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2023.04.18

創業65周年「Snow Peak」の街と自然をシームレスにするものづくり

新潟に本社を置き、ハイエンドなアウトドアアイテム全般を取り扱うブランド「Snow Peak(スノーピーク)」。

キャンプという軸を基に、アパレル、カフェ、ワーケーションなど様々な事業を行っている。その中から今回は、アパレルの部分にスポットを当て、ブランドの成り立ちや商品開発の詳細について、株式会社スノーピーク 企画開発本部 Apparel企画開発課エグゼクティブクリエーター菅純哉(すがじゅんや)さんにお話を伺った。

「Snow Peakは、1958年に新潟で初代社長の山井幸雄(やまいゆきお)が金物問屋、山井幸雄商店として創業し、今年で創業65年になります。

山井幸雄は現社長の山井太(やまいとおる)の父親であり、当時の登山用品に不満を持ち、オリジナル登山用品を開発していたことがSnow Peakのすべてのきっかけとなりました。

その後、1971年には株式会社ヤマコウという社名に組織変更され、1986年に山井太が入社。その年にスノーピークをオートキャンピングブランドとしてリニューアルを開始しました。そして1996年には株式会社スノーピークに社名を変更し、現在に至っています。

アパレルラインが本格的に始まったのは、2014年の秋冬からです。それ以前にもギアの延長線としての服は存在していましたが、2013年にアパレル事業として本格的に立ち上げることを決定し、そこからスタートしました」

創業者、山井幸雄氏。谷川岳をこよなく愛した登山家でもあった
創業者、山井幸雄氏。谷川岳をこよなく愛した登山家でもあった

「人生に、野遊びを。」街と自然をシームレスにするものづくり

キャンプというフィールドを通して、アパレルラインはどのようなアプローチでデザインワークや素材開発に取り組んでいるのだろうか。

「Snow Peakのコーポレートメッセージは『人生に、野遊びを。』というものであり、キャンプを通じた、人間性の回復を掲げています。

キャンプ以外にも、着るものは生活に密接に関わるものであるため、それに合った服づくりと、ユーザーの視点に立った企画を行っています。シーズンごとに異なるテーマを設けるのではなく、常にユーザーの視点で考えています。

また、キャンプイベントを会社で主催しており、毎年多くのイベントを実施しています。そこにはお客様の他に、ショップスタッフや開発者、広報担当など商品に携わる社員が参加し、お客様の意見をフィードバックして製品開発に取り入れるという取り組みが特徴です。また、『HOME⇄CAMP』というコンセプトがあり、街と自然をシームレスに行き来するシチュエーションを重要視しています。

クライミングやマウンテニアリングなどのアウトドアアクティビティの服装は、自然に対して人体を保護することが目的であり、そのために生地を強化する傾向があります。しかし、Snow Peakではそれを変えていきたいと考えています。

たとえば、以前のキャンプの服装に比べ、Snow Peakの服は機能を落とすことなく普段着に近い感覚で着用できるようなデザインを目指しています。生地が分厚くなりすぎてゴワゴワするようなことを避けるためにも、新しいアプローチを取り入れています。

キャンプはテントを張って自然の中でくつろいだり、時間を大切に過ごしたりするものであり、Snow Peakでは着心地の良さにこだわりつつ、必要なプロテクションも考慮しています。素材の風合いも柔らかくて着心地の良いものを選び、必要なスペックを備えながらも、オーバースペックな部分は排除し、より街でも着られるシンプルなデザインを目指しています。

そもそも洋服は、街で着る服とアウトドアで着る服をどうして着替えなくてはいけないのかなと思うんです。金曜、オフィスで働いて仕事終わりにそのままキャンプに行きたいと思ったときに、会社に着替えを持っていったり、着替えのために一度家に帰ったりせずに、鞄にギアを詰めておけばそのまま着替えずに行けるというシチュエーションを、デザインで作っていくという感じでしょうか」

長年愛されているSnow Peakの定番アイテム「Flexible Insulated Pullover」

ここからはアイテムについて伺っていこう。長年定番として愛されているSnow Peakの人気アイテムを紹介してもらった。

「中綿のアイテムで『Flexible Insulated Pullover(フレキシブル インシュレイティド プルオーバー)』という商品なのですが、春夏と秋冬で中綿の分量を変えたりと、マイナーチェンジをしながら毎シーズン作り続けているアイテムです。自然環境でのアウトドア活動ではレイヤリングが必要になることがありますが、このアイテムは一番外側にレインシェルミドルやダウンジャケットを着た上に、これを中に着ていても、生地も綿も糸も全てにストレッチが効いていて非常に着心地の良いアイテムです。ミドルレイヤーとして最適な仕様を考え抜いたアイテムとなっています。

