つ上品な雰囲気をミックスさせ、ロマンティックで絵画のような世界観を提案している。オリジナルのレースや美しいラインを引き立てるフリルのシルエット、細部にまでこだわったアイテムは、ロマンティックでありながらも自然体で、どこか東洋の凛とした雰囲気を纏っている。


3Dプリンターで製作されたアクセサリーやボタンは、工業製品がベースとは思えないほど繊細なディテールを持ち、すべて手作業で仕上げたような佇まいと艶やかな質感が特徴的だ。アパレル事業を展開する上で、3Dプリンターを導入するきっかけは日南の代表取締役とデザイン本部の上司の提案だったという。
「私が入社したときは、まだ日南では3Dプリンターを導入して間もない頃で、その可能性を手探りしている時期でした。そのときに、代表取締役と私の上司から『3Dプリンターはファッションに使えるのではないか』という提案があり、ritsuがスタートしました」

ritsuのロマンティックなアイテムを具現化するのに3Dプリンターは必要不可欠なものだが、堀江さんにとってはどういった存在なのだろうか。
「私にとって、3Dプリンターは恩人のような存在です。
最初にritsuで人気が出たのは、3Dプリンターで作った指輪でした。それがすごく自信につながったというか。自分が形にしたいと思って作ったものに対して反響をもらえたことに感動を覚えて、さらにブランドを良くしていこうと思えました。
そのきっかけが3Dプリンターで作ったアクセサリーだったので、本当にこの技術には感謝していますね」
堀江さんは、日本の大学を卒業後、ニューヨークに留学。パーソンズ美術大学(Parsons School of Design)でファッションを学び、複数ブランドでの研修を経て、日南に入社した。また、高校の3年間もニューヨークで過ごした、インターナショナルな経歴の持ち主だ。
海外生活の長い堀江さんだが、ritsuのコンセプトでもある「ボホ・シック」との出会いはいつ頃だったのだろうか。
「中学生の頃、母親とショッピングをしていたときにボーホー・ファッションと出会いました。デパートで売っていた素敵な紫のシフォンドレスに衝撃を受けたのをよく覚えています。
それまではファッションにあまり興味がなかったのですが、そのときの感動が忘れられず、ファッションについて深く勉強をして、現代的に落とし込んだ『ボホ・シック』に辿り着きました」


クリエイターの理想を叶える、3Dプリンターから広がる未来
世の中では一般家庭用の3Dプリンターがすでに販売されてはいるものの、私たちのそれに対する知識はいまだに乏しいことが多い。しかし、想像以上に3Dプリンターは多くの可能性を秘めていることが、ritsuのアイテムに触れるとよく理解できる。実際にritsuの展示会でも、その独特の質感や細部のディテールに多くの反響があるという。
工業用の3Dプリンターでは、より精度の高いモノづくりが可能だが、そこには熟練した技術者の力があってこそ成立する。
「3Dプリンターは、デザインをデータ化したものを元に出力されます。プリンターというと平面のイメージが強いですが、3Dプリンターの場合は『サポート材』という半透明の粘土のようなものに包まれて立体的に出力されます。
そのサポート材から物体を掘り起こすには技術者が必要ですし、クリア加工で周りをきれいに塗装することも必要になります。クリア加工を施すときに均一にツヤ感を出すためには、やはり熟練の技術者の方が美しく仕上げられますね」
デザイナーの頭の中にあるクリエイティブな要素を具現化することにおいて、3Dプリンターの可能性は未知数だ。しかし、まだこの技術が活用される業界は限られていると堀江さんは話す。
「日頃から多くの業界と関わっていますが、アパレル業界で3Dプリンターを使用して何かプロジェクトが完結するということはまだあまりないですね。
メーカー側も手探りの状態だったりするので、これからもっと多くの可能性をritsuで示すことができたらと思っています。3Dプリンターは大量生産には向かないですが、工程とクオリティにおいてはその一つひとつに価値があると思います」
2022年のコレクションからスタートしたritsuは、ボホ・シックなスタイルとともに、工業用3Dプリンターをいち早く導入したアパレルブランドとして注目を集めている。今後も3Dプリンターの可能性をクリエイターに示すとともに、海外展開も視野に入れていると話す。

「日本で3Dプリンターを認知させてから、いずれはritsuを海外でも展開したいと思っています。ritsuのアクセサリーやお洋服の美しさを知っていただけたらうれしいですね。
まだ先の話になりそうですが、ritsuが海外に進出する頃には、3Dプリンターで作るアクセサリーの可能性に人々の注目が集まり、さらに需要が増えているといいなと思います」
日南の技術力とritsuが展開するクリエイティブは、今後も多くの人の関心を集めることだろう。その先駆者として、ritsuが提案するデザインは未知数の可能性を秘めている。ritsuが生み出すクリエイティブとともに、クリエイターにとって新しい未来が訪れることへの期待が高まる。
PROFILE
堀江 りつ(ほりえ りつ)
ritsuブランドディレクター
パーソンズ美術大学卒業後、ニューヨークブランドにて経験を積み帰国
その後、開発総合支援企業として自動車・家電の試作品製作や新商品開発を行う株式会社日南の、業界トップを誇る技術力と設備を従来のBtoBだけではなくBtoCにも活かせないかと考え、アパレルを融合させた自社ブランド「ritsu」を設立
Text by Tajimax









