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ジュリア・カセム「インクルーシブデザインにおけるプロセス設計の重要性」

ロボットや義足の研究者、株式会社Xiborg・遠藤謙氏とお送りする特集企画「身体/衣服と機能」。今回は、インクルーシブデザインの研究者であるジュリア・カセム氏をお迎えします。

インクルーシブデザインの考え方から始まり、昨今のダイバーシティやSDGsをめぐる意識の変化、産業の取り組みの課題などをめぐって、対話を展開していただきました。
PROFILE|プロフィール
Julia Cassim (ジュリア・カセム)
Julia Cassim (ジュリア・カセム)

京都工芸繊維大学特任教授・ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)のフェロー、インクルーシブデザインの世界的権威。1984年から99年までジャパンタイムズ のアートコラムニストを勤めたのち、2000年から2014年までRCAのヘレン・ハムリン研究センターに所属。2014年5月より、京都工芸繊維大学に着任、KYOTO Design Labの立上げに携わる。2010年にデザイン界に最も影響を与えた人物としてDesignWeek誌のHot50に選出。

プロセス設計とユーザーとの対峙

インクルーシブデザインの基本

カセムまず、「インクルーシブ」という言葉は「含める」という意味です。デザインがいくら頑張っても、やっぱり自在の排除があり得てしまいますね。
インクルーシブデザインで最も基本となるのは、物理的な多様性ーー身体の多様性、精神的な多様性、さらに言葉の多様性など、色々なレベルでの多様性にどう答えれば良いのかを考えることです。そして幅広い人間が楽しめ、満足できるデザインとすべく、プロセス自体のデザインが重要になってきます。私はどんなプロジェクトでもまず最初に、どのようにプロセスを踏めば欲しい結果となるかを考え、プロセス自体の設計を行っています。
遠藤インクルーシブデザインという言葉自体は、いつ頃から出てきた言葉なのでしょうか。
カセム最初にその言葉が使われたのは、私のRCA時代の上司に当たるロジャ・コールマン(Roger Colemanが、1997年頃の会議の報告にて発言したものだとされています。
当時はユニバーサルデザインという言葉もありましたが、「ユニバーサル」という言葉を当時のデザイナーたちはものすごく嫌っていました。なぜなら、「ユニバーサル」はすべての人が楽しめる、すべての人が使えるという意味ではあるものの、いくら優れたデザインをしても、すべての人は楽しめません。このような極めて非現実的な表現に対して、より正確な表現があるのではないかということから「インクルーシブ」という言葉が出てきました。
「The 24 and 48 Hour Inclusive Design Challenges」
「The 24 and 48 Hour Inclusive Design Challenges」
遠藤良くも悪くも、大量生産・大量消費のプロセスのコストに比べて、インクルーシブデザインは個々のダイバーシティに対応することから、コストが高いようように感じられるのですが、こういった経済的な合理性に関しては、インクルーシブデザインはどういうような考え方をするのでしょうか?
カセムそれはよく聞かれますね。注意深くプロセスそのものをデザインすると、結果が良くなり、そして結果が良くなるとデザインの結果が長持ちします。また、デザインミスが非常に少なくなる。その意味で、長期的にはインクルーシブデザインの方がミスが少ない分だけ安く、ないしは長持ちすると思います。

装具とユーザーのセルフイメージ

カセム障がいの種類や程度によって異なるとは思いますが、障がいを持つ子の親はみな、特殊な装具のデザインの問題をはっきりと感じていると思います。つまり、製品が使えない、醜いなといったことです。それが自分の子供でも、他の障がい者との関わりのなかでも同じことですが、配慮(sensitivity)のないデザインが、どれほどユーザーの日常生活にインパクトを与えているのかを毎日のように目の当たりにしていました。
娘のライラ(グラフィックデザイナーであり、車椅子を使用している)は小さな頃に、ものすごく重くて醜い、金属の入ったブーツを履いていました。そのブーツを見ると、こんな時代遅れの悪いデザインを誰が認めるというのだろうか、これを履いているユーザーに対してもイメージを悪くするものだと思いました。スタイリッシュにならないし、これを見た他の人は、ユーザーの人間性が見えなくなる。こういったプロダクトに対し、なぜこういったものを認めるのか、とても腹が立ちました。
私がすごく興味深いと思ったことのひとつに、障がい者の世界では、服のような体に直接身に着けるものと、体とは別に存在するものを区別することです。たとえば、車椅子のデザインが悪くても、車椅子はユーザーのイメージに何も影響を与えない、それは車椅子が悪いとなります。しかし、たとえば装具だったら、それは身体の一部となるのでセルフイメージに与える影響が大きいのです。
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#Wearable Device
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