もちろん季節によってアウターとしても使用できるアイテムです。『Flexible Insulated Pullover』は、アパレルのラインが立ち上がった頃からあるモデルで、長い年月のなかで何度かブラッシュアップを経て現在に至っています。

このアイテムはプルオーバーとしてデザインされていますが、同じ素材でカーディガン、シャツ、パンツ、ベストなども展開しており、1つのコンセプトを軸にしてトータルでパッケージできるようにラインナップを展開しています。この『Flexible Insulated』シリーズはSnow Peakのファンやスタッフに広く愛用されている人気のアイテムです」

ブランドを代表するアイテム、「Flexible Insulated Pullover」の素材についてさらに深掘りして聞いていこう。

「生地には東レのプライムフレックスというストレッチ性のある複合繊維を使用しています。一般的にストレッチ性を持たせるためにはポリウレタンが使われますが、ポリウレタンは脆化性がある上、原料がゴムであるため、ストレッチ性を高めるほど重くなるという課題があります。そこで、このアイテムではポリウレタンよりも軽いプライムフレックスを使うことで、ストレッチ性と軽量性の両立を実現しています。

また、『Flexible Insulated』シリーズでは中綿、生地、縫製のすべてに『3DeFX+®(スリーディー エフエックスプラス)』というスキームを使用しています。これにより、綿が縦、横、斜めに伸びる仕様になっており、糸まで含めてストレッチするため、ミドラーとして使用してもアウターとして使用しても、快適な着心地を提供することができます」

難燃素材で火の粉を気にせず焚き火を楽しむ

キャンプブームということもあり、さまざまなアウトドアブランドが焚き火にまつわるアイテムを作っている。Snow Peakはこの焚き火関連のアイテムにかなり早くから取り組んでいたそうだ。ここからはそのお話を伺っていこう。

「焚き火に関するアイテムについては、当ブランドのアパレルラインが立ち上がった当初から難燃性の素材を使用したものをリリースしてきました。

『TAKIBI Canvas Vest(たきびキャンバスベスト)』という商品は、タテ糸にコットン、ヨコ糸に難燃性のアクリルカネカロンを使用し、平織りで高密度に織り上げたアイテムです。焚き火を囲んでのコミュニケーションを大切にするブランドコンセプトに基づいて作られたベストで、焚き火の際によく起こる火の粉が飛んできて服に穴が開いてしまうことへの対策を施しています。

このベストは素材の機能性のみならず、収納力も高く、『着るバッグ』のような用途でも非常に人気のあるアイテムです。前面に4つのポケットが付いており、キャンプの際にハンマーやペグ、ライトなどを背中の大きなポケットに収納することができ、非常に使い勝手が良いという特徴があります。

また、貴重品などは前のポケットに入れておけばすぐに取り出せて便利です。キャンプだけでなく、フェスなどでもその利便性を発揮できるアイテムとなっています。この難燃素材を使用した『焚き火』シリーズは、用途や価格に応じて複数の種類を展開しています。

『TAKIBI Weather Cloth(たきびウェザークロス)』というアイテムもあります。これはアラミド繊維というさらに高い難燃性を持つ素材を使用しており、より高い安全性を追求した商品です」

新潟の本社は、社屋の他にキャンプ場や宿泊施設、スパなどが併設されている。

Snow Peakはアウトドアギアを起点に、キャンプだけでなく暮らし全般の製品を網羅している。また、環境に対する取り組みにも注力しており、リサイクル素材を使用した製品づくりや不要な洋服の回収、さらにはSnow Peakの製品を長く使用してもらうためのギアや洋服の修理体制も充実しているなど、そのどれをとっても人々の暮らしに寄り添ったブランドだといえるだろう。

Snow Peak本社敷地
Snow Peak本社敷地
PROFILE|プロフィール
菅 純哉(すが じゅんや)
菅 純哉(すが じゅんや)

株式会社スノーピーク 企画開発本部 Apparel企画開発課 エグゼクティブクリエーター
生地メーカーを経て、2013年にスノーピークに入社。入社と同時にアパレルラインの立ち上げに携わり現在アパレルラインの企画開発を担当している。

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