今年、ブランド設立50周年を迎えたナイキは、ご存知の通りランニングシューズシーンをリードする存在だ。ナイキが従来の常識を覆し、マラソンシューズにイノベーションを起こしたのは2017年のこと。アスリート、科学者、デザイナーたちが一丸となり、42.195kmを2時間以内(当時の男子マラソンの世界記録は2時間2分57秒)で走り切ることを目指した「Breaking2」というチャレンジで、厚底カーボンシューズを着用したエリウド・キプチョゲ選手が、非公認ながら2時間0分25秒という驚異的な記録をマーク。そこからナイキの厚底シューズの快進撃が始まった。
その後、キプチョゲ選手は、2018年9月のベルリンマラソンで、2時間1分39秒というタイムで世界記録を更新。さらに、今年9月のベルリンマラソンで、その世界記録を自ら30秒更新。ナイキのシューズとともに異次元の走りを見せ続けている。
現在では、多くのメーカーからカーボンプレートを搭載した厚底レーシングシューズが登場しているが、「Breaking2」がすべての始まりであり、ランニングシューズシーンを一変させたチャレンジであったのは間違いない。
そんなナイキのランニングシューズを体感し、より詳しくテクノロジーを理解するためのイベント「NIKE RUNNING MEDIA CAMP 2022(ナイキ ランニング メディア キャンプ 2022)」が、11月に長野県・軽井沢町で2日間に渡って開催された。今回はその模様をレポートする。
プロダクトプレゼンテーションでは、「NIKE ZOOMX VAPOFLY NEXT % 2(ナイキ ズームエックス ヴェイパーフライ ネクスト% 2)」、「NIKE ZOOMX STREAKFLY(ナイキ ズームエックス ストリークフライ)」といったレーシングシューズ、定番モデルの「NIKE AIR ZOOM PEGASUS 39(ナイキ エア ズーム ペガサス 39)」、それから以前Fashion Tech Newsで取り上げたトレイルランニングシューズについての説明を改めて受ける。
そして、このプレゼンテーションの際に、EKIDEN PACKのニューコレクションがお披露目となった。駅伝シーズンに発売されるのが恒例となっているEKIDEN PACK。インスピレーションソースとなったのは、2003年に発売されたランニングシューズ「ナイキ メイフライ」。そのモデル名が意味するのはカゲロウだが、日本語ではカゲロウとトンボが同じ“蜻蛉”という漢字を使うことから、トンボがモチーフになった。
トンボは“勝ち虫”とも呼ばれ、戦国時代には鎧、兜、鉄甲などの装飾に採用されていた。現代でも剣道の竹刀袋や鍔止めなどにトンボ柄が使われているのはその名残だろう。スウッシュにはトンボの羽をイメージした柄が採用されており、またその柄のリフレクター部分は光が当たると玉虫色に反射する。
元旦に行われるニューイヤー駅伝や、1月2日、3日に開催される箱根駅伝でも着用するランナーの活躍が見られるのではないだろうか。
プロダクトプレゼンテーションの後は、ランニングセッションへ。ウォーミングアップは、東洋大学陸上競技部長距離部門の酒井俊幸監督と、前田義弘主将のリードによって行われた。実際に東洋大学で行われているウォーミングアップを体験させてもらったのだが、主に股関節、肩甲骨周辺を動かす内容で、終了後には明らかに体の動きが良くなっていた。
ウォーミングアップの後は、NRC(Nike Run Club)の森実利コーチによるラダーやマーカーを使ったドリル。体にさまざまな刺激を入れて、普段使えていない筋肉を目覚めさせていく。効率よく走るためには、全身を上手く連動させる必要がある。
ただ闇雲に走っていても、良いフォームは身につかない。アスリートたちもさまざまな補強トレーニングを取り入れながら、理想的なフォームを身につけていく。そしてシューズの持つポテンシャルを十分に引き出すためにも、自分の体を思い通りに操る能力は必要なのだ。
ウォーミングアップ&ドリル中に履いていた「NIKE REACT INFINITY RUN FLYKNIT 3(ナイキ リアクト インフィニティ ラン フライニット 3)」を、「ヴェイパーフライ ネクスト% 2」に履き替えて、最後にアスファルトの上で流しを2本行った。
当たり前なのだが、ウォーミングアップ&ドリルをしっかりと行うと、体の動きが全く違う。股関節、肩甲骨はよく動き、地面からの反発もいつもよりも得られる感覚があった。シューズの機能を活かすには体の準備が大切なのだ。
夜の部は酒井監督トークセッション。東洋大学では、練習メニューによって、選手たちがシューズを履き分けるのは当たり前の行為。練習によって監督がシューズを指定することもあるという。
「私が現役だったときは、アップ用とレース用ぐらいのものでしたが今はもうそういう時代ではありません。練習内容によって履き分けることが当たり前になっています。全ての練習で速く走れば良いわけではないので、アルファフライやヴェイパーフライではなく、ペガサスで距離走をしようと指定することもあります。
スピードを求める練習なのか、ランニングフォームを作る練習なのか、レース用のシューズに慣れる練習なのか、目的によってシューズを変えればより効率的ですし、故障のリスクを減らすこともできます。
東洋大学の選手たちは、いろいろな練習でストリークフライを履きたがるんです。ストリークフライは僕の現役時代にもあったら良かったのにと思うぐらい良いシューズなのですが、まだ力が十分にない選手でもスピードが出るので、練習時のタイムを鵜呑みにできないところがあって(笑)。なので、監督もシューズの機能をちゃんと把握していないといけないんです。
また、現在は、結果に差が出るのがわかっている以上、シューズの進化に合わせて、最終的には、アルファフライやヴェイパーフライといったカーボンプレートを搭載した厚底シューズを履きこなせるようになる必要があります。そのためにはフィジカルも鍛えていかなければいけませんし、薄底時代とは負荷のかかる部位も変わってきているので、それに合わせたケアも重要になっています」
厚底シューズのポテンシャルを十分に引き出すためには、前傾姿勢を維持する必要がある。姿勢維持には背中の筋肉が必要で、酒井監督曰く「強い選手は背中がいい」とのこと。
ナイキ ランニング メディア キャンプ 2022の2日目は、実際にロード&トレイルを走るランニングセッション。ロードのみ4kmを走るか、トレイルを含む6kmを走るかの選択ができたが、後者を選択した。セッションには、前日に引き続き、東洋大学の酒井監督と、前田主将も参加。贅沢なトレイルランニングとなった。
もちろん準備はしっかりと。森コーチによるストレッチセッションで、股関節周りを中心に体を目覚めさせてから、ランニングへ向かった。
「NIKE ZOOMX ZEGAMA(ナイキ ズームエックス ゼガマ)」を着用したのだが、適度な反発があり、アップダウンのあるトレイルを快適に走ることができた。また、足元が滑ることもなく、安心して足を置くことができたのも好印象だった。
これにてナイキ ランニング メディア キャンプ 2022は終了。ナイキのシューズの機能性を体感できたのはもちろんだが、シチュエーションに合わせてシューズを履き分けることの大切さ、そして質の高いトレーニングをするためには体の準備が十分でなければならないことを再確認したキャンプだった。
Text by Fumihito Kouzu