1999年に発売されたパフォーマンスシューズ「1000(ワン・サウザンド)」。オリジナルモデルは、90年代後半のランニングシューズ市場で人気を博したチャンキーなシルエットと多色使い、そして流線型のディテールが合わさって、ユースカルチャーを想起させるデザインが特徴だ。
最近はオリジナルカラーを含め、さまざまなカラーが展開され最注目を浴びている。そんな「
M1000」がどのようにして生まれ、今なぜ再注目されているのかを、スニーカーシーンのキーマンである
ミタスニーカーズのクリエイティブディレクター国井栄之さんに伺った。
当時の足し算的なモノづくりを体現する「M1000」
90年代中期のスニーカーバブルが落ち着き、復刻モデルとハイテクモデルが混在していた1999年。そんな最中、パフォーマンスシューズとして誕生した「M1000」。今回の2024年春夏コレクションで満を持しての復刻となった。「M1000」はどのような状況下で作られたのか、国井さんはこう語る。「90年代中期から、デコラティブかつハイテクなスニーカーが注目されていたなか、このモデルは登場しました。21世紀を目 前とした90年代後半はデザイナーの誰もが近未来的な志向で、現代の人々が想像するよりも近未来感のあるデザインが多かったので、そのスタンスがデザインに盛り込まれている感じはありました。
また90年代後半は機能としてクッション性を求める傾向にあったので、そのあたりがチャンキーなシルエットで担保されています。具体的にはソールに“C-CAP(シーキャップ)”と“ABZORB(アブゾーブ)”、そして安定性を高めるための“スタビリティウェブ”が搭載されているのが特徴となっています」
現在、「ニューバランス」では“フレッシュフォーム”のようなクッション性も反発性も兼ね備えたフォームを開発、搭載するのが現在の主流だ。しかし当時はクッション性や安定性など必要な機能を埋め込んでいく、足し算的なモノづくりのしかたが多かったという背景が、「M1000」の デザインとシルエットに体現されている。
さまざまなものがクロスオーバーした90年代後半
「ニューバランス」ではランニングカテゴリーでも、大きな3つの柱として500番台、900番台、1000番台がカテゴライズされている。ただし「M1000」は“1000”と銘打ってはいるが、そこには入らない。なぜなら「M1000」はライフスタイルモデルではなく、パフォーマンスシューズだからだ。その用途についても国井さんはこう続ける。「『ニューバランス』では、90年代後半からパフォーマ ンスシューズでも“1000番台”の品番が出ていました。用途としてはおそらく多様化されたトレーニングに使われたモデルだと記憶しています。同ブランドではクロストレーニングというカテゴリーはなかったので、パフォーマンスシューズという位置づけをされていたのだと思います
当時、他のブランドでもクロストレーニングというカテゴリーを作っていたものの、その中にはアメフトのターフトレーニング用シューズもカテゴライズされるなど、90年代はいろいろなものがクロスオーバーする時代でもありました。
ランニングでもオンロード、オフロードだけじゃなく室内も走ったり、アスリートじゃなくても体調維持や健康管理のためにジムトレーニングを行う人もいました。90年代は今でいうクロストレーニングが始まった時代でもあったのです。
『M1000』はデザイン的にもスピードを競うランニング用かといわれれば、そうではありませんよね。だからこそ自分もクロストレーニングっぽいシューズだなと思うわけです。
今の時代の流れの中で、当時パフォーマンス用として作ったシューズも、ライフスタイル用として現代に復刻されていたりします。『ニューバランス』でも当時はこんなカテゴリーが作られていたんだなと思うモデルがしばしば登場するときがありますが、『M1000』もまさにそれなんですよ」
「ニューバランス」で復刻されるモデルにも、昔のモデルゆえ少し異質に見えるものがあったりするが、時代やトレンドにはフィットしている。やはりたくさんのアーカイブを持っている「ニューバランス」の懐の広さと、時代を読む先見の明を感じられずにはいられない。