2021.04.22

神楽岡久美:身体と拘束、現代と未来の美の在り方

#インタビュー特集:衣服/身体環境の現時点:作ること・纏うこと・届けること
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テクノロジーの進化や地球環境の変化によって目まぐるしく変化する、私たちの衣服/身体環境。そんな今日におけるファッションの「作ること・纏うこと・届けること」とは、どういった状況にあるのでしょうか?Fashion Tech Newsリニューアル記念特集として、衣服や身体をとりまく技術的/社会的状況の変容について、また、そこから描きだされる未来像について、5名の方々へのインタビューから考えていきたいと思います。

PROFILE|プロフィール
神楽岡久美

2015年より「身体とは世界と対話するためのツールである。」をステートメントに、アーティストとして活動を開始。同年「SICF 16」にて作品「光を摘む」でグランプリを受賞。近年では小山登美夫氏監修による『9人の眼 -9人のアーティスト-』展に竹内真氏の推薦で出展するなど、ギャラリー、アートセンター、西武 渋谷店にて個展を行う。ファッション誌「NUMERO BERLIN」「VOGUE MAN HONG KONG」にて作品、インタビューが掲載されるなど、国内外のメディアに出演、作品提供を行い、美術館でのグループ展やワークショップの企画なども行っている。2021年に吉野石膏美術振興財団による在外研修アーティストに選定され、ニューヨークでの活動を開始する予定。

WebsiteInstagramSEIBU SOGO

今日のファッション文化、および衣服や身体を取り巻く環境

「拘束による身体の変態」

私は現在、「美的身体のメタモルフォーゼ」というシリーズ作品を制作しています。これは、「拘束」によって骨格から理想の身体にデザインするギプスの制作であり、人間社会の中で築かれてきた美の価値(美的価値)を可視化しています。人間社会において、財力・知力・体力に次ぐ4番目に美力、つまり美的価値が挙げられると考えました。それには、美的価値によって身体が変化し続けてきた歴史があり、過去を振り返ると、美的価値の変動によって起きた身体の変態、身体へのアクションが長く続いているからです。そのアクションには「拘束」と「装飾」があるように思いました。双方に魅力はありますが、この制作では「拘束」にフォーカスを当てています。歴史を紐解いてみると痛みを伴い、時代によってはすごくストレスフルで命に関わるようなものをあえて人が選んできた時代背景があり、また当時の文化や宗教観、ジェンダーの問題などから「拘束による身体の変態」が生まれてきたことがわかってきました。

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実は、私自身この作品を作ったきっかけはコンプレックスから生まれています。幼少から好きだったアニメのヒロインであったり、買い物で百貨店に行くと目にするきれいな服を着たマネキンはスーパーモデルと同じような体型で、自分とは正反対でした。このことから憧れと、実際の自分との差異からコンプレックスが生まれたのではないかと思っています。自分が消化しきれない社会から受けたストレスのようなものとその要因に向き合いたくて、今の制作を始めています。

機能と美

制作において、パーツの一部であるバネやボルト、メリケンサックの重りを強調したフォルムとサイズで作っています。これらのパーツをあえて強調しているのは、それぞれのパーツの特徴となる機能を見せることでギプスが身体にどのような影響を与えるのか、その影響によってどんな身体が形成されるのかを作品を鑑賞する人にイメージしてもらえたらと考えたからです。造形はその考えをもとに決まってくることもあります。ドローイングしている時も造形のイメージというよりかは、こうしたいから何をどう取り付けたらいいのか、どんな機能が必要かをイメージしてドローイングをしています。

Plaster cast to prevent bad, slumped posture & Plaster cast to build arm muscles.
Plaster cast to prevent bad, slumped posture & Plaster cast to build arm muscles.

自身の作品を装身具と呼ばれることもありますが、自分の中で一番ぴったりきているのは「ギプス」という呼び方です。身に着けるものなので装飾的な要素もあるという意見もわかるのですが、例えばフリルがたくさんついている装飾だったら、このフリルはビジュアル的な要素はあるけど身体の骨格自体にダイレクトなストレスや変態する影響を及ぼしてないですよね。でもコルセットのような下着や靴は、日々装着し、時間をかけてでも身体にダメージや骨格の変形を起こします。このような長期にわたる拘束的な機能を用いているのはギプスで、とてもしっくりきました。

Study of Metamorphose [Plaster cast to prevent bad, slumped posture & Plaster cast to build arm muscles.]
Study of Metamorphose [Plaster cast to prevent bad, slumped posture & Plaster cast to build arm muscles.]

最先端テクノロジーの普及と、衣服や身体をめぐる状況

データを活用するものづくり

ただ、身体に沿ったものを作るのは難しいと感じています。制作には3Dソフトを取り入れていて、自分の体型データ、私は日本人女性の平均体型のようですが、それをスキャニングしたものも活用しています。3Dを取り入れているのは、作品やその制作過程をデータ化することで世界の誰とでも共有できると思ったからです。

衣服も最近そうなっていますし、形にはないけどデータとして共有できる、身に付けられるものというのはすごく面白そうだなと思っています。プロダクトを作っているわけではなくあくまで作品ですが、作品自体がデータとなって様々な場所や分野を横断していけると、また次の制作への展開が見えてくるかなという可能性を感じています。

