人の体にもっとも近いところで寄り添ってくれるもの、それが繊維であるという考えから生まれた機能素材「
光電子®」は、遠赤外線によって人
の体温を快適に保つ効果がある。だが、単純に体温を保つだけではなく、そこから派生した効果や、「光電子®」だからこそ可能な商品開発があった。今回、株式会社ファーベストの代表である長谷享治さんに、「光電子®」の開発背景や機能だけでなく、長谷虎グループ全体の企業理念まで伺った。
PROFILE|プロフィール
長谷 享治(はせ たかはる)
2003年大学卒業後、新卒で長谷虎紡績に入社。大阪支社やカーペット事業、中国子会社の社長を歴任し、2017年「光電子」を製造・販売するファーベストの社長に就任。2019年12月にはファーベストの親会社である長谷虎紡績グループの5代目社長に就任。
きっかけは砂糖だった
会社の成り立ちを教えてください。
弊社の事業は、1986年に株式会社福谷の東京支店から始まりました。同社は砂糖を扱う 専門商社になります。なぜ砂糖を扱う会社が遠赤外線に注目したのか、と疑問に思われる方もいると思います。食品加工の現場では、エネルギー効率を向上させる目的で遠赤外線が使われていて、この技術をほかの商品にも応用できないかと考えたことから「光電子®」の研究が始まりました。
当時からセラミックスに熱を加えると遠赤外線が出るとわかっていたので、それをどのように利用するかを悩んでいました。そこで思いついたのが、固形ボードです。冷凍庫にセラミックスを加工したボードを貼り付けると、冷却性能が大幅にアップします。
そこから産業資材の販売を生業とし、同時にセラミックスを練りこんだ繊維の開発に成功、光電子繊維の新たな一歩が始まりました。食品と繊維とはまったく違う業種だったので、1989年に株式会社ファーベストとして別会社を設立しました。
加温ではなく、保温
「光電子®」の基本的な仕組みについて教えてください。
「光電子®」は、人体から出ている遠赤外線を吸収し、それを輻射することで、体を保温する機能素材となっております。ここでいう保温とは、体を冷やさない、体温を保持するという意味です。また「光電子®」のセラミックスは非常に小さい粒子で、50から300ナノメートルという大きさです。1ナノメートルが10億分の1メートルという大きさなので、その小ささがわかるかと思います。これだけ微細な粒子だと質量に対する表面積が大きくなるので、遠赤外線を効率よく吸収し輻射することができます。
見た目では粉末にしか見えないので、洗濯したら流れてしまったり、機能が落ちたりしないかと疑問を持たれる方もいらっしゃいますが、心配ありません。繊維に練り込まれるので、洗濯やアイロンをかけるくらいでは落ちませんし、セラミックスの耐用年数も半永久的なものなので、おそらく繊維自体の劣化の方が早いと思います。
体温を保持するとのことですが、どのようなイメージを持てばよいでしょうか。
生地によって保温性能が上がるといった場合、多くは断熱係数が上がったとか、嵩高を上げることで保湿性が高まると主張します。ですが「光電子®」の場合、セラミックスを含んだからといって、繊維自体の断熱係数が上がることはほとんどありません。もちろん、嵩高を上げることもしていません。あくまでも人体から出ている遠赤外線をセラミックスが吸収して輻射するので、感覚としては人から抱かれているような温かさになります。
誤解されやすいのですが、セラミックス自体が発熱するのではなく、あくまでも人体の熱を吸収するので、体温以上の温度が感じられることもないということです。ですから、我々としては加温ではなく「保温」と謳っています。
もちろん、この感じ方には個人差がありますので、一概にどの程度の温度を維持できるとは主張しづらいですが、サーモグラフィーではしっかりと効果が確認されています。