Fashion Tech News symbol
Fashion Tech News logo

神楽岡久美:身体と拘束、現代と未来の美の在り方

テクノロジーの進化や地球環境の変化によって目まぐるしく変化する、私たちの衣服/身体環境。そんな今日におけるファッションの「作ること・纏うこと・届けること」とは、どういった状況にあるのでしょうか?Fashion Tech Newsリニューアル記念特集として、衣服や身体をとりまく技術的/社会的状況の変容について、また、そこから描きだされる未来像について、5名の方々へのインタビューから考えていきたいと思います。
PROFILE|プロフィール
神楽岡久美

2015年より「身体とは世界と対話するためのツールである。」をステートメントに、アーティストとして活動を開始。同年「SICF 16」にて作品「光を摘む」でグランプリを受賞。近年では小山登美夫氏監修による『9人の眼 -9人のアーティスト-』展に竹内真氏の推薦で出展するなど、ギャラリー、アートセンター、西武 渋谷店にて個展を行う。ファッション誌「NUMERO BERLIN」「VOGUE MAN HONG KONG」にて作品、インタビューが掲載されるなど、国内外のメディアに出演、作品提供を行い、美術館でのグループ展やワークショップの企画なども行っている。2021年に吉野石膏美術振興財団による在外研修アーティストに選定され、ニューヨークでの活動を開始する予定。

WebsiteInstagramSEIBU SOGO

今日のファッション文化、および衣服や身体を取り巻く環境

「拘束による身体の変態」

私は現在、「美的身体のメタモルフォーゼ」というシリーズ作品を制作しています。これは、「拘束」によって骨格から理想の身体にデザインするギプスの制作であり、人間社会の中で築かれてきた美の価値(美的価値)を可視化しています。人間社会において、財力・知力・体力に次ぐ4番目に美力、つまり美的価値が挙げられると考えました。それには、美的価値によって身体が変化し続けてきた歴史があり、過去を振り返ると、美的価値の変動によって起きた身体の変態、身体へのアクションが長く続いているからです。そのアクションには「拘束」と「装飾」があるように思いました。双方に魅力はありますが、この制作では「拘束」にフォーカスを当てています。歴史を紐解いてみると痛みを伴い、時代によってはすごくストレスフルで命に関わるようなものをあえて人が選んできた時代背景があり、また当時の文化や宗教観、ジェンダーの問題などから「拘束による身体の変態」が生まれてきたことがわかってきました。
実は、私自身この作品を作ったきっかけはコンプレックスから生まれています。幼少から好きだったアニメのヒロインであったり、買い物で百貨店に行くと目にするきれいな服を着たマネキンはスーパーモデルと同じような体型で、自分とは正反対でした。このことから憧れと、実際の自分との差異からコンプレックスが生まれたのではないかと思っています。自分が消化しきれない社会から受けたストレスのようなものとその要因に向き合いたくて、今の制作を始めています。

機能と美

制作において、パーツの一部であるバネやボルト、メリケンサックの重りを強調したフォルムとサイズで作っています。これらのパーツをあえて強調しているのは、それぞれのパーツの特徴となる機能を見せることでギプスが身体にどのような影響を与えるのか、その影響によってどんな身体が形成されるのかを作品を鑑賞する人にイメージしてもらえたらと考えたからです。造形はその考えをもとに決まってくることもあります。ドローイングしている時も造形のイメージというよりかは、こうしたいから何をどう取り付けたらいいのか、どんな機能が必要かをイメージしてドローイングをしています。
Plaster cast to prevent bad, slumped posture & Plaster cast to build arm muscles.
Plaster cast to prevent bad, slumped posture & Plaster cast to build arm muscles.
自身の作品を装身具と呼ばれることもありますが、自分の中で一番ぴったりきているのは「ギプス」という呼び方です。身に着けるものなので装飾的な要素もあるという意見もわかるのですが、例えばフリルがたくさんついている装飾だったら、このフリルはビジュアル的な要素はあるけど身体の骨格自体にダイレクトなストレスや変態する影響を及ぼしてないですよね。でもコルセットのような下着や靴は、日々装着し、時間をかけてでも身体にダメージや骨格の変形を起こします。このような長期にわたる拘束的な機能を用いているのはギプスで、とてもしっくりきました。
Study of Metamorphose [Plaster cast to prevent bad, slumped posture & Plaster cast to build arm muscles.]
Study of Metamorphose [Plaster cast to prevent bad, slumped posture & Plaster cast to build arm muscles.]

最先端テクノロジーの普及と、衣服や身体をめぐる状況

データを活用するものづくり

ただ、身体に沿ったものを作るのは難しいと感じています。制作には3Dソフトを取り入れていて、自分の体型データ、私は日本人女性の平均体型のようですが、それをスキャニングしたものも活用しています。3Dを取り入れているのは、作品やその制作過程をデータ化することで世界の誰とでも共有できると思ったからです。
衣服も最近そうなっていますし、形にはないけどデータとして共有できる、身に付けられるものというのはすごく面白そうだなと思っています。プロダクトを作っているわけではなくあくまで作品ですが、作品自体がデータとなって様々な場所や分野を横断していけると、また次の制作への展開が見えてくるかなという可能性を感じています。
1 / 2 ページ
#Wearable Device
#3DCG
この記事をシェアする