パリ、オートクチュールのコレクションを支える刺繍の技術。その第一線で活躍する日本人がいる。刺繍アーティストの
杉浦今日子さんだ。
オートクチュールとは、パリ高級衣装店組合に加盟する店が手がける仕立て服のこと。同組合はナポレオン3世の妻、ウージェニーの専属衣装デザイナーだったシャルル・フレデリック・ウォルトにより19世紀後半に創立され、20世紀前半に改組されたフランスのファッション業界の根幹をなす団体である。
現在に至るまで、そこで表現・発表されてきた豪奢で圧倒的な美しさを持つ服は、フランスをファッションの中心地たらしめてきた。その生地を彩るのが職人による精緻な刺繍である。
その本場フランスで杉浦さんは針一本でゼロからキャリアを築き、外国人としてフランスで渡り合ってきた。その杉浦さんとフランスをつなぐのが「クロッシェ・ド・リュネビル」というフランス東部のリュネビルという場所で生まれ、オートクチュールで主に用いられてきた刺繍の技法である。
PROFILE|プロフィール
杉浦 今日子(すぎうら きょうこ)
東京で刺繍作家、講師として活動ののち、2009年に渡仏。世界第一線のファッションブランドのオートクチュール刺繍を手がける職人としてパリで仕事をしながら、その技法を自身の創作に取り入れ、世界でも他にない芸術表現を生み出す日本人工芸アーティスト。
©Takeshi Sugiura
2年間のパリ滞在が、いつの間にか10年を超える
「最初はフランスで、仕事で刺繍をやろうとはまったく思っていなかったんです」パリ市内にある杉浦さんのアトリエ、中庭から午後の光が差し込む一室で、杉浦さんは渡仏のきっかけを静かに語り始めた。