バーチャルの身体と現実の身体

例えばアバターなど面白いと思っています。アバターを通して実際の人物とは異なる「キャラクター」や「異空間」が生まれており、現実世界の本人とは異なるキャラクター性やセルフイメージとのギャップを垣間見ると現実世界で見えているもの、脳が普段認知している現実ってごくわずかな気もして面白いなと思います。そういったものに触れると現実世界の普遍的なことに対しても新たな物差しでできた価値観や視点で捉えることができるようになってくるのではないかと思います。

バーチャルだけでは満たされない、現実の身体へのコンプレックスを解消したいという欲望もあるかもしれません。以前、「盛り」を研究している久保友香さんの講演会を聞きに行った時に、講演会に参加しているゲストの皆さんがとてもかわいく、盛ることに関してとても上手な人たちなのですが、それでも「整形したい」という本音を聞いて、実際の自分自身の容姿に対してそれでいいとはならないのだなと思いました。(バーチャルの身体と現実の身体は)また別なのでしょうね。

<p><span style="color:#000000">例えばアバターなど面白いと思っています。アバターを通して実際の人物とは異なる「キャラクター」や「異空間」が生まれており、現実世界の本人とは異なるキャラクター性やセルフイメージとのギャップを垣間見ると現実世界で見えているもの、脳が普段認知している現実ってごくわずかな気もして面白いなと思います。そういったものに触れると現実世界の普遍的なことに対しても新たな物差しでできた価値観や視点で捉えることができるようになってくるのではないかと思います。</span><br><br><span style="color:#000000">バーチャルだけでは満たされない、現実の身体へのコンプレックスを解消したいという欲望もあるかもしれません。以前、「盛り」を研究している久保友香さんの講演会を聞きに行った時に、講演会に参加しているゲストの皆さんがとてもかわいく、盛ることに関してとても上手な人たちなのですが、それでも「整形したい」という本音を聞いて、実際の自分自身の容姿に対してそれでいいとはならないのだなと思いました。(バーチャルの身体と現実の身体は)また別なのでしょうね。</span></p>

10年後のファッション、衣服を着用すること、私たちの身体の在り方

1000年後の身体をつくるギプス

美的身体のメタモルフォーゼ/撮影:浦野航気
美的身体のメタモルフォーゼ/撮影:浦野航気

2016年に制作したギプスは「現代の美的価値」を可視化した作品で、鼻を高くするという機能に特化したものや、猫背を直してすらっとした姿勢でいたい、モデルのように素敵に歩きたいなど、現代人に認識できる美的価値にフォーカスした作品です。

2018年ごろから制作しているのが、未来の身体を形成するギプスです。そこでは未来の美的価値がどういったものになるのかが重要です。ビジョンを漠然としたものでなく、ある程度の科学的根拠のもと組み立てていくために、まず未来の環境のことを調べてみました。未来の環境について考えると、1000年後もしかしたら火星や宇宙に移住することとかもあり得るかもしれない。しかしあえて未来の地球環境としてリサーチすると、乾燥地帯が増え、温暖化が進行し、生命が生きていくには厳しい環境になることがわかります。このように身体を取り巻く環境のことがわかってくると、次に環境が厳しい中で美の位置づけってどうなるかなと考えました。現在の表層的な容姿に対する「かわいい」や「盛れた」という美的価値よりも、生命体として厳しい環境下においても生き抜く強さ、つまり 「生命体としての強さ」が価値としてあげられるのではないかと考えました。

Study of Metamorphose [beautiful body.]
Study of Metamorphose [beautiful body.]

一つのモデルとして、アフリカのディンカ族という民族をピックアップしました。彼らは平均身長が(今はまばらですが)最も高く、乾燥地帯で生活しています。彼らからNBA選手やパリコレのファッションモデルが生まれていて、彼らから逞しさを感じていました。彼らの体型と自分の体型を並べてみると、顔のサイズはほぼ一緒だけど縦長で、胴や腰回り、足の骨の長さが全く違っています。その差を見て、縦に引き伸ばす機能をとり入れたギプスを、未来の身体を形成するギプスとして作っています。

今は地球環境においての美的価値という視点で考えられていますが、地球環境に対して優しい人類の身体はもっと別で真逆かもしれない。身体から多分野に派生することには様々な可能性があり、引き続きこの制作は続けたいです。

左:Extended finger/右:Study of Metamorphose [collage]-no.03
左:Extended finger/右:Study of Metamorphose [collage]-no.03

AIと美意識

(少し話は逸れますが、)将棋のプロと戦った人工知能(AI)はとにかく勝つために次の一手を決めるようです。その一つ一つを人間のプロの棋士が見ると危険な一手であり、理解しにくいようです。AIが打ち出す答えは最終的には勝つのみなのでそれでいいのかもしれません。それをもとに考えると、 AI が出した答えを人間が受け入れられるのか、というのは興味深いです。以前、拝読した書籍に人工知能には「美意識」にあたるものが存在しないことを示唆する一文があり、なんとなく腑におちました。AIが導き出した答えが、人が収集したデータによるものであっても受け入れられるものとは限らない。

それをどのように人が解釈して今後それを活用していくかというのは、すごく興味があります。もしかすると、そこから新しい思想や価値が生まれてくるかもしれないし、AIが導き出したものが今まではありえないと思われていた物事も、受け入れられていくかもしれない。そうなっていく要因はどこに、何にあるのかという視点から新たなクリエイションが生まれ、より人間社会が豊かになっていったらいいなと思います。

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Photo by Kazunori Ohki

#Wearable Device#3DCG
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