学生だけでなく、企業でもユニフォームを着用することは多いだろう。会社全体の統一感を示すだけでなく、ある職種を表すアイコンにもなっている。こうしたユニフォームは会社から支給されるのが一般的だ。
では、古くて着られなくなったり、退職された方から返却されたりしたユニフォームは、その後どのような経路を辿るのか。おそらく一般ゴミとして捨てられていると思われるかもしれないが、実は会社のユニフォームは産業廃棄物として扱われている。
一般的な洋服と扱いが異なるからこそ、ユニフォームに特化したリサイクルシステムが必要になる。そこに注目したのが、「ユニフォームといえばチクマ」といわれる株式会社チクマだ。
同社が取り組む「チクマノループ」は、ユニフォームを中心にした古着回収システムで、新たな環境保全の取り組みとして注目されている。そこで今回、同社マーケティング課の山下将人さんと環境推進室の中村尚弘さんに、同リサイクルプロジェクトの概要を伺った。
株式会社チクマ ユニフォーム事業部 マーケティング課 課長
1984年生まれ、2007年入社。営業課、企画課を従事し、今年度よりマーケティング課に配属。「サステナブル」をキーワードに制服を創る人々、着用する人々の課題解決を日々考えている。
株式会社チクマ 環境推進室 環境プロジェクト担当
1989年株式会社チクマ入社。ユニフォーム事業部企画課、キャパス事業部企画課を経て、2017年より現在の環境推進室環境プロジェクト担当として従事。
120年前、日本ではまだ着物が主流でした。それと同時に西洋からの影響もあって、洋装へと移り変わる時期でもあります。創業者はいち早く洋装に注目し、欧州からスーツ地を輸入して、国内で販売を開始しました。
欧州へ直接買い付けに渡航したり、日本へ売り込みに来ている海外のテキスタイルメーカーから生地を仕入れていたのですが、洋装文化のない日本人にはかなり厳しい条件が突きつけられていたようです。創業者にとって難しい交渉や、大きな決断も必要だったというエピソードが残っています。
弊社の売上シェアの95%以上が制服で、残りの数%は創業時から続く欧州との取引になります。
シェアの伸びでいうと、1970年の大阪万博がひとつの転換点だったと思います。当時、企業戦略(コーポレート・アイデンティティ)を盛り上げる一環で、制服の需要が高まっていました。そこに弊社がうまく入り込めた。2025年の大阪万博も、そのような契機になると期待しています。
制服業界の中でも、トップクラスの長い業歴を誇っています。
学校やオフィスだけでなく、警察官や消防士、自動車工場の作業服などもあります。もちろん、ホテルのドアマンやタクシーの運転手、電車の車掌、看護師の制服など、幅広い商品を取り扱っております。
弊社に声を掛けていただければどこよりも幅広い提案ができるという自信から、「ユニフォームといえばチクマ」と掲げています。
同じものを作り続けるということは、意外に大変なことです。
長い付き合いのあるクライアントは、40年前の制服と同じものを求めてきます。つまり、新入社員のために中堅社員やベテラン社員と同じものが必要になるわけです。そうなると、生地も色味も一緒でないといけません。そうした再現性が求められます。
この業界は新規参入が多いのですが、そうした再現性や価格維持、生産量の変化への対応が難しく、「こんなはずじゃなかった」と思われるみたいですね。
1995年、弊社に環境推進室が設置されました。当社として地球環境保全を実現するために提案されたもので、コア事業であるユニフォームのリサイクルに着手しました。
1998年には使用済みのユニフォームを回収して、自動車の内装材に再資源化するという「EARTHINK® RECYCLE」を稼働させ、商標登録もしています。
あまり知られていないかもしれませんが、企業のユニフォームは企業の所有物という扱いになりますので、産業廃棄物になります。そのため、産業廃棄物処理法に則って対応しなければなりません。
私たちは、リサイクルに関する特例制度として新たに法制化された「広域認定制度」の許認可(環境大臣認定)“全国第一号“を取得しています。
今現在大きなすみ分けがあるわけではありませんが、私どもは「チクマノループ」というブランドを浸透させていくつもりです。
不要となった衣類等の回収・リサイクルを、北九州市と、株式会社チクマの関連会社である株式会社エヌ・シー・エス(株式会社チクマの出資会社)との日本初の官民共同による「古着回収リサイクル事業」を昨年“チクマノループ®”としてスタートいたしました。
私どものような繊維を扱っている企業が、繊維製品のリサイクル工場に出資しているケースは聞いたことがありません。
いえ。回収物の中で一番多いのは、私どもが作っていないものです。
たとえば、ユニフォームのモデルチェンジをする際、「新しいものはチクマさんで決まっていて、回収システムがあるからいいんだけど、今現在着ているユニフォームをどうしよう」という話が多いですね。
そういった事例に対応するべく「既存のものもリサイクルしましょう」ということで、北九州市に工場を設立するときに、制服を「専ら物(もっぱらぶつ)」という再生利用を目的とした廃棄物として認めていただきました。
回収量ですが、今は年間700トンくらいになると思います。現在では、回収した古着のほぼ100%を自動車の内装材として再利用しています。
というのも、北九州市には自動車メーカーの工場が非常に多いんですね。コロナ禍で一時的に工場が稼働しなかった時期もありましたが、ありがたいことに現在では生産が追いついていない状況です。
「サステナブル」を意識した環境づくりや人権に配慮したものづくりですね。
それに加えて考えていきたいのは、日本固有の問題でもある少子高齢化対策について、衣服でどのような役割を果たせるかです。少子化により学生服の需要が減っていくという点は、弊社の事業において看過できないのは明らかですが、子供たちのLGBTQ問題やより安全性の高い制服の提案など、まだまだ解決できる課題はあると思います。
それと同時に、高齢者に対するケアが求められていきます。弊社としては、たとえば医療従事者、介護施設入所者が着用する衣服や、現役で働く高齢者の身体をサポートすることをユニフォームづくりで何か手助けできないかを考えていきたいと思っています。
基本的には「チクマノループ」を盛り上げていきたいと思っています。なかでも、私どもは「2050年にカーボンニュートラルの実質ゼロを目指す」ことを掲げていますので、そこに向け た環境配慮型の製品やサービスの開発に取り組んでいきます。
もちろん、その活動を通じたCO₂の削減効果や法令遵守といった点は、随時お客さまに提示させていただき、共に環境意識を配慮した社会づくりを目指していきたいと思います。