モンタナ州ボーズマンで誕生した人間工学に基づいたデザインアプローチで話題のブランド「EVERGOODS(エヴァーグッズ)」。職人技とも言える縫製技術から生まれるギミックや仕様をEVERGOODS 日本代理店Sunwest の立川 知さんに伺った。
「創業者のJack Barley(ジャック バーリー)にデザイナーのKevin Dee、(ケビン ディー)が加わり、2人で2018年にスタートさせたブランドで、まだ4年程のブランドです。アメリカの共通の知り合いから面白い2人がいるという連絡がありブランドスタートと同時期に代理店になったので、アメリカと日本同時にスタートを切りました。
当時の2人は30代半ばで1人は『GORUCK(ゴーラック)』というブランドと『Patagonia(パタゴニア)』のパックデザイナーのキャリアを持っていて、Kickstarter[1]でのスタート資金集めも上手くいき、2型を約500個ずつ作ってスタートしました。初回は日本に300個ずつ輸入したのですが、半年位で全て無くなるような状態で、スタートから何かと話題のブランドでした。
生産は世界中のバックパックの工場が集まる一大工場地帯のベトナム。 そこで生産をする場合、2型しかなくて、この規模のロット数ではとても縫ってくれる工場が無いと考えるのが普通なのですが、このEVERGOODSのデザインとサンプルを見た工場の責任者が『このバッグなら作る』という返事をもらったそうで、ものづくり側の人から見てもやはりEVERGOODSのバッグが優れているということがよく分かるエビソードです」
アメリカの新進気鋭の2人が作ったブランドEVERGOODS。ではその話題のアイテムに詰め込まれたこだわりのギミックを詳しく解説してもらう。
「EVERGOODSの全体的なテーマとしてクロスオーバーバックパックというものがあります。彼らの居るボーズマンという土地柄、街と大自然が日常生活の中にあり、線引きをせず両方行き来が出来るパックづくりというのがテーマです。CIVIC=街、MOUNTAIN=山という2つのカテゴリーで、CIVICは街から山に行けて、MOUNTAINは山から街に行けるというコンセプトでクロスオーバーするというテーマでものづくりされています」
「バックパックで壊れやすいところはジッパー、背面、肩の部分、この3つだと思うのですが、EVERGOODSはその部分をタフに作っています。2型共通しての仕様なのですが、ショルダーストラップの付け方が特徴的です。ここは人間工学に基づいていて本体とショルダーストラップが一体型のようになっており表と裏で生地の長さを変えることで、肩のラインに自然にフィットする伸縮性をパターン構造で実現し自重でフィットするように作られています。
本体の素材はバリスティックナイロン[2]で作られており、ショルダーハーネスと背面の内部には微小且つ均一な細孔径を有するEVAフォーム(発砲材)を使用しています。フォーム全体の密度を均一にすることで肩にかかる荷重を均一に分散し、経年劣化も防ぐことが可能になります。
ジッパーは工事現場やミリタリー等に使うYKKのRCジッパーで大きく重量の負荷がかかるバッグに使うジッパーです。24Lや30Lでは、そこまで重量の負荷がかからないですが、貨物用のジッパーを使うことで、まず壊れにくく、更にジッパー自体に防水加工し、水が侵入しづらくしています。止水ジッパーでは、壊れたときにお直しが出来ない場合があるので、そういったことを考えてこの仕様になっています」
「『CP L24 CIVIC PANEL LOADER 24L』というアイテムです。スクェア型で、物の出し入れがしやすい様にメインの口は開閉が全開になるように作られています。中はPCスリープが付いていてこれが宙に浮いているように吊しで作られているので衝撃にも耐えられる様に出来ています。そしてバッグを下ろさず、前に回した状態でものを取り出しやすい仕様のポケット位置等、パックとしての使いやすさを追求して作っています。
そして中にジュラルミンの板状の芯が入っているので、荷物が少ない時にも型崩れしない仕様になっています」
「『MPL30 V2 MOUNTAIN PANEL LOADER V2』というアウトドアザックです。まずアウトドアザックの基本なのですが、上部にボリュームがあって下がつぼまる様に作っています。重いものは上に入れるという基本的な考えです。これは加重の問題で下に加重がかかると、体に負荷がかかってしまうという事が分かっているので、この形を採用しています。
物の出し入れがしやすい様にメインの口は開閉が全開になるように作られています。大きな特徴としてハイドレーション[3]をかける ストラップが付いていて、ホースを背面から肩に出せる仕様になっています。
他にはサイドのストラップで大きさを調節できるようになっていたり、マップを入れたり、飲み物を入れたりするサイドポケットが付いています。中のメッシュポケットや外側上部にもポケットが付き、もちろんPCスリーブもついています。ウエストベルトは使わない時は取り外しができてこちらもギミック満載です。低山ブームもありアウトドア目的で買われる方が多いです」
革新的なアプローチでパック作りに取り組むEVERGOODSのサステナブルな取り組みや考え方について伺った。
「ボーズマンという土地はロッキー山脈のふもとの街でイエローストーン国立公園も有り、自然豊かで様々なアクティビティのできる所で、売上の一部をボーズマンのトレイル整備に寄付しています。
ものづくりの側面ではEVERGOODSのアイテムは壊れたら修理ができます。アメリカはもちろん、日本でも可能です。最近は防水効果を高めるためにラミネートされている素材の物が増え多くの場合修理が出来ないのですが、EVERGOODSは、全て縫製で作られているため修理が出来ます。
いくら素材が強くても、縫製が壊れてお直しが出来なければ、長くは使えない、そういう考えに至りEVERGOODSの作り方が確立していったという事だそうです。直しながら長く愛用するのが一番のサステナブルなのではないかと思います」
EVERGOODSは7型程のラインナップがある、どれもタフな作りの中にギミックが盛り込まれているアイテムばかり。今回は揺るぎない定番と呼ばれる2型を紹介してもらった。
街に特化したバッグブランドやアウトドアに特化したバッグブランドはあるが、クロスオーバーという発想は他にはないと思う。このクロスオーバーは自然も豊富で街もある日本のライフスタイルにもマッチするアイテムなのではないだろうか。
[1]Kickstarter アメリカの民間営利企業、クリエイティブなプロジェクト向けのクラウドファンディング
[2]バリスティックナイロン アメリカの化学会社デュポン社が開発したナイロン。 通常のナイロンの5倍の強度があると言われている繊維で、防弾チョッキ等に使われている事でも有名。
[3]ハイドレーション ソフトボトルに吸引チューブが取り付けられた給水システムで、歩きながらこまめに水分補給をすることができるアイテム。
有限会社サンウエスト 営業本部長
北米を中心としたアウトドア製品の営業、店舗開発を担当。現在、EVERGOODS、7MESH、MiiRブランドマネージャー、営業統括を担当。