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2023.06.01

ファッションの魅力を「再発見」する 明治・大正・昭和初期の装いを現代的に描く人気イラストレーター・マツオヒロミ

明治時代から昭和初期にかけてのファッションや生活文化に、独自のアレンジや現代的な解釈を加えることで、多くの人々を魅了する作品を生み出している、イラストレーターのマツオヒロミさん。
今年は『マツオヒロミ作品集 万華鏡の庭』(玄光社)を刊行するとともに、2022年に出版した『マガジンロンド』(実業之日本社)が第52回 日本漫画家協会賞「萬画部門」の大賞を受賞し、「『女子文化』の世を香り高く描いた、イラストストーリー+ファッションの歴史+時空を超えたキャラクターの魅力は、どんなジャンルにも収まり切らない『萬画』にふさわしい作品です」と選考委員から高い評価を受けた。
そこで今回、マツオさんにイラストレーターになったきっかけから、イラストレーションにおけるファッションの描き方、そして今後について伺った。

モチーフとしての「着物」

はじめにイラストレーターになったきっかけについて教えてください。
学生時代から独学でイラストや漫画を描いていました。そのなかで、ネット上に発表していた作品を見たクライアントの方から依頼をいただいたのが、イラストレーターへの第一歩でした。
クライアントワークを手がけながら、自主制作をする中でイラスト作品集を作ってコミックマーケットなどの即売会で発表していました。そうした自主制作の中で、徐々に現在のようなテイストになっていきました。
「秘密」(2016年)
「秘密」(2016年)
マツオさんの作品には着物のモチーフが多く、ご自身も着物が好きで普段から着用されているそうですね。作品とはどのような関係があるのでしょうか。
 着物は自分が着るものとして以前に、子供の頃から時代劇や抒情画など、着物を纏った人々が描かれた作品が好きなこともあって、描かれた衣服としてとても身近でした。いわゆる「着物」に限らず、平安時代や古代史ファンタジー、中華ファンタジーなどが好きな子供だったので、そういう「ファンタジー」文脈で着物に触れて育ってきたように思います。
呉服屋さんの礼装のチラシにはピンと来ませんでしたが、竹久夢二氏、林静一氏、辻村寿三郎氏、特にこの方たちの、人物を物語るような着物姿に影響を受けてきました。
2000〜2010年代中頃にかけて出版された『KIMONO姫』(祥伝社)というムック本との出会いも大きいです。当時、アンティーク着物をリアルクローズとして着る、というのは非常に衝撃的でした。私にとって、それまで着物はフィクションの中における衣服だったのが、20代くらいの人が着るファッションとしてリアリティのある衣服になりました。なので、自分のオリジナルのキャラクターに自然と着物を纏わせるようになりました。
着物をモチーフにする際、どのようなことから着想を得て、デザインが決まるのでしょうか。
日常的に目にするもの、たとえばリビングに飾っている花の色合わせや、たまたま雑誌でみかけた写真などがヒントになっています。
画面構成上のフォルムや色の響きあいを「面白いな」と感じたときに、絵そのものが浮かび、その絵を構成させるために着物をデザインしていると思います。最初に絵があって、それを完成させるために着物を描く、という発想の順番ですね。仕事だと、都合よく日常の中でヒントを得ることは難しいので、よくコラージュを作って、自分で画面構成のヒントを探すようにしています。
古い着物の資料も使用しますが、それは具体的に何を描くか決まってから参考にすることの方が多いかもしれません。特に好きなのは、着物デザイナーでありコレクターでもある、池田重子氏の本です。着物だけでなく、いろんな日本文化にまつわるエピソードや教養が詰まっているので、そういうところからさらに芋づる式に新しいアイディアにつながっていくことがあります。他には自分で買ったアンティーク着物のハギレなども参考にします。
「逢瀬」(2020年)
「逢瀬」(2020年)
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