ハイエンドライン「Made in USA」から当時の最高のテクノロジーと厳選された素材を贅沢に使用し、2010年に登場したニューバランス「MR2002」。その圧倒的な存在感とハイテクなデザインは一世を風靡し、現在は「ML2002R」として復刻され、依然高い人気を誇っている。
今回はそんな人気モデルが現在の地位を築くまでのストーリーと、ニューバランスが見据えるその先を、ニューバランスに精通しているスニーカーシーンのキーマンであるミタスニーカーズのクリエイティブ ディレクター国井栄之さんに伺った。
国井さんが履きつぶすほどの履き心地だった「MR2002」
ニューバランス「MR2002」は1000シリーズの9代目として2010年に発売されたモデル。1985年誕生の「1300」、その次の「1400」まではアッパーに天然皮革を使用していたが「1500」からはシンセティックレザーに変更され、久々に天然皮革を採用したのが、この「MR2002」だった。当時の印象を国井さんはこう語る。「『1300』から始まり、プレステージモデルと位置づけられる1000番台シリーズで2001年に『M2000』が発売されてから、『MR2002』の発売までかなりの期間、ブランクがありました。
満を持して登場した『MR2002』でしたが、カラーリングも従来のグレーではなくチャコールグレーをベースにしていて、シルエットやソールのテクノロジーもパフォーマンス寄りのデザインだったので、かなり賛否が分かれるモデルでした。
自分も正直なところを言うと“これがプレステージか……、どうなんだろう”と思っていました。そこに当時のニューバランスの『MR2002』担当であった正能哲也さんから、“だまされたと思って履いてみて!”と一足渡されて履いてみたところ、衝撃を受けたのを覚えています。
車に例えると、その業界のベンチマークになるようなモデルが一新されるタイミングは賛否両論あると思います。“前のモデルの方が良かった”という意見も当然出ると思いますが、時間の経過と共にそのフルモデルチェンジが評価され、その新たなモデルを元に他のメーカーもそのデザインや機能を追随するような現象が起こると思います。『MR2002』の登場はまさにそれにあたり ます。
自分はスニーカーを履きつぶすことはあまりないのですが、久々に履きつぶしたうちの一足がこの『MR2002』だったんですよ。自分も靴屋なので、ファーストインプレッションで選り好みせずいろいろなスニーカーを履きますが、第一印象と実際に履き続けてからの印象が大きく変わったスニーカーでした」
それもそのはず。オリジナルの「MR2002」はアメリカ・メイン州にあるニューバランスの自社工場で最高の技術力を誇る「Super Team33」という職人集団が製造を担当。クオリティの高い天然皮革のアッパー、ラストの改良やミッドソールのクッション素材「N-Ergy」により、最上級の履き心地を実現したプレミアムなモデルだったのだから。
オリジナルから10年経ち、満を持して復刻された「ML2002R」
前述したような背景もあり、国井さんの中ではニューバランス「MR2002」は特別な存在だった。オリジナルの「MR2002」と復刻された「ML2002R」ではその特徴も異なっている。それに関しても国井さんはこう説明してくれた。「オリジナルと復刻版の一番の違いはソールユニットです。『ML2002R』では、ソールユニットに『860v2』のソールユニットを流用して作られています。当時はフルレングスで搭載されていた独自のテクノロジーである「N-Ergy」をヒール部分にのみ採用し、「ABZORB(アブゾーブ)」も組み合わせていることで履き心地を担保しています。
また、オリジナルではUSAメイドでしたが、今回の復刻はアジア製ということで、その分、価格が抑えられています。ちなみに『ML2002R』の“R”は商品コンセプトである“Redevelopment(再開発)”からとっています。現在進行形ならではのネーミングですよね。
実は復刻のタイミングで知人から『ML2002R』がほしいという声が上がりました。僕は“完全復刻ではなく、テイクダウン版”と答えましたが、“それでも履きたい”というリアクション。その友人は細部にまでこだわるクリエイターだったんですけど、オリジナルに忠実なディテールじゃなくても、それを超越するムードなんだなと驚いたのを覚えています」