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2023.10.19

創業145年の技術が込められた刺繍アクセサリー「000(トリプル・オゥ)」

群馬県の桐生市で帯の織物業として創業した株式会社笠盛。現在は刺繍業へと転向し、長年培ってきた経験を携え、最先端の機械織りも取り入れながら、新たな技術や商品の開発に勤しんでいる。
同社を代表する技術である「kasamoriレース」、それを用いた自社ブランドの刺繍アクセサリーが「000(トリプル・オゥ)」だ。
私たちが「刺繍」と聞くと、スカジャンのように全面に施された柄や、シャツやバッグにワンポイントで施されたものを想像するだろう。当たり前かと思われるかもしれないが、それらはいずれも布地に糸が縫われている。今回紹介するアクセサリーはそうした布地が一切ない、まったく新しい商品だ。
前例のない商品や技術への挑戦。その原動力はどこにあったのか。同社広報部の野村文子さんに伺った。
PROFILE|プロフィール
野村 文子(ノムラ アヤコ)
野村 文子(ノムラ アヤコ)

株式会社笠盛広報担当。
2016年笠盛入社。ミシンオペレーターの経験を経て広報担当に就任。
「000(トリプル・オゥ)」を通して織物の街桐生の魅力を全国に発信している。

群馬県桐生市の老舗「笠盛」

群馬県桐生市のホームページに「観光・文化」というページがある。そのページを開くと、豪華絢爛な日本文化を想起させるデザインが目に入る。「古くから織物のまちとして発展してきた桐生市」とあり、1300年ほど前から続く織物の歴史を有する町だとわかる。
その桐生市で、1877年に帯の機屋(はたや)として創業したのが株式会社笠盛だ。1949年には同社の最初の発明とされる「笠盛献上帯」があり、一時は桐生市内の機屋の総出荷額の3割を占めたとも言われている。
しかし時代の流れから、和装市場は縮小していく。その兆候を読み取った同社は1962年に刺繍業へと転身し、アパレルメーカーやブランド向けの刺繍加工業を事業の柱としてきた。
こうした方向転換が成功した背景には、同社がすでに帯の生産で高い技術力を有していたことに加え、桐生市内には糸屋や染色、刺繍、織り、縫製などに特化した繊維業には不可欠な工場が揃っていることも理由のひとつだった。
野村さんが「社内にノウハウがないというときでも、市内にはその道のベテラン職人が揃っており、アドバイスをくださるのもこの地域の魅力です」と語るように、伝統産業を支えてきた町ならではの強みがある。
そうした帯や刺繍の文化を支えてきた同社が、オリジナルブランドとして2010年に発表したのが「000」だ。

kasamoriレースから「000」へ

「000」は「糸で立体のアクセサリーを作る」をコンセプトにしている。その着想の背景には、「kasamoriレース」の存在があった。2005年に開発がはじまり、ケミカル刺繍を応用して「布から開放した刺繍のレース」を作り上げた。
「刺繍は通常は生地等の土台があって、その上に糸を刺していくのですが、kasamoriレースは刺繍のみで形づくられております」
その技術力の高さと前例のなさが認められ、パリの国際見本市モーダモンではVIP PRODUCTSを受賞しているほどだ。
この開発の背景には、4代目笠原康利の考えがある。同社は2001年にインドネシアに工場を設置したが、現地の人とのコミュニケーション不足や文化の違いからうまくいかず、4年で撤退をした。
そのとき笠原さんは「日本で作ったものを海外で売る」ことを中心に据え、「海外に笠盛の刺繍技術を広めていきたい」という思いから、kasamoriレースの開発に着手したとのこと。
だが、刺繍をアクセサリーにするという考えはどこから得たのだろうか。
「ブランドスタート時から糸で『珠』を作るアイディアは出ておりましたが、当時はできないだろうという声の方が多かったです。やがて平面的なアクセサリーを展開するなかで、2次元のデザインの表現に限界を感じはじめ、本格的に『珠』の開発をはじめることになりました」
できないと言われても「既成概念にとらわれない発想を大事にし、できないと思われているものが形にできたら、ブランドの柱となるアイテムが生まれるはず」という強い信念があったという。
もっとも大きかったのは、普段使いできるものがほしいというお客様からの声だった。
「軽くて、つけ心地も最高で、待ってました! という声が聞けるのではないかというところから、不可能だと思っていた立体刺繍を完成させることができました。待っている人がいるから、技術開発する理由がある。諦めない理由がそこにあります」
「発想」(=想いやる気持ち&やさしさ)を形にするために、最高の素材と、高いレベルの技術を磨き続けることをモットーとしている。同社の思いはブランド名にも込められており、「000」の3つの0は「発想、素材、技術の既成概念を一度0にリセットして、新しいものを生み出す」ことを表している。
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