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2021.12.15

ファッションにおけるNFTの可能性:Synfluxによるクリプトファッションへの挑戦

ファッションにおいてもバーチャルファッションが注目を集めるなか、デジタルデータの偽造やコピーを防ぐNFT(非代替性トークン)を用いた試みも急速に増加している。そのような潮流のなかで、機械学習を利用したファッションデザインなど、テクノロジーのファッションへの適用を先駆的に推し進めてきたスペキュラティブファッション・ラボラトリSynfluxも、2021年10月にNFTでの作品を発表した。
ロンドンファッションウィークに参加するストリートファッションブランド、ロビン・リンチ(Robyn Lynch)とのコラボレーションによるプロジェクト「Atlas of Memory」は、いかにして進められたのか?また、テクノロジーを活用した先進的な取り組みを展開してきたSynfluxにとって、NFTでの作品の販売には、どういった意図があったのだろうか。今回はSynfluxの主宰である川崎和也氏に、プロジェクトの概要や経緯から、その背景にある思想までインタビューを実施した。
PROFILE|プロフィール
川崎和也

Synflux株式会社 代表取締役 CEO。スペキュラティブ・ファッションデザイナー。1991年生まれ。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科エクスデザインプログラム修士課程修了(デザイン)。主な受賞に、H&Mファウンデーション主催グローバルチェンジアワード特別賞、文化庁メディア芸術祭アート部門審査委員会推薦作品選出、Dezeen Design Award Longlist、WIRED Creative Hack Awardなど。編著書に『SPECULATIONS 人間中心主義のデザインをこえて』(ビー・エヌ・エヌ、2019)がある。

コロナ禍の共同制作から生まれた試み

まずは今回、ファッションデザイナーのロビン・リンチ(Robyn Lynch)とのコラボレーションを行い、またそこからNFT作品を発表した経緯について教えてください。
Synfluxはこれまで、HATRAの長見佳祐さんと機械学習や3DCGの技術を応用して作品制作を協働するなど、テクノロジーとファッションを批評的に融合するための実験をくりかえし行ってきました。そのなか、次の新しい展開を模索していたところ、big design awardを主催するbig株式会社・中島真さんと、海外のプレイヤーとも面白い試みをしたいよね!という話になり、初代グランプリのロビン・リンチとの出会いに繋がりました。
最初はロンドンファッションウィークでの物理製品を共同開発する予定でいました。でも、コロナ禍が深刻化するなかで、とくにロンドンでは工場の稼働が止まったり、都市封鎖が起きたりと、制作がストップしかけてしまい、困ってしまいました。ならば、パンデミック下のロンドンと東京をオンラインで接続し、バーチャルに制作を行っているこの状況そのままを、オーディエンスの皆さんに見ていただける企画ができないかという話になり、バーチャルプレゼンテーションをやろうと決めました。
コレクション制作におけるコンセプトメイキングや実際の制作は、ロビン・リンチ側とどのように進められたのでしょうか?
ミーティングは全てオンラインで行われました。長い時には数時間にわたってZoomインタビューや議論を行い、本当に濃厚な時間でした。他にもメールやWhatsAppなど、非同期的に情報を交換しあったり、カジュアルな会話をするようにもなりました。ファッションデザインは必ずしもリニアに物事が進みませんから、こうした散歩的なコミュニケーションがキーになってきます。ロビンの日常的な関心事やSynfluxの研究内容についてみっちり議論する時間と、断片的に交換されるインフォーマルなインスピレーションを統合させるプロセス自体がコロナ禍特有のものだったと思います。
こうして「コロナ時代におけるバーチャルな土着性とは何か?」という問いに結実していきました。ロビン・リンチがブランドとして重要視しているのが、彼女自身の出身地であるダブリンの場所性です。郊外における人々の日常生活に着目し、ストリートの観察をインスピレーション源としてコレクションを発表してきました。オンライン上での一連の対話は、ロビンの脳内に存在するダブリンの記憶や物語をSynfluxが追体験するようなプロセスだったのです。しかも、ぼくたちはダブリンを実際に訪れるのではなく、彼女の声や画像を通してバーチャルに体験していきました。直接体感したロビンと客観的に見聞きしているだけで、その土地の土を踏んだことがないぼくらでは記憶の解像度は異なりますが、そのギャップを埋めるための想像力自体が面白いと思いました。こうした約1年にわたるバーチャルエスノグラフィの手法を通して今回のコンセプトが昇華されていったのです。
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