Fashion Tech News symbol
Fashion Tech News logo
2023.03.10

ジェームス・ディーン、エルビス・プレスリー…アメリカのスターに愛された「Lee101」の歴史

長い歴史を誇るデニムブランドの「Lee(リー)」。その歴史を辿ると「101」というロット番号に辿り着いた。今回は、Leeの始まりについて株式会社エドウィン クリエイティブディレクターの細川秀和さんにお話を伺った。

「創業者H.D.Lee(ヘンリー・デヴィッド・リー)氏が1889年に事業をスタートした当初は、缶詰や日用雑貨品のメーカー兼卸問屋を営んでいました。

Leeのブランドマークがついた商品としては、缶詰やトイレットペーパーなどがありました。また、金物として配管やノコギリなどを取り扱っており、冷蔵倉庫も運営していました。当時はこれらのさまざまな事業を展開していたという記録が残っています。

数ある日用品の中の1部門として、当初から作業服や衣料品の取り扱いはあったのですが、1800年代後半にはアメリカの経済成長に伴い、鉄道網が成長し、ワークウェアの需要が急速に高まりました。それがきっかけで自社でワークウェアを製造し、ワークウェア市場に参入することになったのです」

鉄道員向けのワークウェアで成長したLeeブランドのルーツ

ワークウェアブランドとしてスタートしたLee。その当時のアイコンとなるアイテムについて伺った。

「1911年にはじめてワークパンツとオーバーオールが作られたとされていますが、キーポイントとなるアイテムは1921年にリリースされた『LOCO JACKET(ロコジャケット)』。これは『ロコモーティブジャケット』の略称で、日本ではカバーオールと呼ばれることが多いです。

鉄道の運転手や車掌が着用するジャケットで、Leeは鉄道業者のワークウェアに力を入れていたことから、このアイテムがアイコンとなっています。

内側のポケットは大きく、タイムブック(時刻表)が入るように設計されており、左の胸のポケットは横からものが入るようになっています。

これは鉄道で働く人々がグローブをしていたため腕時計ではなく懐中時計を使用しており、それを入れるために設計されたものです。Leeのジャケットにはこのデザインが長年にわたり残されています」

「101」がスタート。伝説の始まり

鉄道業者のワークウェアからはじまり、101に辿り着くまでのお話を引き続き伺った。キーワードはカウボーイ。

「当時のカウボーイたちは、ワークウェアのような服を着用していたとされています。その後、カウボーイに最適なデザインとディテールに変化が生じていきました。

Leeはカンザス州に拠点を置いているため、南西部の州であるテキサス州などとの近接性から、カウボーイ文化が浸透していました。

1924年には、カウボーイ向けのパンツがリリースされ、それが現在の101のスタートラインとなりました。当時のパンツはバックストラップがついており、現在の101とはやや異なる形状でしたが、ここから革新的な進化が始まったのです。

1926年にはジッパーモデルがリリースされました。このジッパーモデルが革新的だった理由は、デニムの防縮加工であるサンフォライズド[1]と呼ばれる技術が登場したためです。

従来、洗濯などで生地が縮んだ際にジッパーのテープは縮まないため、結果的にジッパー部分が波打ってしまう問題がありましたが、この新技術を採用することでそれが解消されるようになりました。

Leeがこの技術を製品にはじめて採用したことで、世界で最初にサンフォライズド加工のデニムを使用したメーカーとして認知されるようになりました。この技術は画期的かつ革新的で、エポックメイキングともいわれるものでした。

このアイテムをリリースしたことで、Leeはカウボーイ向けのマーケティング活動を開始し、カウボーイ向けのラインと鉄道業者向けのライン、ワークウェア向けのラインの3本柱で事業を展開していきました」

画像: Archives 1920年代の101
Archives 1920年代の101

デニムはワークウェアからファッションへ

1920年代の始まり以降、ワークウェアからカジュアルウェアへと移り変わっていった1940年代の話を伺った。

「第2次世界大戦後の1945年を皮切りに、デニムはカジュアルウェアとしても使われるようになり、ワークウェアから日常着としての役割も担うようになりました。ただし、ワークウェアとしての役割もしっかりと残されています。

馬に乗る人をライダーと呼ぶようになり、同年、Lee COWBOYという商品名から、Lee Ridersという商品名に変わりました。

そのタイミングでワークパンツの雰囲気が強かった101は、現在の5ポケットに近いディテールに変えてリリースされます。ワークウェアからカジュアルウェアへと役割が変わり、「101」が一番変化したところです。

