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【水野大二郎×井上彩花】「ファッションの未来に関する報告書」を踏まえて、日本のこれからを考える

京都工芸繊維大学未来デザイン・工学機構教授の水野大二郎氏とお届けする特集企画「ファッションデザインとテクノロジー」。最終回となる第5回は経済産業省ファッション政策室の井上彩花さんを迎えた対談をお届けします。
経産省は2021年11〜12月、34人の有識者を集めて「これからのファッションを考える研究会 ~ファッション未来研究会~」(座長・水野大二郎)を開催するとともに、この研究会の内容を2022年に「ファッションの未来に関する報告書」としてホームページ上に公開。ファッション業界関係者を中心に、大きな反響を呼びました。
井上さんは、この研究会の事務局の取りまとめを担当し、現在はパリでラグジュアリービジネスを学んでいます。そこで今回、報告書の意義から、フランスにおけるファッションテクノロジーに関する動向、今後の日本が目指す方向性までお話しいただきました。
PROFILE|プロフィール
水野大二郎(みずの だいじろう)
水野大二郎(みずの だいじろう)

1979年生まれ。京都工芸繊維大学未来デザイン・工学機構教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授。ロイヤルカレッジ・オブ・アート博士課程後期修了、芸術博士(ファッションデザイン)。デザインと社会を架橋する実践的研究と批評を行う。

近著に『サステナブル・ファッション: ありうるかもしれない未来』。その他に、『サーキューラー・デザイン』『クリティカルワード・ファッションスタディーズ』『インクルーシブデザイン』『リアル・アノニマスデザイン』(いずれも共著)、編著に『vanitas』など。

PROFILE|プロフィール
井上 彩花(いのうえ あやか)
井上 彩花(いのうえ あやか)

経済産業省商務サービスグループ クールジャパン政策課ファッション政策室係長

慶應義塾大学経済学部卒業後、2016年に経済産業省に入省。貿易経済協力局貿易管理部安全保障貿易管理政策課、通商政策局通商政策局総務課を経て、2019年4月からファッション政策室、クールジャパン政策課。2022年8月から、フランスのビジネススクールにてラグジュアリーブランドマネジメントを学ぶ。

研究会によって得られた、3つの大きな示唆

水野特集の最後は、経産省の立場から「ファッションテクノロジー」に関するお話をお伺いできればと思いまして、井上彩花さんをお迎えしました。
そして、井上さんが現在パリのビジネススクールに留学中とのことで、今回の報告書の意義から、井上さんがパリで何を学び、またそこではファッションテクノロジーに関してどんなトピックが議論されているのか、それを踏まえた経産省としての方向性についても、伺えればと思っています。
それでは最初に、報告書の意義について改めて振り返っていただけますでしょうか。
井上よろしくお願いします。経済産業省商務サービスグループ クールジャパン政策課ファッション政策室係長の井上彩花と申します。
経済産業省では、ファッションビジネスを取り巻く環境が国内外において大きく変化している状況を踏まえて、これからの日本のファッションビジネスをどのように描いていくかを議論するための場として、水野先生を座長に、2021年11〜12月に「これからのファッションを考える研究会〜ファッション未来研究会〜」を開催しました。議論の内容は報告書としてとりまとめ、経済産業省のホームページで公表しています。
研究会によって、大きく3つの示唆が得られたと考えています。
1つ目が、今後、消費頻度を抑制しても、作り手が稼げる産業に転換していくことが重要だという点です。長く着られるものを作り、製品寿命を伸ばしていくことは、ともすると、販売数量の減少につながる可能性があります。
そうした中でも企業が稼げる仕組みを考えることが必要だという指摘です。サステナビリティに配慮した事業構造に変化しながらも稼いでいく方法を考えることが、経産省としても重要なミッションです。
たとえば、リセール取引の市場が拡大していますが、取引額の一部を作り手に還元する仕組みができれば、長く着られるものを作ることへのインセンティブになり、また、消費者にとっても、自分自身がそのサプライチェーンに入っている、という共通認識を醸成することにつながるのではないでしょうか。
「作って、売って、終わり」ではなくて、その後も関わり続けていく関係性、作り手と消費者がともに責任を持ち続け、収益を受けられる新しい取引ルールを提案することが重要ではないかという指摘がありました。
井上2つ目は、「突き抜けた個性」と日本の地域の強みを掛け合わせて海外需要を獲得していくということです。
日本には、ファッション分野においても、海外で活躍されているたくさんのデザイナーがいます。同時に、長い歴史の中で積み重ねてきた伝統を背景に、多くの伝統工芸や伝統技術があります。
ところが、ファッションデザイナーをはじめとするクリエイターの中には、名前が広く認知されているような場合でも、小規模な事業活動であるために、活躍の場を広げるための資金や経営基盤が整っていない、といったケースがあると指摘されました。
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