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2024.02.26

パリのプルミエール・ヴィジョンから見えるファッションと環境の近未来

繊維・アパレル業界にとって環境への取り組みは大きなテーマだ。しかし両者は多くの場合で相容れない存在だった。それを少しでも近づけていこうという動きが至るところで見られている。ファッションにおけるエコ・レスポンシビリティである。
パリで年2回開かれる世界的なテキスタイルの展示見本市「プルミエール・ヴィジョン(Première Vision Paris)」。今年2月6日〜8日に開かれた同イベントでは、このエコ・レスポンシビリティが主要テーマのひとつとして取り上げられた。現地の最新動向を取材した。
© Première Vision
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環境意識が高いEUの消費者

「繊維産業は世界でもっとも汚れを出している」
パリ北郊外の展示会会場、ホール6のプレゼンテーション・スペースで、聴衆を前にこう切り出したのは、エコサートのヴァンサン・デュレ氏である。エコサートとは1991年にフランスで設立された有機農業認証機関だ。ヨーロッパを拠点に、食品・コスメ・ホームケア・テキスタイルなど、総合的なオーガニック認証サービスを各国で提供している。
エコサートのヴァンサン・デュレ氏(撮影/守隨亨延)
エコサートのヴァンサン・デュレ氏(撮影/守隨亨延)
デュレ氏はフランス公的機関アデムの統計を引き合いに出し、「現在は年間1,000億トンの衣類が世界で売られており、その量は2000年と比べて2倍になった」と繊維・アパレル業界の規模の大きさを説明。同統計によると、衣類と靴を合わせて年間40億トンの二酸化炭素が生み出されており、その二酸化炭素排出量は、世界における飛行機の国際線フライトおよび船舶が出す量より多いという。
デュレ氏は「ヨーロッパ連合(EU)だけで年間40億トン以上の無駄がある」と環境へのインパクトを指摘し、「ファッション産業は世界で3番目に水を多く使っており、その量は米栽培、小麦栽培の量に次いで多い」と付け加える。
© Première Vision
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では、消費者側における環境への意識はどうか。欧州委員会が2020年3月にまとめたアンケート「EU市民の環境に対する態度」によると、気候変動が「とても深刻な問題」と考える人はEUでは77パーセント、フランスでは76パーセントだそうだ。「少々深刻な問題」と捉える人はともに10パーセント後半、「深刻な問題ではない」は1桁後半で、気候変動に対して強い関心がうかがえる。
分野別の関心事は、気候変動がもっとも多い。次いで大気汚染、廃棄の増加、海洋汚染、水および土壌汚染、生物の種や生息域の減少および生態系の喪失などが続く。
繊維・アパレル産業が内包する環境負荷は、製品の販売戦略を考える上でも重要だ。今回のプルミエール・ヴィジョンは「a better way(ア・ベター・ウェイ)」という標語を掲げた。環境への「より良い道」への取り組みが、いかになされているかが、製品が消費者からの選択を得られる鍵となるからだ。
© Première Vision
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ポルトガルで目指すトレーサビリティな循環型産業

会場内では環境をテーマに、各国の取り組みについて発表が行われていた。そのうちのひとつが、ポルトガルにおいて同国の繊維衣料産業技術センター(CITEVE)が主導し、企業、大学、研究所など50以上の団体で協働する「Be@t(ビート)」である。
Be@tとは、「バイオ素材」「サーキュラリティ」「サステナビリティ」「社会」の4つを柱として、革新的かつ循環的で持続可能な繊維・アパレル産業を作り出し、強化していくプロジェクトだ。
具体的には、再利用可能な原料から作られた新素材を、運輸の環境負荷が低くなるよう可能な限りローカルで生産。生地のもととなる繊維の供給と、今まで欧州以外の第三国へ移していた製造ラインを欧州へ戻し、同地域の再工業化を図る。製品の安全性と、その製品がどのような経路をたどってきたのかというトレーサビリティも高めつつ、各バリューチェーン間における統合的協力を促進することによって、より循環的で持続可能な繊維・アパレル産業を形作ることを目指している。
© Première Vision
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ここで重要となるのが、消費者自身がこれら製品の流通経路の履歴を確認できること。二次元コードで読み取れるデジタルパスポートを製品に付与して、原料調達から生産、破棄、再利用までを追跡できるようにしている。製造から再利用までを可視化。Be@tの枠組みで生み出されたすべての衣料品の循環性を保証する。
同プロジェクトの説明で登壇したCITEVEのアントニオ・ブラズコスタ氏は「より持続可能な未来のために、繊維・アパレル産業のさらなるトレーサビリティは必要」と強調する。
CITEVEのアントニオ・ブラズコスタ氏(撮影/守隨 亨延)
CITEVEのアントニオ・ブラズコスタ氏(撮影/守隨 亨延)
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