1884年にアメリカのマサチューセッツ州ミドルボロウで創業したシューズブランド「
オールデン」。数々の名作を生み出してきた同ブランドのなかでも、王道モデルかつ歴史的名作といわれるのがVチップだ。今回はオールデンの歴史に触れながらも、Vチップがどのように誕生し、どんな特徴・ディテールをもったシューズなのかを紐解くべく、オールデンの日本総代理店である
株式会社ラコタの吉川雅也さんにお話を伺った。
履き心地を重視した“靴は歩くためのギア”という考え
1884年にアメリカ・マサチューセッツ州のミドルボロウという町で、チャールズ・H・オールデン氏によって創業した「オールデン」。ラコタの吉川さんはオールデンの歴史についてこう語る。「当時は既成靴ではなく、カスタムメイドブーツや、ドレスシューズの受注生産を行っていました。1931年に創業者のオールデン氏が引退した後、経営権はオールデン氏と財務提携をしていたターロウ家へと譲渡され、現在の4代目まで一族の経営が続いています。
工場もミドルボロウからノースアビントン、ブロックトンと2度の移転を経て、1970年に原点であるミドルボロウに最新設備を整えた工場を建設しています」
現在もボストンから車で40分ほどの創業の地、ミドルボロウで革靴を作り続ける「オールデン」。コンセプトについても吉川さんは続ける。
「昔から“靴は歩くためのギア”というコンセプトの下、履き心地を重視した作りにこだわっています。
日本人もイギリス人に倣い、革をギチギチに足に合わせて馴染ませながら履く考えを持つ方も多いと思いますが、オールデンは真逆で、いかに足に負担をかけずに快適に履けるかを目的に作っているので、土踏まずなどしっかり押さえる部分は押さえて、指先は快適に履く……という靴作りを目指しています」
その一環としてオーソペディックシューズ(矯正靴)の分野も広げており、「オールデン」でも定番の木型(ラスト)である“モディファイドラスト”にも繋がってくるのだ。
土踏まずをサポートし疲れにくくする“モディファイドラスト”
オーソペディックシューズは1950年代から本格的に製造をはじめ、1930年代に“モディファイドラスト”のベースとなる木型が生まれたとのこと。「『オールデン』の木型の中で特に異彩を放つのが、この“モディファイドラスト”です。医療用のシューズを作っていた会社を『オールデン社』が買収して、木型を譲り受け、そこから改良していったのがこの“モディファイドラスト”なのです。
“改良”という意味をもつ“モディファイドラスト”ですが、本国では“ニューモディファイドラスト”ともいわれます」
この“ニューモディファイドラスト”ができたのが1963年とのこと。「オールデン」にはたくさんの木型が存在する。 本国では“アバディーン”、“プラザ”、“ハンプトン”といわれるドレスシューズに使われる木型が定番で、逆に本国では「オールデン」を知っている人でも“モディファイドラスト”を知らない人もいるのだとか。
今回取り上げる「Vチップ」も“モディファイドラスト”が採用されていてカラーによって品番がちがい、バーガンディが「54321」、ブラックが「54331」となっている。
「1963年に“モディファイドラスト”と一緒に生まれたのが、『Vチップ』で、当時流行していた『Uチップ』をモディファイドラスト用に開発したのがこのデザインだったそうです。
『Uチップ』と呼ばれるトゥのデザインが“V”に見えるので、『Vチップ』と呼ばれていますが、本来は『アルガンコン』という名前があるんですよ。『Vチップ』といえば『オールデン』と認識されるようになりました」
“モディファイドラスト”はさまざまな足型に対応する木型。ハイアーチ(甲高)、ハンマートゥ(つちゆび)、X脚、偏平足といういろいろな形の足をサポートしてくれるのが特徴だ。
「人は歩くことで、土踏まずの筋肉が下がります。この筋肉が下がることが足の疲れの原因といわれています。土踏まずの部分を下から持ち上げてサポートし、疲れを感じなくさせるのが、“モディファイドラスト”の大きなメリットとなっています」