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2023.10.25

服の端切れを組み合わせ作り出すキメコミアートの世界観、イワミズアサコさんが表すファストファッションへのアンチテーゼ

「木目込み人形」というものをご存知だろうか。その名前から少し想像できるように、木または粘土で作られた型に筋彫りをし、その筋の部分に布の端を入れ込んで作る工芸品だ。
雛人形などを作る際に使われる手法で、実際に着物を着ているような見た目に仕上がる。この木目込み人形の手法を使い、「キメコミアート」として独自の境地を開くアーティストがいる。イワミズアサコさんだ。
イワミズさんの作品はじつに鮮やか。はっきりした色をいくつも組み合わせ、そこに木目込み独特の表面の立体感が合わさることで、存在感のある作品となる。カラフルに表現されるイワミズさんの作品は「キメコミ」というカタカナによる言葉の響きがしっくりくる世界観で、いつまでも作品に目が釘付けになるような魅力を宿す。そのイワミズさんにキメコミアートについてお話をうかがった。
PROFILE|プロフィール
岩水 亜沙子(イワミズ アサコ)
岩水 亜沙子(イワミズ アサコ)

ファッションデザイナーとしてキャリアを積んだ後、2008年よりアーティストとして活動を開始、国内外で高い評価を受けてきた。その間、多くの国でファブリックマーケットを訪れるなと、世界を旅して感性を養って来た。また、古着や廃材などを材料を積極的に使用し、社会問題である現在の薄利多売と過剰包装、そしてファストデリバリーによるファッション産業の崩壊などに対して、警鐘を促す作品の発表している。日本の伝統技法「木目込み」を昇華させた“キメコミアート”の生みの親。カラフルでポップな楽しい作品は現代版のジャポニズムをもイメージさせる。日本各地を訪れ作品の展示に留まらず、イベントの際にはワークショップを積極的に開催し、アートを通じたコミュニケーションから新たなコミュニティを作る循環型のアーティスト活動を続けている。
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ノストラダムスの大予言をやり過ごし東京へ

「木目込みというものは知らなかったんです」
イワミズさんに、木目込み人形から「キメコミアート」へつながった発想の源泉を尋ねたとき、まずこんな答えが返ってきた。イワミズさんがキメコミアートを始めるに至るきっかけを得たのは2016年。それまでのイワミズさんの人生で「木目込み」と偶然すれ違ったことはあったかもしれないが、意識してそこに視線を向けたことはなかったそうだ。
イワミズさんは福岡県の小倉で生まれた。美術系課程がある高校を卒業後、地元で2年間働き、20歳のときに上京。服飾の専門学校に入学した。
イワミズさんの高校卒業時、時は世紀末だった。「海は枯れ、地は裂け」てはいなかったが、当時ノストラダムスの大予言がマスコミなどを通じて社会現象となっていた時代だ。ノストラダムスの大予言とは、1999年7月に恐怖の大王が空から降ってきて、世界は滅亡するという終末論である。
「この話をすると頭がおかしいといつも言われるんですけど」と当時の自分を笑いながら振り返りつつ、「もし世界が終わってしまったら、せっかく親に大学へ行くお金を出してもらっても、もったいないと思ったんです」と話す。
それなら、まずは地元でしばらく働いて東京へ行く資金も貯めて、予言が外れたことを見届けてから上京して学んでも悪くない。一人っ子のため、親も本音では地元にいてほしいと思っている。
加えて、イワミズさん自身、18歳はまだ未熟だと思っていた。「そんな人間が大都会に行ったら、薬物とか悪い奴らに汚染されるかもしれないじゃないですか」。まずは福岡で社会人になった。
上京後は、ファッションの専門学校で服飾デザインを学び卒業。ファッション関連のメゾンに就職した後に、今度はファッションから芸術へ再び人生の舵を切った。
「当時はファストファッションの全盛期。使い捨てて次々に流行を追うというような風潮で、一生懸命ものを作ることが消費者に伝わりにくくなっていました。ファッション業界で働いていく限界を自分の中に感じていました」と、高校時に興味があった自分の原点でもあるアートの世界に挑戦しようと会社を辞めた。

偶然だった「木目込み」手法との出会い

退職後、イワミズさんはニューヨークへ渡った。アートといえばニューヨークというイメージがあったからだ。
「といっても2ヶ月だけですよ。それでも、ニューヨークから日本に帰ってきたら、なんだか自分もアーティストになったような気分だったんですよね」と、笑いながら過去の自分を振り返る。
しかし、順風満帆ではなかった。ニューヨークの残り香を自分の中に漂わせながら、イワミズさんは、まずアクリル絵の具を買って何か描いてみた。次は日本画の画材を買って描いてみた。ところがアーティスト活動はうまく運ばない。
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