2022.05.23

「3D衣服シミュレーション技術」でファッション業界のDXを支援:z-emotion

z-emotion(ゼット・エモーション)は、ファッション業界のDXを支援する目的のもと、3D衣服シミュレーション技術を提供する韓国IT企業だ。同社の強みである強力な3D衣服シミュレーションエンジン、レンダリングのスピードと高い再現性、さらにアバターを始めとする豊富な3Dアセットは、同社が提供する3DCAD「z-weave」、バーチャル試着プラグイン「z-fit」を通じて製品化され、アパレル企業とそのサプライチェーンのDXを支援している。

今回、同社のCEO、Dongsoo Han(ドンスー・ハン)氏にメールインタビューを行った。

PROFILE|プロフィール
Dongsoo Han(ドンスー・ハン)

z-emotionの創業者、CEO。米ペンシルバニア大学コンピュータサイエンス修士。3Dシミュレーションとゲーム業界での25年以上の経験があり、現在最も活発な3Dシミュレーションエンジニアの1人。前職AMDのGPU Tech Initiative Groupでソフトエンジニア兼研究員時代から研究を開始した。AMDでは、GPUアクセラレーションを用いた剛体、布、髪、ガラスなどの物理シミュレーションのリアルタイム処理を中心に研究。さらに開発したヘアシミュレーション技術は、TressFXの主要な技術であり、Tomb Raiderゲームなどで使用されており、ビデオゲームで初めてプレイアブルな毛髪シミュレーションとなった。GPU Pro 5、GPU Pro 360の著者。

デジタル・トランスフォーメーションの後押し 

Dongsoo氏はz-emotion創業以前から3Dシミュレーションの研究に従事していた。彼自身が初めて設立したスタートアップZelusFXでは、3Dシミュレーションの知識を応用したアバターシステムZelusエンジンを開発、現在のz-emotionのアバター技術のコア技術開発を行っていたという。さらに前職のAMD時代には、3Dの世界では糸の動きが髪の束に似ていることから、衣服のシミュレーションと髪の毛の動きの関連性を見出した。

このような背景と気づきから、3D技術がファッション業界に大きな変化をもたらす可能性を見出し、ゲーム業界から転身、ファッション企業をクライアントに迎えるz-emotionを創業したという。

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そうして2017年に創業されたz-emotionは、「ファッション業界のデジタル変革プロセスを前進させるための最先端のソリューションを提供する」目的のもと、3D衣服シミュレーション技術を提供している。

これには3D CADソフトウェアの「z-weave」、eコマース向けのバーチャル試着プラグインアプリケーション「z-fit」、3Dクラウドアセットライブラリ「z:one」、その他アパレルビジネス向けに特化し開発したプラットフォームなどが含まれる。

「ファッション・テクノロジーは、20年以上前から存在していました。しかし、爆発的に流行ったのは、この2、3年であり、COVID-19は、間違いなくその起爆剤となりました。ご存知のように、パンデミックによって工場は稼働できない、さらに遠出ができない時期が生まれました。この状況により、業界はデジタル戦略の見直しと加速を余儀なくされています。この流れは、アパレルビジネスに新たな解決策を迫っただけでなく、z-emotionのようなファッションテクノロジー企業にも、新たな方法を模索させるきっかけとなりました。
過去10年間、ファッション・テクノロジーは、デザインや商品開発のための2D CADや3D CADに重点を置いており、オンライン・ショッピングは、eコマースやインターネットのカテゴリーに入る全く別の概念とされてきました。しかし今回のパンデミックによって、既存の課題がより可視化され、より緊急性が高くなりました。その引き換えに、業界や消費者が、新しい3Dソリューションをより広く受け入れて応える基盤ができたと考えることもできます。デジタルトランスフォーメーションは、片道切符のようなものです。つまり、パンデミックが終わっても(あるいは人々がパンデミックに慣れても)、残り続ける。デジタルライフスタイルは、後戻りができない大きな変化の一つです。」

シームレスなワークフローの実現

z-emotionが提供するソリューションは、実際の衣料品製造プロセスを踏襲しながら3D衣服シミュレーションエンジン、消費者向けのバーチャルフィットエンジン、デジタルマーケティング、インタラクティブ体験、リアルタイムレンダリングをシームレスに統合、既存のプロセスを効率化する互換性と柔軟性を揃える。

同社のソリューションを通じてブランドは、既存のCADのようなバーチャルサンプリングや製品開発の機能に加えて、「z:one」を用いたデジタルテックパックの作成や、レンダリングの事前制作による生産前のマーケティングの打ち出し、バーチャル試着アプリ「z-fit」を用いたeコマースでの顧客エンゲージメントの向上などの機能を簡単に既存のワークフローと接続することができるようになる。

