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飯田豊「都市とメディアの過去/現在/未来」

Fashion Tech Newsでは多様な領域からゲスト監修者をお招きし、ファッションやテクノロジーの未来について考えるための領域横断的な特集企画をお届けします。第4弾はメディア論の研究者であり、立命館大学産業社会学部 准教授の飯田豊氏を監修者に迎え、「都市とメディアの過去/現在/未来」をテーマにお届けします。
現在、私たちを取り巻くメディア環境はデジタル化が進み、都市文化にも大きな変化が生じています。また、バーチャルなコミュニケーションプラットフォーム--いわゆるメタバース--の推進も様々な企業によって展開され、従来の都市文化とは異なる生態系が生まれつつあります。こういった都市環境やメディア環境の変化のなかで、メディアコンテンツの消費、広告の展開、商品の売り買いの方法や場には、どのような変化があるのでしょうか。メディアや都市文化、その過去/現在の相互関係を紐解きながら、その現在/未来について考えていきたいと思います。
PROFILE|プロフィール
飯田 豊

立命館大学産業社会学部准教授。専門はメディア論、メディア技術史、文化社会学。1979年、広島県生まれ。東京大学大学院 学際情報学府 博士課程 単位取得退学。著書に『テレビが見世物だったころ:初期テレビジョンの考古学』(青弓社、2016年)、共著に『メディア論』(放送大学教育振興会、2018年)、編著に『メディア技術史:デジタル社会の系譜と行方[改訂版]』(北樹出版、2017年)、共編著に『現代文化への社会学:90年代と「いま」を比較する』(北樹出版、2018年)、『現代メディア・イベント論:パブリック・ビューイングからゲーム実況まで』(勁草書房、2017年)などがある。

歴史から捉える、都市とメディア

メディア技術はいかに社会に実装されるのか

 私はもともと工学部の出身で、ロボット工学を専攻していました。その後、みずから開発することよりも「新しい技術をどうやって社会に実装していったらいいのか」という、いわば社会との合意形成のプロセスを考えるほうに興味を持ち、技術社会学や科学技術社会論なども学び、最終的にメディア論が自分のやりたいことに近いと気づきました。技術と社会の複合体としてメディアが存在しているという視点から、現在は特に、メディアの技術史を手がかりとしたメディア論に取り組んでいます。
人文学的なメディア論の特徴のひとつとして、技術決定論に対する批判があります。というのも、新しい技術が社会や人間を変えていくという言い回しが世の中には色々とあります。たとえば10年前にはTwitterが政治を変えると言われ、また最近では、ビッグデータやNFTが経済を変える、AI が仕事を変える、マッチングアプリが恋愛を変えるといった物言いです。メタバースが人間のコミュニケーションを変えるという話も同じでしょう。もっとも、特にデジタル・メディアについて考えるさいには、新しいメディアの「新しさ」を私たちは純粋に知覚することができないのだから、「変える」というからには結局のところ、古いメディアとの比較を避けて通ることができないわけです。
私は長年、新しいメディアをめぐる多様な現象を解釈し、分析していますが、そのための補助線はあくまでも歴史的な観点です。目の前で起こっていることだけを近視眼的にとらえるのではなく、過去の事例から学んで今に活かすという思考にもとづいて研究をしています。
これは現在の都市やメディアを理解するうえで、極めて有用な思考法だと思っています。そして、私自身はメディアのコンテンツよりも、それを支える技術の水準に着目しています。
「歴史は同じようには繰り返さないが、しばしば韻を踏む」という言葉があります。マーク・トウェインの言葉とされるが、由来ははっきりしません。新しい技術を開発をする人たちは、その画期性や新規性に着目をするわけですが、メディア技術史に取り組んでいると、そこには反復があることが分かり、まるで螺旋状に技術が発展していっているように見えます。
歴史を対象に研究しているといっても、ものすごく古い話ばかりとは限りません。「インターネット元年」と呼ばれた1995年から既に四半世紀が過ぎていて、インターネットも歴史化の対象になっています。

 過去からの切断ではなく、連続性を捉える視点

1995年の「インターネット元年」を皮切りに、インターネット界隈で「〇〇元年」という言い方は他にもいろいろありました。「 VR 元年」、「AR元年」、「AI元年」、「DX元年」 、「NFT元年」とか、挙げていけばきりがないですよね。こういった表現は、関連業界の希望的な観測にもとづく煽り気味の記事のなかで多くなされますが、後から振り返ってみると、歴史に残る画期とは言い難いもののほうが多いのが実態です。
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