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2023.04.19

【足元からの環境問題への取り組み】スペイン発シューズブランド「カンペール」のものづくりに迫る

できるかぎり地球環境に配慮し、持続可能な社会を目指す取り組み「サステナビリティ」が、広く一般にも浸透しつつある近年。さまざまな国や地域、そして企業、団体がサステナビリティを推奨し、それを積極的に実践している。
 
「Walk, Don’t Run.(歩こう。走らず、ゆっくりと)」をスローガンに、歩行という日常行動を“楽しくて幸せな時間”へと昇華する、スペイン・マヨルカ島発のコンテンポラリー・シューズブランド「カンペール」も、そんなサステナビリティを推奨し続けているブランドの1つ。

2023年春夏モデルとして先日発表したばかりのシューズ「Karst(カースト)」は、ブランドの本拠地であるマヨルカ島の自然から着想を得たユニークでスポーティなデザインと、自然環境に配慮した素材を採用したサステナブルなスピリットを持つ1足として、大きな注目を集めている。
 
今回はカンペールの日本におけるディストリビューターである株式会社カンペールジャパンにて、プロダクトDiv.シニアマネージャーを務める渡邊万紀子さんにインタビューを実施。新モデル「Karst」の魅力やサステナビリティな特徴、さらには、カンペールがこれまで大切にしてきたという環境に対する具体的な取り組みや、ものづくりに対するこだわりなどについても話をうかがった。

各パーツにサステナビリティへのこだわりが詰まったモデル「Karst(カースト)」

カンペールの新モデルとして登場した「Karst」は、石灰岩などの水に溶解しやすい岩石で構成された大地が、雨水、地表水、土壌水、地下水などによって侵食されてできた、日本で言うところの「カルスト台地」がモデル名の由来。その語源の通り、自然やアウトドアからインスピレーションを受けているデザインは、石の自然な曲線を思わせる、厚く丸みを帯びたアウトソールが特徴的だ。
 
さらに、サトウキビから抽出した成分を30%含む軽量なEVAアウトソールを採用しているほか、リサイクルペットを使ったライニングとシューレース、リサイクルOrtholite(オーソライト)インソールなど、使用する素材が自然環境に配慮されていることでも注目されている。

斬新なデザインと、サステナブルな素材が注目される「Karst」。マルチピース使いのユニークなデザインと、オーガニックでスポーティなルックスが特徴の2023春夏モデル
斬新なデザインと、サステナブルな素材が注目される「Karst」。マルチピース使いのユニークなデザインと、オーガニックでスポーティなルックスが特徴の2023春夏モデル

まずは、この「Karst」がどのような靴で、どのような経緯で生まれたのかを聞いた。
 
「『Karst』には非常に軽いEVAを使っていて、柔軟性やクッション性があるというのが最大の特徴で、私も毎日のように履いていますが、一度履いていただければその履きやすさを実感していただけるかと思います。
 
そして、カンペールが行っているサステナビリティへの取り組みとして、バージンプラスチックの使用をなくそうという大きな目標があるのですが、このアウトソールに採用しているEVA素材も、パートナーシップを結んでいるイタリアのフィンプロジェクトというアウトソールメーカーと一緒に、バージンプラスチックの使用をできるだけ減らすという考えのもとで開発されたものです。

ほかにもオーソライト社のリサイクル素材を使ったインソールをはじめ、ライニングやシューレースもリサイクルペットから作っているなど、細かなパーツにいたるまでサステナビリティを追求した、カンペールの取り組みを象徴するモデルになります」

より良い素材や製法を追求し、環境への配慮も考えた靴をつくる

カンペールのサステナビリティへのこだわりが詰まっているという「Karst」。同ブランドでは、「A Little Better, Never Perfect(少しずつより良く、決して完成形はない)」という合言葉のもと、今日までサステナビリティに積極的に取り組んできており、それに紐づく以下の3つのポイントで、ものづくりを行っているという。
 
ポイント① MAKE IT NATURAL(メイク イット ナチュラル)
「まず1つ目が、天然素材を使おうということ。カンペールでは、材料に天然素材を用いるのはサステナビリティの1つだと考えており、革、コットン、麻といった従来からあるものはもちろん、たとえば木材パルプを原料とするテンセルもそうですが、新たな天然由来の素材が開発された場合は、その品質をしっかりと審査をしたうえで積極的に取り入れるようにしています」
 
ポイント② MAKE IT LAST(メイク イット ラスト)
「2つ目が長く使用してもらうということ。そのために、高い品質の材料を用いて耐久性の高い製品をつくる。そしてそれにはデザインも重要で、長く使っていただける飽きのこない、ユニークなデザインの靴をつくろうと心がけています。また、長く使っていただけるというのは、今、問題となっている廃棄の量を減らすことにもつながると考えています」
 
