当時の高機能ランニングシューズコレクション「NBx」シリーズから2011年に発表された「860v2」。近年では「2002R」や「1906R」など人気モデルのツーリング(ソールユニット)のベースや、アパレルブランドとのコラボモデルとして採用されるなど何かと話題だ。
そんな「860v2」がどのようにしてメインストリームに登場し、ニューバランスとしてどんな位置づけをされているのかを、スニーカーシーンのキーマンであるミタスニーカーズのクリエイティブディレクター国井栄之さんに伺った。
「860v2」こそが本当の “ダッドシューズ”
ニューバランスのランニングシューズの中で入門モデルと位置づけされているのが「860」シリーズだ。実は現行モデルでは「860v13」まで登場しており、確固たる地位を獲得している。今回、新色が登場した「860v2」との出会いに関して、国井さんはこう答えてくれた。「自分が最初に『860v2』を認識したのは、2020年にパリで行われたファッションウィークです。パリにある『スニーカーズエンスタッフ(SNS)』が『860v2』を打ち出していて、その理由は“パリのファッションウィークに来る人は誰よりも歩いて、新しいものを見つけようとしている から、パリの街を歩くのに最適なスニーカーはコレ”という名目でした。
そこから『860v2』がバズりはじめました。その当時、ファッション界隈でもボリューム感があって少しイナタいデザインのシューズを“ダッドシューズ”ともてはやしていましたが、靴屋の認識では『860v2』こそがアメリカでおじさんたちが履くリアルな“ダッドシューズ”だったんです」
欧米に行くと、中高年の人たちがチェーン店などで販売されている中価格帯のランニングシューズを街履きするのが当たり前だったという。だが、ファッション界隈の人々はチャンキーなシルエットであれば何でもかんでも“ダッドシューズ”と呼んでいて、国井さんは少し違和感を抱いていたそう。
「ファッション界隈の人々が“ダッドシューズ”と呼び出したのは、アメリカ人の認識でいう通称“BBQシューズ”。まさしく、アメリカ人の父親が日曜日に庭でBBQするときに履いていた『ニューバランス』の『624 Cross Trainer』なんです」
ファッション界隈の人々との“愛称”や認識の違いやズレはかなり興味深いところだ。
要所のディテールが時代の流行で切り取られてきた稀有な存在
“ダッドシューズ”の流行は昨今の“Y2K”トレンドまで、イナタいシューズのテンションがずっと続いているように思えるが、実はそうではない。元々の文脈が違うところを国井さんは指摘してくれた。しかし、「860v2」が支持されたからこそ、生まれたシューズもある。「パリのファッションウィークで確固たる地位を築いた『860v2』でしたが、そのツーリングをベースに復刻されたのが『2002R』です。なぜ『2002』の後に“R”が付いたかというと厳密な復刻ではないから。“R”には“Re-Invention(リインベンション)という意味があるのです」
同じように、イナタいデザインが人気の「1906R」も、ニューバランスの名作品番のディテールをいいとこ取りしたハイブリッドモデル「90/60」も、「860v2」のツーリングがベースにあることは忘れてはならない。
「『860v2』に関しては、NY 発のストリートウエアレーベル
『Aimé Leon Dore(エメ レオン ドレ)』とのコラボで覚えている人も多いかもしれませんが、パリのファッションウィークで頭角を現したのはノームコア全盛の時代。そこでもシンプルなスタイルに少しトガったデザインのシューズということで『860v2』は受け入れられました。
そこから“ダッドシューズ”の流行した時期も支持されていましたし、世の中が流れて“ゴープコア”から“Y2K”トレンドに移行しても『860v2』はなぜかハマっています。良くも悪くもオリジナル当時のイメージがないがゆえに、要所のディテールがその時代時代で切り取られて支持されてきたのは面白いと思いますね。ある意味、このタイミングで多様なニーズにおいて広範に対応できているシューズに昇華した感じはあります」