アイコニックな「574」と1994年に登場した「650 」が融合した「57/40」が圧倒的な支持を集め、大成功を収めたニューバランス。今季は同ブランドの名作といわれる900番台のモデルと2000年代初頭のパフォーマンスシューズ「860」がフュージョンした「90/60」が人気を博している。
今回はその人気モデルの開発ストーリーと、ニューバランスが見据えるその先を、同ブランドに詳しいスニーカーシーンのキーマンであるmita sneakers(ミタスニーカーズ)の国井栄之さんに伺った。
アイコニックな品番のモデルを融合させた「57/40」で新たなファンを獲得したニューバランス。そんな同ブランドが培ってきた伝統に忠実でありながら、シーンにまた新たな価値を提供したいという想いから生まれたのが「90/60」だ。
ニューバランスとは蜜月関係にある国井さんは開発された背景についてこう語る。
「『90/60』は“SHIFTED(移行)”というテーマで70年代、80年代、90年代の過去の名作たちを現代に向けてアレンジしたシリーズとしてプロジェクトがスタートしました。『90/60』で実際にベースモデルとして採用されたのは900番台の『993』と『991』です。
過去のモデルからヒントを得つつ、900番台シリーズと2000年代のランニングシューズを彩った、ABZORB[1]やENCAP[2]、CRデバイス[3]などのあらゆるテクノロジーを現代において大胆に見せる“techxplosion(テクノロジーの爆発)”と呼ぶコンセプトを体現したモデルとなっています」
多くのモデルを参考にしたようだが「90/60」は、ただアーカイブのシェイプをなぞって組み合わせたモデルではないようだ。
「プロジェクトに携わったデザイナーたちは多数のアーカイブモデルを研究し、何が象徴的なデザインとなるポイントや、機能性である部分を分析し たとのことです。そしてデザインをするときは、自らが2000年代のデザイナーになったつもりで取り組んだそうで、昔のデザインを真似るのではなく、そのものがデザインされた意図を組み取ることが重要だと考えたようですね」
過去モデルのデザインや機能を進化させ、斬新なコンセプトを全面に表現した「90/60」は、先鋭的でありながらもどこか懐かしさを感じさせるデザインとなっている。まさにブランドの伝統に寄り添いつつも新しいスタイルへのモダンなアプローチを実装した一足なのだ。
新たなコンセプトを持って生まれた「90/60」だが、シューズ自体の大きな特徴はどういった部分にあるのだろうか? 国井さんはこう続ける。
「アッパーにはメッシュやスエード、レザーを使用し、ニューバランスのクラシックなスタイルを受け継いでいますね。大きな特徴として挙げられるポイントのひとつは、外側と内側のブランドロゴをあえて左右非対称なデザイン。ヘリテージから現代への移行が見て取れる部分ですね。
また、見慣れたデザインであると同時に意外性も持っているシューズにしたいというデザイナーの意図を組み、さまざまな要素を組み合わせて誇張や進化をさせた部分も特徴です。
例を挙げるとアッパーミッドソールは『993』を彷彿とさせますが、ボトムミッドソールはアグレッシブに造形されているので現代的な印象を与えてくれます。また『991』のソールユニットからインスパイアされたゲルポットを『90/60』ではベロバッジとして使用しているのも見逃せません」
また先進的なデザインに仕上がったソールは、ブランドの伝統技術を現代的な視点で表現しているとのこと。
「ミッドソールの前足とかかと部分には衝撃吸収性に優れたABZORB SBSを搭載することで独特なシルエットを作り、虫眼鏡のような奥行きのある透明なCRデバイスで厚みを持たせました。
また、アウトソールは『860v2』のディテールを踏襲しながらその模様のスケールを400%ほど大きくし、全体的にも大胆なカラーブロッキングを施すことで、遠くからでも『90/60』だとわかるようなディテールに仕上げています」
「990」シリーズと「860v2」のディテールをモダンに昇華したデザインは、“今、履きたい”という欲求を掻き立てるシューズといえるだろう。
ニューバランスの様々なシリーズを実際に体感してきた国井さんは、今回の「90/60」にどんな感想を持ったのだろうか?
「新たなコンセプトを持ったシリーズのファーストカラーは、ベースとなったモデルのファーストカラーを採用することが多いです。ただ『90/60』のファーストカラーはiPhoneで知られるApple社が開発した初期のPCである“マッキントッシュ”のカラーを踏襲したとのことです。