「これまでの3DCADは、バーチャルサンプリングを主な目的としたものが多く、見た目の再現度の基準も現実がベースになっていました。つまり、バーチャル衣服は実際の衣服とそっくりである必要があったということです。しかし、ファッションがメタバースへ近づいていくにつれて、別の形のリアリズムと美学が発展し、3D創作のプロセスに幅広い柔軟性と主観をもたらしました。このように3D空間には無限の可能性があり、ファッションがメタバース領域へ広がっていくとき、その可能性は無限大であると言えると思います。」

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たとえば同社独自の3D衣服シミュレーションエンジンによって、ファッションデザイナーは3DCAD「z-weave」上でレンダリング工程にかかる時間を削減しながら細やかなディテールの表現ができるようになり、生産管理マネージャーは生産前に生地に製品のカラーウェイを見て意思決定を行うことができる。

さらに、テクニカルデザイナーは「z:one」で、生産可能な型紙を容易に作成することができるなど、サプライチェーンの関係者のワークフローの向上を望むことができる。仮にブランドが同社のCADを使わない場合でも、GLTF形式の3Dガーメントのデータがあれば、「z:one」を通じて高品質のオンライン・リアルタイムレンダリングを見ることができるという。

「当社ではリアルタイムのHQレンダリングに取り組んでいます。レンダリングには、主に3Dゲームで使われるラスタライズと、ピクサーのようなVFX映画やアニメーションで使われるパストレーシングの2種類があります。私がAMD社の研究開発チームの一員だったとき、私と私のチームは両方の技術を組み合わせ、リアルタイム性能でフォトリアリスティックレンダリングを行うことを試みました。以来、z-emotionでもAMD社と協力関係を続け、同じ技術を応用してより手頃かつリアルで美しい画像結果を提供しています。」

さらに『z-fit』ではDogsoo氏が過去に開発に従事したZelusエンジンを応用したハイパーリアルアバターシステムによって、アバターの外見・姿勢・サイズ・アニメーションを詳細に調整することができるという。これを、前述の他の技術と掛け合わせることによって、アバターの360度ビューや、リアルタイムのバーチャル試着などユニークなデジタル体験を提供することも可能になるそうだ。
「当社の提供する『z-fit』では、ユーザーが自分の顔写真をアップロードすると、アプリケーションは自動的にユーザーの顔を検出し、それに基づいてカスタムアバターを作成します。それだけでなく、ユーザーは、アバターの体型を調整することができ、アバターの髪型、アクセサリー、靴、服装を編集することができます。」

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3Dファッションの可能性を広げる

実際に同社のサービスは昨年韓国のストリートウェアブランドCovernatに導入され、好評だったそうだ。世界的なパンデミックによって購買行動がオンラインへとシフトしたことを受け、オンラインストアのパフォーマンスの改善はブランドにとって今や重要な戦略である。

Covernatの導入事例では、それまで製品の平面画像ないしはプリレンダリングされた.objファイルを回転することに制限されていた従来のウェブストアの仕様から、顧客が身長・体重・体型などの主要寸法を設定することで正確なフィット感を見ることができる仕様へと更新されたという。これによって、製品の露出率の増加と、返品率の大幅な減少を可能にすることができたそうだ。

「これは要するに、デジタルネイティブな方法で消費者のエンゲージメントを向上した例だと言えます。アバターのサイズをリアルタイムで調整したり、最終的な仕上がりを確認したりと、顧客がその場で体験できることが重要なポイントです。このようなインタラクティブ性は、これまではブランドの裏側で行われてきたものですが、この事例では顧客の購買における自信を最大化するために取り入れられました。

ブランドは新たなアセットを作る必要がなく、テクノロジー・エコシステムを拡張することで、新しいオーディエンスが既存のアセットとインタラクトできるようになります。同様に、全てをデジタル化した際にも、既存のアセットを応用してデジタル衣服を着せることが可能となります。つまり、どちらの場合でも、テクノロジー・エコシステムを工夫することで、シームレスに繋げることができるのです。」

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「私たちの最終的なビジョンは、ワンストップソリューションでサプライチェーン全体をつなぎ、クライアントやパートナーとともにデジタルファッション市場の可能性を追求していくことです。ファッションアイテムをデジタル空間に持ち込むことができるため、人々が交流するあらゆる仮想空間が当社のサービスエリアとなり得ます。そのため、当社の主力製品である3次元CADソフトウェア『z-weave』の機能を進化させていく一方で、これまで培ってきた3次元シミュレーション技術をベースに、さまざまなアパレルのビジネスモデルやサプライチェーンに対応したオンラインプラットフォームや3Dソリューションパッケージを構築し、3DファッションのB2Cのユースケースもさらに開拓していきたいと考えています。」

Text by Hanako Hirata

#Virtual Fitting
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