アメリカを代表するアウトドアブランド「
L.L.Bean」といえば、「ボート・アンド・トート」や「ビーン・ブーツ」が有名だが、1世紀を超える歴史を持つ老舗はアウターにも名作が揃う。
そのひとつが今回ご紹介する「
フィールド・コート」だ。水を弾くコットンキャンバスや両肩のガンパッチなど、機能的なディテールがちりばめられたその姿には、“着るアウトドアギア”という言葉がしっくりくる。
100年も前に誕生したアウターが、なぜ現代の服好きを惹きつけるのか? PRの中村寛規さんとともに、このコートが持つ色褪せない魅力の正体を探ろう。
PROFILE|プロフィール
中村 寛規(なかむら ひろのり)
エル・エル・ビーン・インターナショナル L.L.Bean PR
L.L.Beanの歴史は、1912年、森林地帯が州の約9割を占めるメイン州で始まった。
「設立者はレオン・レオンウッド・ビーン(以下ビーン氏)で、ブランド名は彼の名前に由来します。アウトドアマンでもあった彼は、滑りやすかった当時のアウトドアブーツを改良し、メイン・ハンティング・シューを開発しました。
この靴はヘミングウェイやベーブ・ルースといった著名人にも愛用され、後にビーン・ブーツと呼ばれるようになりました。また、1944年にはキャンバス生地を使ったビーンズ・アイス・キャリアというバッグを開発します。
もともとは湖から切り出した氷を運ぶためのものでしたが、1960年代にこのバッグをベースにしたビーンズ・ボート・アンド・トート・バッグが発売されると、アイビーリーガーたちに使われるようになり、アイビースタイルの定番アイテムとなっていきました」
現在、ファッションアイテムとして広く認知されているブーツやバッグも、もともとは実用重視のアウトドアギアだったのだ。1924年に登場したフィールド・コートもしかり。
「1920年代は、狂騒の20年代と呼ばれ、力強い芸術や文化が花開き、アメリカが経済的な繁栄を迎え た時代でした。自然豊かなメイン州には富裕層の別荘も多く、スポーツとしての狩猟がさかんに行われていました」
ハンターたちから高く評価された機能性アウター
1924年に今日のフィールド・コートの原型となる「メイン・ダック・ハンティング・コート」が登場した。これはビーン氏が、アウトドアを楽しむためにみずから開発したものだという。発売さ れるやいなや、ハンターたちの間で評判となった。「フロントポケットの内側に散弾銃の弾を入れるループが付いていたり、内側のウエスト部分に獲物を入れるゴム製のゲームポケットがあったり、高い実用性がハンターたちに評価されました。
1947年には、名称が現在のフィールド・コートに変更されました。ハンティングの名は省略されたものの、当時もユーザーのほとんどがハンターでした」
その後、基本的なデザインはほとんど変更されていないという。現行モデルを詳しく見てみよう。
「時代によって若干の違いはあるものの、ボディの素材はコットン100%のダック生地です。これは太いコットンの糸で織り上げた高密度の平織り生地で、しっかりとしたハリのある、丈夫なつくりが特徴です。表面には撥水加工が施されているので、少々の雨をものともしません。襟と袖口には、コットンの16ウェールのコーデュロイ生地があしらわれています」
このコートの故郷であるメイン州の冬の寒さは厳しい。そのため、身頃の裏地には起毛したコットンのフランネルを使うことで保温性が高められている。ただ、着心地のよさを確保するため、袖の裏地はナイロン素材に切り替えられている。
もともとはハンティング用のコートだったこともあり、機能的なディテールが随所に見られる。
「もっとも特徴的なのは、両肩に縫い付けられたガンパッチでしょう。これは肩で銃を支える際、服の生地を保護するための当て布です。狩猟以外のシーンでも、バックパックやショルダーバッグのストラップで生地が傷むのを防ぐ役割が期待できます」
ハンティングの際は地図や弾丸、ナイフなど多くの道具を持ち運ぶ必要がある。そのため、身頃の左右にはハンドウォーマーを兼ねた大型ポケットが、左胸にはジップポケットが設けられている。
肩や腕には、動きを妨げないための工夫も施されている。肩は腕の可動域を高めるバイスイングショルダーという仕様に。また、アームホールも大きめに作られているため、腕が動かしやすく、かつ重ね着をしても窮屈さを感じにくい。