

Articles
沖縄のさとうきび畑を救う一本の糸:SHIMA DENIM WORKSが描く循環経済の未来
沖縄県の基幹作物であるさとうきびの副産物「バガス」を活用し、新たなサステナブル素材の開発に取り組む企業がある。それがSHIMA DENIM WORKSだ。同社の代表である山本直人さんは、沖縄の原風景を守り、そして地域産業の活性化を目指すという信念から、この事業を始動した。
一枚のデニムに込められた、地域創生と日本のものづくり技術を結集した循環経済への挑戦について伺ってきた。
PROFILE

山本 直人(やまもと なおと)
大学卒業後、全国各地の地域活性化プロジェクトに携わる広告代理店で企画立案・商品開発・ブランディングを担当。
2018年に独立し、未利用資源のアップサイクルを通じ地域創生を目指す株式会社Rinnovationを設立。
同年10月に、さとうきびの搾りかす「バガス」をアップサイクルした製品を販売する「SHIMA DENIM WORKS」を開業。
2021年には、サステナブル素材のR&D、製造、販売を行うCurelabo株式会社を設立。
全国21ヶ所で約30種類の残渣のアップサイクルを手掛けるなど、沖縄発のビジネスモデルを国内外に向け展開し、事業をスケールアップさせている。
観光産業の影で衰退するさとうきび畑の現状
沖縄県の観光産業は過去20年間で飛躍的な成長を遂げ、年間1,000万人規模の観光客が訪れる地域となった。一方で、限られたリソースが観光産業に集中することで、一次産業への影響が顕著に表れている地域でもある。沖縄の耕地面積の半数を占める基幹作物であるさとうきび産業も、人手不足などを背景に衰退傾向にあり、本島内の製糖工場は統廃合が進んだという。さとうきびは砂糖の原料となるだけでなく、世界における農作物の中で最大級の生産量を誇る植物でもあり、大量の二酸化炭素を吸収する役割を持っている。さらに沖縄においては、赤土の海洋流出を防ぎサンゴ礁を保護するなど、環境保全の観点でも極めて重要な役割を果たしている。
観光系の広告代理店に17年間勤務し、地域経済の活性化に携わっていた山本さんは、観光産業の成長に伴う一次産業の衰退という構造的な課題に直面した。持続可能な地域社会を実現するためには、観光産業と自然環境が共生できる仕組みが必要であると考え、沖縄の原風景であるさとうきび畑を守るための事業構想をスタートさせた。
バガスに価値を与える
さとうきびから砂糖を精製する過程では、糖蜜や「バガス」と呼ばれる茎の搾りかすが大量に発生する。バガスの一部は製糖工場のボイラー燃料としてサーマルリサイクルされたり、農地の堆肥として利用されたりしている。しかし、使いきれない余剰バガスが大量に発生しているという問題が常態化していた。
燃料としての価値は1キログラムあたり約26.5円、堆肥としては約1.5円にとどまり、利用したところで経済的な付加価値は非常に低いという課題も存在している。輸送や加工にかかるエネルギーコストを考慮すると、既存のリサイクル手法だけではさとうきび産業の収益性向上には直結しないだろう。
そこで山本さんは、このバガスを高付加価値化するアップサイクルの仕組みを構築し、さとうきび産業全体のリブランディングを図ることを目指した。アパレル産業が石油産業に次ぐ環境負荷を抱えているという課題に着目し、人々の生活に欠かせない衣食住の「衣」の領域において、バガスを原料とした新たな繊維開発へと乗り出した。
混抄技術と紙糸の生産
バガスから繊維を作るという前例のない挑戦は、困難の連続だった。山本さんはバガスの主成分であるセルロース(食物繊維)に注目し、日本の伝統的な和紙の製造技術に着目した。乾燥させて粉砕したバガスのパウダーと、紙の原料として使われるマニラ麻の長繊維を結合させる「混抄(こんしょう)」という手法で紙を作る技術を模索していく。
ところが、その道のりは平坦ではなかった。特に困難を極めたのが、開発に協力してくれる工場を見つけることだった。薄い紙を製造できる機械は全国でも数が少なく、大手企業からは高額な開発費や、現実的ではない大量ロットでの生産を条件として提示されたという。
しかし、さまざまな人の協力を得て、ある製紙工場との協業が実現した。
技術面においても、性質の異なる2つの植物を混ぜ合わせる混抄紙(こんしょうし)は、強度を保つのが難しい。バガスの混合率を上げれば環境的意義は高まるが、紙の強度は著しく低下する。スリット加工や撚糸工程での物性テスト、さらに製織・編成時の風合いの確認を繰り返した結果、品質が安定するバガスの配合率は約20〜30%であることが導き出された。

