近年、顧客情報の分析やパターン予想などにおけるAIの活用がますます進んでいる。そんななか、AIの得意とする特徴の抽出という能力や、フルカラー3Dプリンターの造形技術を活用し、モノ作りへの応用を模索するAIデザインプロジェクトが「mitate」である。
「mitate」を開発したのは、株式会社quantumだ。同社は、2016年に博報堂グループのスタートアップ・スタジオとして創業して以来、クリエイティビティを軸にした事業開発により、自社事業やパートナー企業との連携、ジョイントベンチャーの組成などにより、様々な新規プロダクトやサービスを生み出している。
今年の4月には、株式会社ストラタシス・ジャパンと共に「mitate」初の展示会も行った。今回、同社常務執行役員 / チーフデザイナーの門田 慎太郎(もんでん しんたろう)さんに、「mitate」の成り立ちから今後の可能性についてのお話を伺った。
人とAIが共に制作をすることの可能性を求めて
「mitate」の概要について教えてください。
「mitate」は、mitate AIと名付けた画像生成系AI(GAN)が器の「見立て」を行って生成した画像を元に、デザイナーが3Dデータを作成し、それらをフルカラー3Dプリンターで出力、実際に手を触れられるプロダクトとしての器を制作するというプロジェクトです。このプロ ジェクトは、高解像度画像の生成と画像スタイルの変換が可能な、NVIDIAが開発したStyleGANというAIを使用して、そのAIに大量の器の画像を学習させたニューラルネットワーク(mitate AI)を構築するところから始まりました。
mitate AIに果物、動物、風景などの画像を入力すると、AIがそれらの画像を「見立て」た実在しない器の画像を生成します。ここからは人の仕事ですが、デザイナーがmitate AIの生成した画像から美しいものを選定し、アウトラインを元に3Dデータを作成。それらを3Dプリンターで出力するというのが器を制作するまでの一連の流れとなります。
こちらのプロジェクトはどのような経緯や目的で始められたのでしょうか。
「mitate」は、デザイナーがAIの得意とする特徴の抽出という能力や、フルカラー3Dプリンターの造形技術を活用し、モノ作りへの応用を模索する目的で始めたデザインリサーチです。デザイナーはいつの時代も常に新しいテクノロジーをモノ作りのために取り入れ、プロダクトを生み出してきました。生産加工技術の発達、先端素材開発、デジタルツールの進化などは、製作の幅、質を大きく変え、これまでにないデザインを可能にしています。
当プロジェクトでは、私たちの身近な道具である器を人とAIが共にデザインすることで、両者のモノに対する認知の違い、そして両者が共に制作を行うことの可能性を探ってみました。
mitate AIと他の画像生成系AIの違いや、mitate AIならではの特徴はどこにあると考えていますか。
mitate AIで使われたStyleGANは、人の顔の画像を学習させ、あたかも実在するような高解像度の架空人物の顔の画像を生成することに、使われることが多いです。しかし、mitate AIには大量に器の画像を学習させた後、敢えて器と無関係な物体画像をターゲットとして入力し、できるだけ物体に似た架空の器を生成させる(見立てさせる)という難題を課し ています。
そのため、生成された画像はぼやけや滲み、歪みがあり、比較的解像度が低く見える仕上がりになりますが、その生成画像の偶発性や意外性をデザイナーが美しさとして捉えて、選定し、具現化するプロセスにこそ「mitate」の特徴があると言えます。
それはまるで、窯の蓋を開けてみるまでどんなデザインになるのかわからない、本当の器の焼成のようであり、釉薬(ゆうやく)のタレや焦げというある種のエラーを美しいととらえる感性に通じるものがあると思います。