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2023.03.08

パンクの象徴がファッションのアイコンに! 「ドクターマーチン」の歴史と人気の秘密を探る

イギリス発の「ドクターマーチン」が、若者を中心に幅広い世代に人気を博している。パンクの象徴としてのイメージが強かったブーツが、なぜ若者に支持を得ているのか。意外と知られていないドクターマーチンの歴史を振り返るとともに、その機能、そして若者に支持されていった理由を、ドクターマーチン・エアウエア ジャパン株式会社のPR、橋本京子さんに伺った。

画期的なソールの開発者、実はドイツ人だった!?

 ドクターマーチンの誕生は、ドイツ人の医学博士クラウス・マルテンスがエアクッションソールを開発したことからスタートしたと思っている人は多いかもしれない。だが実はその前置きがあることはあまり知られていない。橋本さんはこう語る。
エアクッションソールの生みの親であるドイツ人のクラウス・マルテンス博士。彼の名前のイギリス読みから「ドクターマーチン」になっているが、実はブランドの創業者ではないので覚えておきたい
エアクッションソールの生みの親であるドイツ人のクラウス・マルテンス博士。彼の名前のイギリス読みから「ドクターマーチン」になっているが、実はブランドの創業者ではないので覚えておきたい
「実は、1901年にイギリスのノーサンプトン州ウォラストンにて製靴業をスタートしたグリッグス家(のちのR・グリッグス社)が作った耐久性のあるワークブーツが『ドクターマーチン』の前身となっています。
そして1945年にマルテンス博士が足首を怪我した際に、既存のブーツでは痛めた足には硬すぎたため、歩行の際の衝撃を和らげ、足が疲れないエアクッションソールを開発しました。
マルテンス博士が開発したエアクッションソール。「バウンシングソール」とも呼ばれるが、ソール部分にエア(空気)が入ることで、着地の衝撃を和らげてくれ、弾むような快適な履き心地を実現
マルテンス博士が開発したエアクッションソール。「バウンシングソール」とも呼ばれるが、ソール部分にエア(空気)が入ることで、着地の衝撃を和らげてくれ、弾むような快適な履き心地を実現
その後、前述したイギリスの老舗靴メーカーであるR・グリッグス社がバウンシングソールの製造特許を取得したことにより、このソールを搭載し製造されたブーツに現在もトレードマークとなっているイエローステッチやヒールループ、エアクッションソールが施され、マルテンス博士の名前をイギリス読みにした『ドクターマーチン』と命名されました。
記念すべき1,000足目を製造した記念の一枚。後列、右から2番目にはマルテンス博士も写っている
記念すべき1,000足目を製造した記念の一枚。後列、右から2番目にはマルテンス博士も写っている
それを製造・販売されたのがブランドのスタートとなっています。前身があるので少し混乱を生んでしまいますが、これがブランド設立の背景ですね」
最初の数年間は2ポンドで買うことができるワークブーツとして、イギリスの労働者階級の郵便配達員や工場労働者に多く履かれていたそうだ。当時、頑丈だけど硬くて疲れるワークブーツに対して、エアクッションソールが搭載されたブーツは、疲れにくく、高い堅牢性で労働者の強い味方になっていった。

労働者のブーツからサブカルチャーの象徴へ

1960年の4月1日にはブランドの象徴として今も絶大な人気を誇るファーストモデルの「1460(通称:8ホールブーツ)」が誕生。その後、ブランドの歴史の流れが大きく変わる出来事が起こる。橋本さんはこう語る。
左が定番の通称“8ホールブーツ”と呼ばれる「1460」、右が通称“3ホールシューズ”と呼ばれるプレーントゥの「1461」。1960年の4月1日に生まれたことから「1460」という品番に。「1461」もちょうど1年後の1961年4月1日に誕生した
左が定番の通称“8ホールブーツ”と呼ばれる「1460」、右が通称“3ホールシューズ”と呼ばれるプレーントゥの「1461」。1960年の4月1日に生まれたことから「1460」という品番に。「1461」もちょうど1年後の1961年4月1日に誕生した
「1967年にイギリスのロックバンドである『The Who(ザ・フー)』のピート・タウンゼントが、労働者階級の誇りと反逆的な姿勢の象徴としてステージでドクターマーチンを履き始めました。そして、ほぼ同じ60年代中盤のタイミングで“スキンヘッズ”と呼ばれる若者たちにも広く受け入れられました。
スキンヘッズの足元はドクターマーチンの8ホールブーツ。発信力のあるアーティストの影響で音楽シーンやストリートシーンへ急速に浸透していった
スキンヘッズの足元はドクターマーチンの8ホールブーツ。発信力のあるアーティストの影響で音楽シーンやストリートシーンへ急速に浸透していった
ビートルズやローリング・ストーンズと並び、イギリスの3大ロックバンドに数えられるザ・フーの影響力はすさまじいものでした。そこから実用的だったワークブーツが、カルチャーとクロスオーバーし、音楽シーンやファッションに不可欠なものに生まれ変わったといえます」
半世紀以上にわたるブランドの歴史の中で、ドクターマーチンは常に反骨精神を持ち、自己表現をする人々によってサブカルチャーシーン、ミュージシャン、さまざまなアーティストから支持され続けてきた。
独自の姿勢を貫く彼らの自己表現のそばには、いつも必ずドクターマーチンがあったのだ。ドクターマーチンは現在も“REBELLIOUS SELF-EXPRESSION(反抗的な自己表現)”を信念に、ブランドとともにあるすべての人々の自由な発想や思想を尊重し続けている。
橋本さんによると、どのシーズンでも支持されているのが、やはり定番の8ホールブーツである「1460」と、丸みを帯びたフォルムのプレーントゥが特徴のセカンドモデル「1461」だという。
「この2大モデルに『2976』というチェルシーブーツを加えたアイテム群を“アイコンズ”として取り扱っています」
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