カンガルーロゴのベレー帽やハットなど、言わずと知れた帽子ブランド「KANGOL(カンゴール)」。そのブランドのルーツをひも解いてみると、長い歴史の中で音楽と共に歩んできたストーリーがあった。 そんなKANGOLの歴史とともに、定番にして名品の数々を見ていこう。
KANGOLは創業者のJacques Spreiregen(ジャック・スプライルゲン)が、1918年にKANGOLの前身となる帽子屋をイギリスで開業した。この時はバスクベレーの輸入販売を主ななりわいとしていたという。
1938年に他社との差別化を図るため、KANGOLというブランド名を付ける。
ブランド名の由来は、KNITTING(ニッティング)からK、ANGORA(アンゴラ)からANG、WOOL(ウール)からOLの文字をそれぞれ取り、KANGOLとしたと言われている。そして第2次世界大戦時に、モンゴメリー将軍と大英帝国陸軍が被るベレー帽を製作することとなる。この出来事がきっかけとなり、KANGOLはイギリス全土で有名になっていった。
さらに1948年のオリンピック開会式では、イギリスチーム全員がKANGOLのベレー帽を被ったという出来事もあった。1950年代に入るとイギリスの他、アメリカ、南アフリカと販売地域も拡大されていき、1960年代に入るとPIERRE CARDIN(ピエール・カルダン) やMARY QUANT(マリー・クワント)など著名なデザイナーもKANGOLへのデザイン提供をするに至り、KANGOLブランドの評価は世界規模へと発展していった。
1981年、KANGOLは世界的に有名な帽子作家GRAHAM SMITH(グラハム・スミス)を招き、”GRAHAM SMITHのKANGOL“というラインを立ち上げる。彼は豪華かつ手の届く帽子のコレクションを作成し、このラインで1980年代のブリティッシュ・エアウェイズのキャビンクルー用の帽子の製作も行ったという。
1964年、KANGOLは広告にTHE BEATLESを起用する。1960年代で若者に最も影響力があった彼らのインパクトは、相当なものだったと予想される。そして60年近くたった今でもそのインパクトは残り続けている。こうしてKANGOLブランドの評価は、1960年代の音楽の世界にも広がっていった。
そして、1983年にKANGOLは世界的にすでに有名になっていた自社製品を、他社製品と差別化するためには特別なマークが必要と判断し、イギリスのクリーター工場で実験的にいろいろなロゴを試作し、カンガルーロゴが採用された。
時を同じくして1980年代、すでにアメリカで展開されていたKANGOLはLL Cool J(エルエル・クール・ジェイ)がレコードジャケットでKANGOLのCASUAL(カジュアル)というハットを被っていたことが話題となった。
彼自身、ミュージックビデオ以外でも着用し、プライベートでもよくKANGOLの帽子を被っており、それはHIP HOPの歴史の中でも欠かせない要素となっていく。その後もSlick Rick(スリック・リック)、Erik B and Rakim(エリック・ビー&ラキム)、Grand Master Flash(グランド・マスター・フラッシュ)等、HIP HOPスターにKANGOLは愛用されるようになっていった。
さらに2001年に出版された、アフリカ系アメリカ人の写真家Jamel Shabazz(ジャメル・シャバズ)が1980年代のニューヨークで撮影した写真集「Back in the days」の中でもKANGOLを愛用しているB-BOYが被写体となっている。
日本でも、1980年代後半にHIP HOPカルチャーが入ってきて、いとうせいこうや高木完など日本のHIP HOPの草分け的な存在の人たちがKANGOLを愛用している。
1990年代に入ると、KANGOLは日本でも大ブームとなる。そのブームの流れではずせない定番中の定番が1954年に誕生し、今も愛され続けているシームレスハンチング「504」だ。イギリスやアメリカ同様にBACK TO FRONTと呼ばれる、帽子の後ろを前にしてロゴを見せて被るスタイルの代名詞ともなる形だ。
素材は、WoolやFurgora(ファーゴラ)と呼ばれるアンゴラファーの糸で作られたものがポピュラーとされている。KANGOLのハンチングにはもう一つ「507」という定番アイテムもあり、ブリム(帽子のつば)も含めた前の部分が504に比べて若干シャープになっているのが特徴だ。
さらに知っておいてほしい素材がある。KANGOL夏の定番素材でVent-Air(ベント エアー)というメッシュのような通気性のある素材。1980年代初頭に発売されるとアメリカで驚く程受け入れられ、Vent-Airは大ヒットとなった。
もう一つ定番と言えば先ほどLL Cool Jが写真で被っていたCASUALだ。クラウンが丸く、しっかり深めに被れるベルハットタイプで、このタイプもWool、FurgoraそしてBermuda(バミューダ)シリーズと名付けられているパイルなどが定番的な素材として知られている。
どのモデルも定番のWool、冬に人気のFurgora、夏に人気のBermuda、メッシュタイプのVent-Airなど、すべてのシーズンで適応されたラインナップだが、これは全体のほんの一部で、さまざまな素材を使った定番物と新型アイテムで、毎シーズン60型以上のラインナップにカラーバリエーションも加えると、かなり大きな規模で展開されている。サイズとカラーのバリエーションの多さは、幅広い年齢層から支持を受けている。
イギリスから始まったKANGOLは今ニューヨークが拠点になっており、フラッグシップショップはニューヨークのハーレムにある。「BORN BRITISH RAISED IN NEW YORK」(イギリス生まれのニューヨーク育ち)がKANGOLの合言葉だ。
イギリスで始まり、長い歴史の中で培った確かな帽子作りは、ニューヨークでHIP HOPカルチャーやクラブシーンと出会い、ストリートで欠かすことの出来ない帽子ブランドとなった。KANGOLは、ダンサー、ラッパー、DJなどさまざまな人たちから支持を受けている。最近ではBTSが「Dynamite」のミュージックビデオでKANGOLを着用し、話題になった。
今年でKANGOL 誕生から85周年となる。85年がたった今もなお、最先端を走り続けているブランドだ。アニバーサリーとなる今年は、限定商品の発売やイベントなどを企画中とのことで、今後の展開から目が離せない。
Kangol Headwear
東京都渋谷区神宮前 6丁目23番4号 1F
TEL : 03-6805-1272
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