平成の思い出のブランドとして、必ずと言っていいほど名前が挙がるSUPER LOVERS(スーパーラヴァーズ)。
世代に関係なく、「SUPER LOVERS」というとロゴのハートマークを思い浮かべる人が多いはずだ。または、ジュニアラインの「LOVERS HOUSE」を愛用していた人は、パンダのマスコットキャラクター、「メリー&ケン」を思い出すだろう。多くの人を魅了したSUPER LOVERSの鮮やかな原色の配色やキュートなデザインは、平成の思い出のブランドとしてだけではなく、原宿を代表とするブランドの一つでもある。
SUPER LOVERSは、代表の田中康晴が「From Tokyo with love(=東京より愛を込めて)」をコンセプトに、大学時代の友人と1988年に立ち上げたブランドだ。
1970年代から1980年代のロンドンのストリートファッションに影響を受けた洋服は、感度の高いクラブカルチャーを中心に話題になる。89年の雑誌『CUTiE』で特集された「90’sデザイナーを探せ!!」でも、「東京から発信するFASHIONのNEW WAVE」として紹介された。当時のコメントには、「デザイン、素材ともに楽しい服。ラジカルなカジュアルさが、ポップなカラーで上手にミックスされている」と綴られている。
世代によっては意外に思うかもしれないが、初期のSUPER LOVERSはクラブカルチャーに寄りの雰囲気であり、『CUTiE』だけではなく、クラブ・シーンでも話題になったブランドだ。90年代前半の原宿系は主にクラブカルチャーを中心に盛り上がりをみせ、前回のBETTY’S BLUEと同様にSUPER LOVERSもクラブやライブハウスで目立つ服として人気だった。
デビュー後はロンドンやニューヨークのクラブで開催されたファッションイベントなどに積極的に参加し、SUPER LOVERSのブランドは知名度とともに人気が急上昇する。
SUPER LOVERSが本格的に出店する前は、「原宿マット・ギャラリー」や「渋谷マット・ギャラリー」といったセレクトショップで販売され、ロンドンでも3軒のショップで購入することができた。そして、1990年に1号店が代官山に出店。テレビや雑誌を中心に特集され、瞬く間に話題になっていった。1991年以降は渋谷パルコやラフォーレ原宿といったファッションビルにも進出していき、SUPER LOVERSの知名度とともにその勢いは止まることがな かった。
SUPER LOVERSは音楽とアーティストとの関係が深いブランドでもある。
クラブで目立つ服…というだけではなく、数々のアーティストにも愛された。
「TOKYO No.1 SOUL SET」の初期メンバーで、「THE BIG BAND!!」 のボーカルを務めたDJ DRAGONは、SUPER LOVERSの企画やデザインを行った。
そして、当時「THE BIG BAND!!」のメンバーのいしだ壱成も、中性的な雰囲気でSUPER LOVERSの服を着こなしていた。
94年頃は、丈が短いチビTやヘソだしルックが流行っていたが、女性だけではなく一部の感度の高い男性からも支持されていた。男性の中性的な着こなしは、当時人気モデルだったいしだ壱成や武田真治を中心に流行したが、いしだ壱成がSUPER LOVERSを愛用していたこともあり、さらに話題となった。
また、90年代に活躍したイギリスの女性アイドルデュオ「Shampoo(シャンプー)」もSUPER LOVERSを日本の大好きなブランドとして公言しており、雑誌のインタビューなどでは度々SUPER LOVERSの魅力を語っていた。
東京からデビューしたSUPER LOVERSは、東京だけではなく世界で活躍する海外アーティストも虜にしていった。
初期のSUPER LOVERSはクラブ・シーンを中心に人気だったが、90年代後半になると、その雰囲気もまた少し変わってきた。クラブで人気のファッションから、原宿を中心としたストリートで人気のファッションブランドとしての印象が強くなっていく。
そして、フレイムグラフィックス代表のアートディレクター、田中秀幸が作り出すキャラクターもSUPER LOVERSの世界を彩った。田中康晴と兄弟でもある田中秀幸は、LOVERS HOUSEのマスコットキャラクターでもある、「メリー&ケン」を筆頭に、さらなるSUPER LOVERSのファンを増やしていった。1998年には、フジテレビ系深夜番組のFlyerTV内で『スーパーミルクちゃん』のアニメが放送され、視聴者の心を惹きつけた。
田中秀幸が生み出すかわいくて少し毒っ気のあるキャラクターは、瞬く間にティーンの間で人気になる。
また、90年代後半のSUPER LOVERSを語るにあたって、篠原ともえの存在は欠かせないだろう。お団子ヘアに眉上のぱっつん前髪、首にぶら下げたゴーグル、また両腕にたくさんのキッチュなブレスレットを身につけた姿は、強烈なインパクトとともに瞬く間に人気になる。次第に篠原ともえの自己プロデュースされたファッションは、「シノラー」と名付けられたフォロワーたちが真似するようになる。
