今年で法人化10周年を迎えたオサレカンパニーを設立し、AKB48をはじめとするさまざまな衣装を生み出してきたのが、クリエイティブディレクターを務める茅野しのぶさんだ。
今回、茅野さんにAKB48の衣装制作にまつわるエピソードから、自身のターニングポイント、衣装がもたらす力などについて聞いた。
PROFILE|プロフィール
茅野 しのぶ(かやの しのぶ)
株式会社オサレカンパニー
クリエイティブディレクター
AKB48創設当初より総合プロデューサー秋元康氏の下で衣装担当として活動。
その後、デザイン・衣装・ヘアメイクなどの事業を担うオサレカンパニー社のクリエイティブディレクターに就任。
これまでに制作した衣装はおよそ35,000着。メンバーの個性を引き出す豊富な衣装デザインとバリエーションに定評があり、AKB48以外にも、=LOVEや≠ME・≒JOYといったアイドルから、声優、コスプレイヤー、2.5次元アーティストの衣装、さらに近年では学校制服・医療制服のプロデュースなども行う。
AKB48の衣装を手がけることになったきっかけ
はじめに、茅野さんが衣装デザイナーを志した経緯について教えてください。
私がデザイナーという職業を意識したのは高校生の時です。当時、デニムのリメイクが流行っていたのですが、お店で買うとすごく高かったので、自作して着ていたんです。すると、それを見た友達から「すごい!」と言われて、その流れで文化祭のダンス衣装を作ることになりました。当時の私の中では、あくまで遊びの延長線上でした。
ところが、学校の担任と親との三者面談をした際に、文化祭の衣装を見た先生から「茅野さんは洋服を作る才能があると思う」と興奮気味に言われたんです。私は先生に褒められるタイプではなかったので、その言葉が強く残りました。
それがきっかけとなり、服飾専門学校に進学することにしました。親からは「成功するなんて一握りだから」と反対されたんですけれど。
その後、進学した専門学校で、「一夜限りのヘアメイク&ファッションショー」という企画を実施する機会がありました。その経験から、一般的なアパレル製品よりも、誰かのために作り、見た人の琴線にも触れる「衣装」を手がけたいと思うようになりました。
そこで在学中から、アイドル衣装を制作していたスタイリストのアシスタントとして働くことにしました。その方が、私の衣装デザイナーとしての師匠です。
何年か経験を積んだ頃、偶然AKB48というアイドルグループが立ち上がるとい う話を聞いて、自分から売り込みに行きました。いつか師匠を超えるためにも、自分一人でやってみたいという気持ちがあったからです。
当時22歳の私には、アシスタントという肩書きしかなかったので「衣装はもちろん、マネージャー業務もやりますし、一石二鳥ですよ」と売り込み、ありがたいことに秋元康さんに採用されて今があります。
AKB48が発足した当初から衣装制作に関わられていますが、お仕事のスタンスに変化はありますか。
基本は変わらないと思います。AKB48に関してはプロデューサーである秋元康さんと運営側のイメージを理解した上で、メンバーと楽曲のイメージを第一に考えて衣装を制作しています。そのとき大切にしているのは、メンバー本人たちが自信を持ってステージに立てる衣装で、なおかつ、ファンの人たちがメンバーをもっと好きになるような衣装であること。着る側と見る側、その両方に喜ばれる衣装作りを常に意識しています。
衣装に対するこだわりと工夫
AKB48の衣装は具体的にどのようなコンセプトで制作されていますか。また、そこにはどんな工夫が凝らされていますか。
AKB48が発足した当初、秋元さんとお話ししたなかで、「等身大の彼女たちを生かした方がいい」ということで、AKB48の代表的な衣装といえる「制服スタイル」が生まれたのですが、実は制服をそのまま衣装に置き換えると、地味でステージ映えしません。制服をモチーフにする際は、煌びやかではない一般的なアパレル素材を用いるなかで、彼女たちをいかに可愛く見せるかを考え続けました。