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2023.05.10

名作「990」と「860」が融合した! ニューバランスの新定番「90/60」が支持される理由

アイコニックな「574」と1994年に登場した「650」が融合した「57/40」が圧倒的な支持を集め、大成功を収めたニューバランス。今季は同ブランドの名作といわれる900番台のモデルと2000年代初頭のパフォーマンスシューズ「860」がフュージョンした「90/60」が人気を博している。

今回はその人気モデルの開発ストーリーと、ニューバランスが見据えるその先を、同ブランドに詳しいスニーカーシーンのキーマンであるmita sneakers(ミタスニーカーズ)の国井栄之さんに伺った。

伝統的な機能性をモダンかつ大胆に見せることがコンセプト

アイコニックな品番のモデルを融合させた「57/40」で新たなファンを獲得したニューバランス。そんな同ブランドが培ってきた伝統に忠実でありながら、シーンにまた新たな価値を提供したいという想いから生まれたのが「90/60」だ。

ニューバランスが魂を込めてリリースした「90/60」。ソールユニットの形状は「993」と「860v2」からインスパイアされている。新色のブラックはブラウンと組み合わせたカラーが新鮮な印象。1万9,800円(税込)
ニューバランスが魂を込めてリリースした「90/60」。ソールユニットの形状は「993」と「860v2」からインスパイアされている。新色のブラックはブラウンと組み合わせたカラーが新鮮な印象。1万9,800円(税込)

ニューバランスとは蜜月関係にある国井さんは開発された背景についてこう語る。
 
「『90/60』は“SHIFTED(移行)”というテーマで70年代、80年代、90年代の過去の名作たちを現代に向けてアレンジしたシリーズとしてプロジェクトがスタートしました。『90/60』で実際にベースモデルとして採用されたのは900番台の『993』と『991』です。
 
過去のモデルからヒントを得つつ、900番台シリーズと2000年代のランニングシューズを彩った、ABZORB[1]やENCAP[2]、CRデバイス[3]などのあらゆるテクノロジーを現代において大胆に見せる“techxplosion(テクノロジーの爆発)”と呼ぶコンセプトを体現したモデルとなっています」

トゥの部分の補強パーツはアーカイブのデザインからインスパイアを得ている。内側と外側のカラーがアシンメトリーになったところもポイント
トゥの部分の補強パーツはアーカイブのデザインからインスパイアを得ている。内側と外側のカラーがアシンメトリーになったところもポイント

多くのモデルを参考にしたようだが「90/60」は、ただアーカイブのシェイプをなぞって組み合わせたモデルではないようだ。
 
「プロジェクトに携わったデザイナーたちは多数のアーカイブモデルを研究し、何が象徴的なデザインとなるポイントや、機能性である部分を分析したとのことです。そしてデザインをするときは、自らが2000年代のデザイナーになったつもりで取り組んだそうで、昔のデザインを真似るのではなく、そのものがデザインされた意図を組み取ることが重要だと考えたようですね」

「90/60」のデザインソースとなっている「860v2」。2000年代初頭のパフォーマンスランニングシューズ、当時のシューズの中で、もっともハイパフォーマンスなシューズとしてシリアスランナーに愛されていた(国井さん私物)
「90/60」のデザインソースとなっている「860v2」。2000年代初頭のパフォーマンスランニングシューズ、当時のシューズの中で、もっともハイパフォーマンスなシューズとしてシリアスランナーに愛されていた(国井さん私物)

過去モデルのデザインや機能を進化させ、斬新なコンセプトを全面に表現した「90/60」は、先鋭的でありながらもどこか懐かしさを感じさせるデザインとなっている。まさにブランドの伝統に寄り添いつつも新しいスタイルへのモダンなアプローチを実装した一足なのだ。

「991」「993」「860v2」のディテールをいいとこどり

新たなコンセプトを持って生まれた「90/60」だが、シューズ自体の大きな特徴はどういった部分にあるのだろうか? 国井さんはこう続ける。
 
「アッパーにはメッシュやスエード、レザーを使用し、ニューバランスのクラシックなスタイルを受け継いでいますね。大きな特徴として挙げられるポイントのひとつは、外側と内側のブランドロゴをあえて左右非対称なデザイン。ヘリテージから現代への移行が見て取れる部分ですね。

外側のNロゴはリフレクター。内側のNロゴは白糸の刺繍でボーダーになっている左右非対称なデザインも特徴的だ
外側のNロゴはリフレクター。内側のNロゴは白糸の刺繍でボーダーになっている左右非対称なデザインも特徴的だ

また、見慣れたデザインであると同時に意外性も持っているシューズにしたいというデザイナーの意図を組み、さまざまな要素を組み合わせて誇張や進化をさせた部分も特徴です。
 
例を挙げるとアッパーミッドソールは『993』を彷彿とさせますが、ボトムミッドソールはアグレッシブに造形されているので現代的な印象を与えてくれます。また『991』のソールユニットからインスパイアされたゲルポットを『90/60』ではベロバッジとして使用しているのも見逃せません」

スティーブ・ジョブズが愛したスニーカーとしても知られる「991」。そのソールユニットに配置されていたゲルポットをタン部分のバッジに採用した
スティーブ・ジョブズが愛したスニーカーとしても知られる「991」。そのソールユニットに配置されていたゲルポットをタン部分のバッジに採用した

また先進的なデザインに仕上がったソールは、ブランドの伝統技術を現代的な視点で表現しているとのこと。
 
「ミッドソールの前足とかかと部分には衝撃吸収性に優れたABZORB SBSを搭載することで独特なシルエットを作り、虫眼鏡のような奥行きのある透明なCRデバイスで厚みを持たせました。