田中秀幸は篠原ともえの「クルクルミラクル」「ウルトラリラックス」のMV、そしてCDジャケットデザインを担当し、篠原ともえの魅力をさらに引き立てた。
90年代後半に青春時代を過ごした者なら、SUPER LOVERSのブランド名とセットで篠原ともえを思い出す人も多いのではないだろうか。
当時の篠原ともえの服装やキャラクターは「不思議ちゃん」といった枠に押し込められることが多かった。しかし、篠原ともえが織りなすクリエイティブは「シノラー」や「不思議ちゃん」という単純な言葉を飛び越えて、SUPER LOVERSの世界観ととても相性が良かった。
90年代後半にはジュニアラインのLOVERS HOUSEが立ち上がり、注目されるようになる。またUKパンクモチーフとオールドスクールからインスパイアされたLOVERSROCKも既存のファンのみならず、新たなファンを増やしていった。
いつしか、原宿の街にはSUPER LOVERSのショッパーを持っている人々の光景が定番になっていった。90年代後半のラフォーレ原宿は他にも人気ブランドで溢れていたが、嬉しそうな顔でSUPER LOVERSのショッパーを持つ人々の姿は筆者の記憶にも残っている。
90年代後半から人気がさらに加速したSUPER LOVERSの勢いは、2000年に入っても止まることはなかった。2000年には、SUPER LOVERSを軸に様々なアーティストが集まってコラボレーションが実現する。坂井真紀を筆頭に多くのクリエイターが集まったブランドの「Wu」や、音楽とファッションがコンセプトの「Drawing Room」が立ち上がった。また、電気グルーヴのピエール瀧と田中秀幸のVJユニットの「プリンストンガ」はクラブ・シーンに合うTシャツ類を中心に展開した。SUPER LOVERSのクリエティブはさらに強まっていった。
同年の秋には、六本木のベルファーレで「スーパーラヴァーズナイト」が開催され、サワサキヨシヒロ、DJ DRAGON、キャプテンファンク、TASAKAなどの人気DJが参加し、大いに盛り上がった。
また、ジュ ニアラインのLOVERS HOUSEの陽気なポップさはジュニア世代の憧れのブランドにもなっていき、人気は最高潮になる。ジュニア雑誌の『ピチレモン』や『melon』でも特集され、人気のジュニアモデルたちがLOVERS HOUSEの服を着こなし、少女たちの憧れの的となった。LOVERS HOUSEのマスコットキャラクターの「メリー&ケン」も既存のファンのみならず、小・中学生の心もしっかり掴んだ。
そして、2010年代に入ると、LOVERSROCKもUKパンクに徹したコンセプトが原宿のパンクファッションブランドの一つとして、再評価されていった。
平成の原宿カルチャーの一端を担っていたSUPER LOVERSであったが、惜しくも2017年に幕を閉じることになる。2017年に閉店終了を綴ったブログやSNSの投稿に驚いた人も多いだろう。平成が終わる前に終了してしまったSUPER LOVERSは、青春の思い出ブランドとして語られるようになった。
しかし、新時代を迎えた2019年にSUPER LOVERSは収益の一部を社会支援団体に寄付するドネーション型のブランドとして再出発した。初期コンセセプトの「From Tokyo with love(=東京より愛を込めて)」から、「世界中にかつてないほどのLOVEを」が加わり、SUPER LOVERSの「LOVE」はさらに広がりをみせることになる。
そして再び耳にする、「SUPER LOVERS」の言葉に、私たちはただ懐かしいという思いだけではなく、安心感があった。流行回帰で再び90年代ファッションが注目されるなか、SUPER LOVERSのファッションとスタイルは、当時を語る上で、必要不可欠と言ってもいいだろう。
また、SUPER LOVERSが打ち出した広告も話題をさらった。日本を代表するストリートスナップ誌『FRUiTS(フルーツ)』とのタイアップである。
当時のストリートスナップは、これ以上ない説得力とストリートの輝きが色褪せることなく切り取られている。やはりSUPER LOVERSは原宿を代表とするブランドだと再認識させられる広告だ。
最近では、SNSでも人気の復刻シリーズから「niko and…」とのコラボレーションや、「LOVERS HOUSE」と「BETTY’S BLUE」が夢のようなコラボレーションを実現した。
平成に私たちを魅了したブランドのクリエティブは、若い世代にも影響を与え、新時代にも受け継がれた。令和からもさらなる広がりを見せるSUPER LOVERの活躍に今後も期待が高まる。
ヘッダーキャプション:SUPER LOVERSショッパー(筆者私物)
ライター・コレクター
2018年からSNSを中心に90年代〜00年代の平成ガールズカルチャーをメインに紹介している。以降、『オリコンニュース』『現代ビジネス』『WWD.JAPAN』『ビジネスジャーナル』『クイック・ジャパン』『アーバンライフメトロ』『東洋経済オンライン』などで平成カルチャー関連のインタビューや執筆・寄稿に携わる。古雑誌をメインに平成ガールズカルチャー関連のアイテムを膨大に所有。