Fashion Tech News symbol
Fashion Tech News logo
2024.03.06

「agnès b.」の魅力を徹底解剖 現役デザイナーのオフィススペース&アトリエへ足を踏み入れる

2025年で創設50周年を迎えるフランス発ファッションブランド「agnès b.(アニエスべー)」。
創設者のアニエス・トゥルブレ(Agnès Troublé)は、82歳となった現在もデザイナーとしてブランドを統括し、パリ10区に構える本社でチームとともにコレクション制作に勤しんでいる。
今回は、オフィスとショールーム、アトリエを備えた本社を訪れ、その歩みと制作背景を覗いていく。

フランスを代表するデザイナー、アニエス・トゥルブレ

アニエスは1941年、フランス・ヴェルサイユで弁護士家庭に生まれた。ブランド名となる「agnès b.」は最初の夫であったブルゴワ姓の頭文字から取ったものである。
芸術を愛する父親の影響を受け、美術館のキュレーターを目指して、ヴェルサイユ美術学校に入学。美術学校卒業後、17歳で結婚・出産を経験し、1960年代には雑誌ELLEでエディターとして働いた後、多くのビッグメゾンのフリーランス・デザイナーとして活動した。
そして離婚を経て、幼い双子の息子を抱えたシングルマザーになった彼女は、意を決して1975年に自らの名を冠したブランドを立ち上げた。
第1号店として、パリ・ジュール通りにブティックをオープン。古い精肉店の店舗を改造したこのブティックは、退廃的な要素とアヴァンギャルド感が交わる最先端のスタイルと評され、ファッションの都パリでも大きな話題となった。
彼女の服のようにシンプルだが人々に強い印象を与えるブティックは人気を博し、ボーダーTシャツやパールボタン付きのカーディガンプレッションといった、爆発的なヒット商品とともにブランドの知名度を上げていく。
設立当初より使用されているロゴ、レザール(トカゲ)をあしらったTシャツや小物は、現在も変わらずブランドのアイコンとして広く親しまれている。アニエスはトカゲが好きな理由について、「普段は怠け者で太陽の陽だまりの中で寝ているのに、危険を察知したらあっという間にいなくなる、怠け者と行動性の二面性を持っているところが好き」と話したという。
1980年にはニューヨークに2号店を出店。その後、欧州とアジアに進出し、今では世界で200店舗以上を展開する人気のブランドにまで成長している。
プライベートではこれまでに2度の離婚を経験し、3人の夫の間に5人の子ども、そして10人以上の孫にも恵まれた彼女は、たくさんの家族に囲まれながらビジネスパーソンとして大きな成功を収め、フランスを代表するデザイナーのひとりとして君臨する。

日本の職人も一翼を担う

「agnès b.」はシンプルで着心地がよく、ディテールにまで配慮された上質でベーシックなアイテムが支持されているブランドだ。持続可能性という言葉が謳われるずっと以前から、長く着られるタイムレスなデザインを基盤にしてきた。
現在展開しているラインは、レディースのファム(FEMME)をはじめ、メンズのオム(HOMME)、キッズ&ベビーのアンファン(ENFANT)、バッグや服飾雑貨のボヤージュ(VOYAGE)、日本でのみ展開しているレディースセカンドラインのトゥービー バイ アニエスベー(To b. by agnès b.)と幅広く、その全てにアニエス自身がデザインとセレクトに携わっている。
これら全てのコレクションは、パリ10区に位置する本社で生み出されている。吹き抜けの開放感ある地上階は、ショールームとして最新コレクションを展示するスペース。訪問時は2024-25年秋冬シーズンのメンズコレクションが並べられており、壁には着想源となった映画のポスターが飾られ、そのシーズンの世界観を伝えてくる。
そのアイテムの中には、日本で生産されたジーンズやウールも含まれる。「agnès b.」は美しい洋服に仕立て上げる、日本の職人が受け継ぐ伝統技術と、ディテールまで行き届いた丁寧なものづくりの姿勢に魅せられ、北は北海道の網走から南は熊本の荒尾まで、現在59に上る生産者と協業している。
ブランドのアイコンであるボーダーTシャツとカーディガンプレッションの縫製は、島根県を拠点とするカットソー縫製工場「島根ナカムラ」で裁断と縫製が行われ、さらにカーディガンプレッションは1889年創業の岐阜県にある染色加工業「艶金」で、環境に配慮した手法で染色されている。
「agnès b.」の高品質なアイテムは、フランスはもちろんのこと、日本の職人もその一翼を担っているのだ。
1 / 2 ページ
この記事をシェアする