ミッドソール部分に張り出したCRデバイス(クリア素材のパーツ)は「993」が元ネタに。「90/60」ではより厚みを持たせることでフューチャリスティックな雰囲気に仕上げた
ミッドソール部分に張り出したCRデバイス(クリア素材のパーツ)は「993」が元ネタに。「90/60」ではより厚みを持たせることでフューチャリスティックな雰囲気に仕上げた

また、アウトソールは『860v2』のディテールを踏襲しながらその模様のスケールを400%ほど大きくし、全体的にも大胆なカラーブロッキングを施すことで、遠くからでも『90/60』だとわかるようなディテールに仕上げています」

動物の蹄のような形状がユニークな「90/60」のアウトソール。ブラウンのひし形の模様は「860v2」からトレースされている
動物の蹄のような形状がユニークな「90/60」のアウトソール。ブラウンのひし形の模様は「860v2」からトレースされている
「860v2」のアウトソール。ひし形の模様が拡大されて「90/60」に採用されているのがわかる
「860v2」のアウトソール。ひし形の模様が拡大されて「90/60」に採用されているのがわかる

「990」シリーズと「860v2」のディテールをモダンに昇華したデザインは、“今、履きたい”という欲求を掻き立てるシューズといえるだろう。

時代背景をカラーに採用したことで食指が動いた

ニューバランスの様々なシリーズを実際に体感してきた国井さんは、今回の「90/60」にどんな感想を持ったのだろうか?
 
「新たなコンセプトを持ったシリーズのファーストカラーは、ベースとなったモデルのファーストカラーを採用することが多いです。ただ『90/60』のファーストカラーはiPhoneで知られるApple社が開発した初期のPCである“マッキントッシュ”のカラーを踏襲したとのことです。

「90/60�」のファーストカラー。ベージュのカラーリングは、1980年代後半に一世を風靡した“マッキントッシュ”からカラーサンプリングした(国井さん私物)
「90/60」のファーストカラー。ベージュのカラーリングは、1980年代後半に一世を風靡した“マッキントッシュ”からカラーサンプリングした(国井さん私物)

デザインソースとなったモデルが発売された時代の、世の中を変えたイノベイティブなものからカラーをサンプリングするという、時代背景を映し出したファーストカラーの選定はかなり新鮮に感じました」
 
ブランドが謳うヘリテージや国井さんが考えるクラシックという価値観は、世代が違えば知らないものも多い。そこに対してその時期に革新的だったという、時代背景を象徴するものをカラーソースとして取り入れて、世代間のギャップを埋めてきたところに共感できたそうだ。
 
「実際に履いてみて、デザインはアーカイブのモデルからインスパイアされて再構築されていますが、履き心地は現在進行形のものになっていたので、やはり現代のシューズだなと思いました。デザインもただのハイブリッドではなく、トレースっぽい手法を使っていたり、アウトソールの模様を拡大したり、AIのなかで作製されているようなデザイン方式が見て取れるのも個人的には面白いと感じました」
 
新作のカラーリングも、他とは少し違うと国井さんは感じているようだ。
 
「ニューバランスだとグレー、黒、ネイビーというのが定番になっていますが、他のコラボレーションで出たモデルからインスパイアされたであろうカラーパレットもシーズナルで展開されるので、縦軸にも横軸にもいろいろな事柄と連動している感があるのも、今っぽいなと思いつつ興味深いところです」

新色の黒とホワイト以外にもカラバリは豊富。ニューバランスの定番カラーをあえて採用しない配色も大きな魅力となっている
新色の黒とホワイト以外にもカラバリは豊富。ニューバランスの定番カラーをあえて採用しない配色も大きな魅力となっている

国井さんに「90/60」やニューバランス自体の今後の展開を少し予想してもらった。
 
「今後はわかりやすく2つの品番を融合させたライフスタイルモデルは少しお休みすると思います。ただ、同ブランドはパフォーマンスモデルに力を入れて色々な競技をサポートしているので、“この機能性とあのアーカイブが合体した”みたいなモデルがアジア製で展開されることは多くなると思います。

逆にUSメイドやUKメイドといわれるシリーズは、クラフトマンシップや僕たちが持つオーセンティックなニューバランスの魅力を継続して、軸をブラすことなく体現してくれると思います」
 
ニューバランスが新たな境地体現した「90/60」は、デザインも履き心地も納得のいくものに仕上がっているので、是非、ショップなどで手に取って体感してほしいところだ。

[1]足の着地時の衝撃を100%近く吸収し、その反発を足に還元するソールに採用されたクッション素材。
[2]ポリウレタン素材(PU素材)のミッドソールに衝撃吸収性に優れたEVA素材を埋め込んだ、ニューバランス独自のクッショニングシステム。
[3]踵部分に配置されたクリア素材のパーツのこと。踵の安定感を高めてくれる。

PROFILE|プロフィール
国井栄之(くにいしげゆき)
国井栄之(くにいしげゆき)

mita sneakers クリエイティブ・ディレクター

東京の下町である上野から世界へ向けて独自のスニーカースタイルを提案するmita sneakersでクリエイティブ・ディレクターを務める。数多くのブランドとのコラボモデルや別注モデルを手掛けるが、ニューバランス関連でのコラボや別注でもその手腕を発揮する。世界的プロジェクトから国内インラインのディレクションまで多岐にわたり、スニーカープロジェクトに携わるスニーカー業界の最重要人物。

mita sneakers

東京都台東区上野4-7-8 アメ横センタービル2F&1F路面店

TEL:03-3832-8346

営業時間

(平日)11:00~19:30、(土日・祝日)10:00~19:30

https://www.mita-sneakers.co.jp/

Photo by Hiroyuki “Lily” Suzuki(StudioLog)

Text by Yasuyuki Ushijima(NO-TECH)

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