吸水速乾・消臭・抗菌を備えた、新しい機能性繊維
こうして生まれたバガス由来の紙糸は、従来の繊維にはないユニークな特性を持つ。最大の特徴は、綿の半分以下というその「軽さ」である。また、原料である紙が持つ多孔質な構造は、優れた吸水速乾性を実現する。さらに、検査の結果、高い消臭性と抗菌性も確認され、機能性繊維としてのポテンシャルを秘めていることが明らかになった。バガスに含まれるポリフェノール類が、これらの機能性に寄与しているようだ。
この特別な糸を緯糸に、経糸にはコットンを使用し、デニムの産地として名高い広島県福山市の機屋と連携して織り上げたのが「SHIMA DENIM」である。

着用当初は紙由来のハリ感やシャリ感があるが、履き込むうちに水分を吸収し、持ち主の身体に馴染んで柔らかく変化していく。
また、デニムの経年変化にも独自性が生まれる。裏側に見える緯糸が真っ白ではなく、バガス由来の自然な薄茶色であるため、色落ちが進むと一般的なデニムとは一味違う、深みのあるヴィンテージのような風合いを醸し出すのだ。
沖縄から全国へ広がる循環型サプライチェーン
SHIMA DENIM WORKSの取り組みは、沖縄だけで完結するものではない点にも注目したい。山本さんは、沖縄を起点としながら、日本各地に残る優れたものづくり技術を持つ事業者と連携するオールジャパンのサプライチェーン構築を目指している。安価な海外製品に押され、衰退しつつある日本の各産地と連携し、適正な価格で高品質な製品を生み出すことで、日本全体の地域創生に貢献したいという考えだ。その活動は、さとうきび以外の未利用資源にも広がっている。
広島県福山市では、市の花であるバラの剪定枝から糸を作り「バラから生まれたデニム」を開発した。山形県では、さくらんぼの剪定枝を原料にしたニット製品や、新入学児童に贈る「さくらんぼノート」を製作している。

さらに、サッポロビールのモルトフィードや、ホップの収穫時に出る茎や葉、明治のチョコレートの原料であるカカオの皮、ミズノが契約するプロ野球選手の折れたバットなど、大手企業とも連携し、事業活動で生まれる副産物をアップサイクルする事例も次々と生まれている。
循環経済で描く未来の風景
SHIMA DENIM WORKSの挑戦は、まだ始まったばかりだ。山本さんは、長期的な視点で、沖縄に新たな二次産業である繊維産業を根付かせる構想を描いている。現在は県外に依存している原料加工や糸づくりの工程を沖縄県内に誘致し、新たな雇用を創出することで、真の地域創生に貢献したいと考えていると語ってくれた。

同時に、その視線は海外へも向けられている。環境意識の高いヨーロッパの展示会などへ積極的に出展し、日本の技術から生まれたエシカルな素材として高い関心を集めている。国内市場だけでなく、海外への販路を確立することで、持続可能な経済基盤を構築する予定だ。
そして将来的には、沖縄で確立したこのビジネスモデルを、タイをはじめとする世界の主要さとうきび生産国へと展開していくことも視野に入れているという。
一本のデニムから始まった物語は、沖縄の原風景を守り、日本のものづくりを繋ぎ、やがては世界の循環型社会を創造する大きなうねりを生み出そうとしている。




.jpg?w=328&fm=webp)






