Fashion Tech News symbol
Fashion Tech News logo
2021.02.22

マテリアルエクスペリエンスという問い:What's the Matter? 001イベントレポート

ファッション領域における様々なテクノロジーの導入は、コロナ禍の影響もあり一層加速している。多種多様な方向で「ファッション」というものが変化するなか、衣服そのものもまた新しい方向へと向かっている。衣服自体をコンピュータ化していくウェアラブルデバイス、バイオマテリアル、高機能繊維など様々なアップデートや試みが登場する一方で、こういった新たな衣服をめぐっては肌に直接触れるアパレル製品ならではの難しさ、マーケットの大きさといった問題もあるだろう。
また、こういった開発やそこに至る研究の推進は、従来の担い手とは異なるところで展開されることも多いことから、ファッションの主流とは異なる特殊なものと捉えられてしまうかもしれない。だが、スマートウォッチがすっかり従来の時計に置き換わりつつあるように、衣服のアップデートもありうべき未来のひとつ。私たちの周囲にある素材やデバイスに、どんな変化が起きるのか?また、そういった課題に取り組む研究領域はどのような潮流にあるのか?
それを考えるうえでのヒントを存分に与えてくれるであろうイベント、東京大学大学院情報学環・学際情報学府、筧康明研究室によるトークイベント「What’s the Matter?」がスタートする。2021年に本格始動する本イベントだが、先んじて2020年6月25日にオンライン開催されている。今回は、その第1回の内容を追いながら、そこで提唱された「マテリアル・エクスペリエンス・デザイン」という考えに迫りたい。

「マテリアル・エクスペリエンス・デザイン」という領域への誘い

「マテリアル・エクスペリエンス・デザイン」とは、筧康明 准教授(東京大学大学院情報学環)が提唱するマテリアル、情報、体験を繋ぐ試み。そして筧准教授の主宰するxlabは、多様なバックグラウンドの人々が、そこで新たな問いや可能性を模索するコミュニティとなっている。まずは、この「マテリアル・エクスペリエンス・デザイン」の概要について、筧准教授による説明からイベントは始まった。
土台となる研究領域はHCI(Human Computer Interaction)と呼ばれ、「デジタルとフィジカルの調停」を主題として取り組んできた領域である。コンピューターの普及、インターネットの登場によってデジタル環境がフィジカルでの環境を上回るほどに発達している現代において、デジタル環境と実空間や私たちの身体をいかに接続、調停するかという問題が立ち現れた。そこでは当初、実世界をデジタルの世界に置き換える映像としてのアプローチ(VRやAugmented Reality)から、続いて実世界に存在するモノの上に映像を重ねるプロジェクションが登場し、変化の乏しい実世界に動的なインタラクションを与えることで、実世界をベースにした新たな繋がりや体験を形成する試みが展開された。さらに2010年代頃からデジタルファブリケーションと呼ばれるモノのプログラミング、コンピューターでモノを生成するという流れが登場、従来のようにモノに映像を重ねるのではなく、モノをつくるところにコンピューターが関与してくるようになった。
そして筧准教授らが現在、取り組んでいるのがマテリアルそのものをプログラムしていく、マテリアルの特性からつくっていくというアプローチ。それは電気的/機械的な制御でなく、周囲の環境に応じて形、色、香りといった特性を変えるモノをインタラクティブなメディアとして用いる。さらに、マテリアル・エクスペリエンス・デザインの射程は、技術開発にとどまらず、私たちがそれらをどう使いこなすか、どんな新しい関係性や体験が生まれるかを追求している。マテリアル自体を理解し、マテリアルとの関わりを探究し、そしてマテリアルを介してその先にあるモノの生態系にアクセスしていくのだという。
筧氏の発表スライドより、伝統工芸に新しい物質やインタラクションを組み込む西陣織の事例
筧氏の発表スライドより、伝統工芸に新しい物質やインタラクションを組み込む西陣織の事例
1 / 4 ページ
#Augmented Reality
#Virtual Reality
#Wearable Device
#Smart Textile
この記事をシェアする