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遠藤謙「身体/衣服と機能」

Fashion Tech Newsでは多様な領域からゲスト監修者をお招きし、ファッションやテクノロジーの未来について考えるための領域横断的な特集企画をお届けします。第3弾はロボットや義足の研究者であり、株式会社Xiborg・遠藤謙氏を監修者に迎え、「身体/衣服と機能」をテーマにお届けします。
先端テクノロジーと結びついたスマート衣料、義手や義足、スポーツウェアなど、様々な身に纏うものが飛躍的に進化するなか、衣服の在り方はどのように変化していくのでしょうか。装身具の現時点を追いながら、広く身に着けるモノのなかで衣服/ファッションというものを捉え直すことを試みたいと思います。
PROFILE|プロフィール
遠藤 謙

株式会社Xiborg代表取締役

慶應義塾大学修士課程修了後、渡米。マサチューセッツ工科大学メディアラボバイオメカトロニクスグループにて、人間の身体能力の解析や下腿義足の開発に従事。2012年博士取得。一方、マサチューセッツ工科大学D-labにて講師を勤め、途上国向けの義肢装具に関する講義を担当。現在、ソニーコンピュータサイエンス研究所アソシエイトリサーチャー。ロボット技術を用いた身体能力の拡張に関する研究に携わる。2012年、MITが出版する科学雑誌Technology Reviewが選ぶ35才以下のイノベータ35人(TR35)に選出された。2014年ダボス会議ヤンググローバルリーダー。

身につけるものの機能と見た目

見た目をめぐる主観

たとえばハイヒールは機能美かどうかという話は、昔から友人と話題としていましたが、僕は基本的にそれは機能美ではないという考えでした。僕は歩行に関する研究をしていますが、ハイヒールは歩行に必要な機能は間違いなく失っている。
けれども、そこで人々が求めているものは歩行の機能ではなく、何か他のものなんだなということを30代に入ってから学ぶようになりました。女性の目線が高くなることによって得られる快感とか、足が長く見えるような他人からの目、あとは気合が入るみたいな主観的なものだったり、それを果たして機能として認めるのか。
また、インドでシャツを配るプロジェクトを行ったときにも、安いものでいいんじゃないかという人が結構いたんですね。白いシャツをただ配る、それでいいと。でも、10円予算を増やしたとしても、様々な色のシャツがあった方がいいのではないか。それに対して途上国のお金のない人が喜ぶかどうか、僕らの目線では判断できていないんだなって思ったんです。結果的に、色の選択肢があったほうが喜ばれました。
だから、機能が求められるなかでも、人間の受け止め方には主観的なものも入ってくる気がします。衣服もそうだし、ウェアラブルデバイスもそうだし、人間が求めるものは一位的なものではなくて、色んな人が色んなものを求めている。なのでデバイスも多様化していくし、ファッション自体もテクノロジーによって多様化する、一概にこれが正しいとか言えないようになってきていると思います。

機能美の展開

機能美をめぐって、スポーツの領域でいうと、機能だけではなく目立つ、かっこいいといった見た目でもビビッとくるようなものの流行が登場したのは、2000年に入ってからだと思います。特にNIKEがデザインに注力して、その流れを牽引しましたね。トップアスリートに関しては、不恰好でも速い方が正義で、逆にそれがカッコよくなってくる。ただ速いことを突き詰めていったら、結果的にカッコよくなるんです。一般ユーザーにとっての機能美の重要性は、まだ正直わからないところもあるんですが、絶対に0ではないとは思います。
僕はエンジニアとして、機能美とファッションデザインはゆくゆくは交わるものだとは思いつつも、その先に枝分かれして多様化していくのかなとは感じています。合理性があるものの方が人間は受け入れやすいということがある、速いものは正義だと。それは正しい、かっこいいと勘違いするのが人間だと思うので。
なので、まずは早く走るということに特化したものが強い。それがカッコよく見えるという価値観がある。ただ、その中でもデザインの自由度があるので、そのなかで見た目をどうするか。義足に関していうと、人間の足に似たようなものを作れば、他の人が見てもなんなく安心する。自分と近い存在だから親近感や共感を得やすい。そこに人間の形とは違う形の足がついていたら、かっこいいというよりかは認められるのに時間がかかる。ただ、違和感を感じさせる見た目でも、速く走るというところに特化することで違和感を受け入れてもらえる。
でもそれは、競技の中でしか重要視されない価値観かなとも思います。たとえば、学校で走るときに求められるかというと、多少は求められるけど全てではない。また、ハイヒールのように走る機能を犠牲にしながらも、大切にしなければいけない価値観もあるのではないか。 
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#Wearable Device
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