ポイント③ CARBON NEUTRAL(カーボンニュートラル)
「そして3つ目が、2030年までに温室効果ガスの排出量ゼロを目指しているカーボンニュートラルです。カンペールでは、1足を制作するにあたりどのくらいCO2を排出しているのかを評価して、たとえば排出量の少ない靴を増やそうという取り組みや、排出量が多ければ改良しようという取り組みを行っています。このほかにも、スペインやドイツの路面店では100%クリーンエネルギーを使用していたり、本社屋の屋根にソーラーパネルを設置したり、製品だけでなく会社としても、なるべくCO2排出量を減らそうという努力を続けています」
 
そんな『ア リトル ベター、ネバー パーフェクト』の哲学は、カースト以外のモデルにもしっかりと反映されている。
 
「そのほかの製品でいうと、『Wabi(ワビ)』というモデルがあるのですが、新しいモデルでは米国・デュポン社が開発した、CO2排出量を平均45%削減できるという『Sorona(ソロナ)』という植物由来の糸を使ったニット素材を使用しています。また、『Kobarah(コバラ)』というモデルはアッパーとアウトソールを一挙に型抜きしてしまうインジェクション製法という作り方で、素材の無駄を少なくするなど、少しユニークな方法でサステナビリティを実践しています」

サステナビリティな素材や製法によって作られる『Wabi(ワビ)』。デュポン社製の『Sorona(ソロナ)』を使ったモデルのほか、デンマーク生まれのテキスタイルブランド『Kvadrat(クヴァドラ)』とのコラボなど、天然由来や再生繊維を活用したアイテムを展開する
サステナビリティな素材や製法によって作られる『Wabi(ワビ)』。デュポン社製の『Sorona(ソロナ)』を使ったモデルのほか、デンマーク生まれのテキスタイルブランド『Kvadrat(クヴァドラ)』とのコラボなど、天然由来や再生繊維を活用したアイテムを展開する

“人にも環境にもやさしいものづくり”を続けていくことが大切

使用する素材や製法はもちろん、デザインなどにもこだわり、靴をより長く使ってもらうことで、積極的にサステナビリティを実践しているというカンペール。しかし、ヨーロッパを中心にサステナビリティへの取り組みが勢いを増すなかで、まだまだ日本ではその火が灯ったばかりだ。この状況について渡邊さんはこう話す。
 
「靴に関しては、世界中で年間に230憶足が生産されているといわれているなか、ヨーロッパでは、古い靴を回収して新しいデザインに作り直して販売する『ReCrafted(リクラフテッド)』と呼ばれる取り組みも行っています。そういった背景が整っていない日本でも、修理しやすいようなシンプルなデザインにしたり、店頭でケア用品を販売したりして、修理やお手入れによってより長く履いていただけるように心がけています。

こういった考え方は、私たちカンペールだけでなく、他のメーカーさんたちも含めて、日本でも常識となってくるはずです」
 
さらに、カンペールでは環境問題だけでなく、さまざまな慈善活動にも取り組んでいる。
 
「たとえば、カンペールの創業当時から愛され続けているモデル『Camaleon(カマレオン)』では、西アフリカ、ブルキナファソの職人たちによるタイダイ染めの生地を使ったラインをスタートしていて、彼らの技術を守りつつ、正当な価格を支払うことで生活を守るという取り組みもしています。

もちろん、リサイクルラバーやリサイクルファブリックのライニングなど、サステナビリティにもしっかり注力しています。カンペールは昔から、人にも環境にもやさしいものづくりを掲げ、それが現在でも根付いています」

ブランドのアイコンとして、1975年の創業時よりラインナップを続ける『Camaleon(カマレオン)』。当時のモデルは、一世紀以上も前に、マヨルカ島の農民が履いていた積み荷用キャンバス地を再利用したアッパーに、トラックのタイヤから作られたアウトソールの素朴な靴からインスパイアを受け、生まれました。カンペールのサステナビリティの原点ともいえるもの
ブランドのアイコンとして、1975年の創業時よりラインナップを続ける『Camaleon(カマレオン)』。当時のモデルは、一世紀以上も前に、マヨルカ島の農民が履いていた積み荷用キャンバス地を再利用したアッパーに、トラックのタイヤから作られたアウトソールの素朴な靴からインスパイアを受け、生まれました。カンペールのサステナビリティの原点ともいえるもの

この時代だからこそ、多くの場所で推奨されているサステナビリティ。それに対して、独自の観点とこだわりで、長く取り組んできているというカンペールは、ブランドが掲げる合言葉『ア リトル ベター、ネバー パーフェクト』のごとく、今後も現状に満足することなく、さらにより良い方向へと進化を続けていくに違いない。

PROFILE|プロフィール
渡邊万紀子 (わたなべまきこ)

プロダクトDiv.シニアマネージャー/シューズMDチームマネージャー
当時、カンペールの直営店であった表参道店の店長を務めた後、バイヤーなどを経て現職のシューズMDを担当。昨年からはプロダクトDiv.シニアマネージャーとして、シューズだけでなく、ライセンスアイテムとして国内展開しているバッグの生産・販売も担当している。

Text by Noritatsu Nakazawa(ALTANA inc.)

#Sustainability
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