その後1950年代以降、アメリカの経済のパフォーマンスは非常に確固たるものでした。時代の変化に応じてシルエットなど、変わるものもあれば変わらないものもあります。

たとえばLeeのヒップポケットの形は『オジーブ・ポケット』と呼ばれています。弾丸の先端の様な形をしているからです。そしてヒップポケットのステッチは『ホースマウス・ステッチ』もしくは『レイジーS・ステッチ』と呼ばれています。これらは今も根強く残るデザインです。

ヒップポケットの位置については、どのサイズでも脇から約1インチのところに必ず配置されるという仕様が決まっています。これは、馬に乗っているときにヒップポケットにアクセスしやすいようにするためです。サイズが大きくなるにつれてポケットの間隔が開いていくため、これもLeeの特徴の1つとなります」

画像: 写真 向かって左から1950年代のArchives 101とArchives 101-Z
写真 向かって左から1950年代のArchives 101とArchives 101-Z

101はパンツだけではない。ジャケットこそが凄い

「1940年代、Leeにおけるこの時代一番のエポックメイキングは実はジャケットです。1931年に『スリムジャケット』と呼ばれるLeeのファーストモデルのデニムジャケットがリリースされます。胸ポケットが左側に1つ、前見頃にはプリーツが入っているのが特徴です。

その後、1945年にリリースされた『Riders 101-J』の、胸元の山はぎにポケットのフラップが挟み込まれているこのデザインが、1945年から今でも作り続けている形なのです。デニムジャケットの基礎となる形が、この時代にもう完成されているところが『101-J』の凄さです。

特徴として着丈が短いのですが、それは馬に乗った時にデニムパンツの腰についているLeeのレザーラベルのロゴが見えるように設計されているといわれています。そういうスタイリッシュなところも、当時からすでに確立されていたのだと考えられます」

画像: Archives WWII 101J COWBOY JACKET
Archives WWII 101J COWBOY JACKET
画像: Archives 1950s 101J RIDERS JACKET
Archives 1950s 101J RIDERS JACKET

ジェームス・ディーンも愛した101

1950年代、デニムがワークやカウボーイからカジュアルウェアとして広がり、その流れは現代まで続く。そのなかで、スターたちが愛したLeeの話を伺った。

「1955年にジェームス・ディーンが『理由なき反抗』ではいていたのも101でした。アメリカで映画が最大の娯楽だった当時、ムービースターのジェームス・ディーンがプライベートでもLeeを愛用していたという話は、最大のマーケティングになっていたと考えられます。

1961年には『ウェスターナ』という、コットンサテンの生地を用いたモデルがカウボーイのおしゃれ着としてリリースされたのですが、これはエルビス・プレスリーが『100-Z』と『100-J』を映画の衣装として上下で着用していることなど、アメリカのスターたちに愛された時代でした」

画像: 以前の日本のカタログ、ジェームス・ディーンが着用している写真が使われている
以前の日本のカタログ、ジェームス・ディーンが着用している写真が使われている

日本でも揺るぎない定番として販売される101

101は今の日本でも揺るぎない定番として販売されており長年愛されているアイテムだ。1990年代にはアーティストの奥田民生さんが101に別注をかけて話題となった。1995年リリースの初の別注モデルを皮切りに、その後、4年に1度リリースされ、いまだに続いている。その時製作を担当したのも細川さんだ。

「奥田民生さんモデルは『はき込んで色落ちした時にボタンフライのボタンの跡はつけたい、でも利便性を考えるとジップフロントがいい』というリクエストがあって、フェイクのボタンフライを作り、その後ろにジッパーをつけたというはじめての試みでした。

Leeはさまざまなコラボレーションを行っておりますが、101のロット番号のものに別注をかけるのは珍しいことでした」

画像: 奥田民生さんモデルのフロント部分。通称「ダブルクロージャー」
奥田民生さんモデルのフロント部分。通称「ダブルクロージャー」

Leeというブランドは日々進化し、新しいデザインのアイテムが多数リリースされているが、一方で長い歴史にリスペクトを表した「The Archives(アーカイブス)」というシリーズもまた存在する。

歴史に裏付けられたLeeの名品たちは、今日も愛され続けている。

[1]サンフォライズド
サンフォライズド社が開発した防縮加工。生地を織る際に縦に強く引っ張られた生地を元の状態に戻し、縫製後の縮みを無くす加工のことで、1920年代ではとても画期的なものだった。

PROFILE|プロフィール
細川 秀和(ほそかわ ひでかず)
細川 秀和(ほそかわ ひでかず)

株式会社エドウイン
クリエイティブ・ディレクター
1990年株式会社エドウイン入社。翌年からLeeブランドに携わり30年以上のキャリアをもつ。The Archivesシリーズの立ち上げやAmerican Ridersシリーズなどのロングセラーを数多く開発した。

LINEでシェアする