反発性と軽量性に優れたミッドソール素材の「FuelCell(フューエルセル)」を採用した「FuellCell」シリーズの入門モデル的存在で、クッション性の高さと弾むようなライド感に定評があった「FuelCell Propel(フューエルセル プロペル)」。
今回のアップデートではTPU(熱可塑性ポリウレタン)プレートを搭載し、プレート入りシューズの入門モデルという位置付けになった。アップデートにはどのような意図があり、今回の「フューエルセル プロペル」はどんなシューズに進化したのだろうか。ニューバランス ジャパン フットウエア企画部でランニングカテゴリーを担当している間宮 葵さんに話を聞いた。
カーボンプレートを搭載した厚底のランニングシューズは、登場直後こそトップアスリートやエリートランナーだけが着用していたが、今では市民ランナーの間でも浸透し、多くのランナーがレースやトレーニングで着用するようになった。
「マラソン大会を見ても、多くの市民ランナーがカーボンプレート入りの厚底シューズを着用して、レースに挑んでいます。ランニングシューズのマーケットは、レース用のカーボンプレート入りシューズと、ジョグ用のプレート非搭載シューズの両極化しているのですが、その両者を繋ぐモデルとして開発されたのが、フューエルセル プロペル v4になります」
トップレベルのランナーがレースで着用することを想定して開発されたカーボンプレート入りの厚底シューズは、高い反発力が大きな魅力。しかし、ランナーのレベルによってはオーバースペックとなり、足腰に思わぬ負荷がかかり、経験したことがない部位の故障の一因になる可能性は否めない。学生駅伝に出場するレベルの大学でも、ケガの予防や脚力強化のために、トレーニングでカーボンプレート入りのシューズの使用を制限することもある。いくら推進力が得られるとはいえ、常に履けばいいというものではないのだ。
しかし、レースでカーボンプレート入りのシューズを使用するのなら、その感覚に慣れ、プレートの助力効果を最大限得られるようにするトレーニングも重要だ。
「プロペルv4に搭載されているTPUプレートは、カーボンプレートよりも柔らかくしなやかです。プレート特有の反発感覚はありますが、反発自体はカーボンに比べるとマイルドなものになります。レースでカーボンプレート搭載シューズを履くランナーのトレーニング用として、ジョグ、ペース走、ビルドアップ走などに活用できますし、サブ4、サブ5を目指す市民ランナーのレース用にも適したモデルです」
ミッドソールの一部に空洞を設け、プレートのしなりを大きくするVOID(ヴォイド)構造と呼ばれるニューバランスの独自機能が採用されている点も特長だ。
「VOID構造は、接地時のエネルギー貯蓄率を高め、前へ蹴り出す際のエネルギーリターンを向上するためのものです。ミッドソールの中央部分を空洞化することでTPUプレートがしなりやすく、変形したソールが元に戻ろうとする力も大きくなります」
反発性と軽量性を備えたミッドソール素材のフューエルセルは、トップモデルに採用されているものよりも、柔らかさに重きを置いた配合になっている。その分、クッション性が高く、接地はソフトな印象になる。TPUプレートが面で足を支えてくれるので、安定性も高い。
反発、安定、クッションのバランスがよく、汎用性の高いプロペルv4。税込みで12,100円という価格もかなり魅力的だ。ランナーの方ならご存知だと思うが、カーボンプレートを搭載したレーシングモデルは、25,000〜35,000円程度の価格になる。
勝負レースで活用するにはいいとしても、トレーニングでバンバン履き潰せるような価格とはいえないだろう。プレート非搭載モデルでも、最新の機能や素材が採用されたシューズであれば、15,000円を超えることは珍しくない。TPUプレート、VOID構造、フューエルセル フォームなどを採用しながら、どうやってこの価格が実現できたのだろうか。
「プロペルv4は、ニューバランス ジャパンがアメリカの本社に提案したモデルですが、グローバルで展開されターゲットとするランナーの幅も広いために、数が多く作られるので、コストが抑えられています。無駄な素材は極力減らしていますが、機能が省略されているわけではありません。走行距離が多く年に数足履き潰してしまうようなランナーの方や、部活生にぜひ活用してもらえたらと思っています」
長距離選手はもちろんのこと、トラックのレースでスパイクを着用する短距離、中距離種目のアスリートも、トレーニングで「プロペルv4」を活用しているという。足への負担を減らすクッション性が十分にありながら、プレートがあることでスパイクに近い反発感覚があるのがその理由だ。
実際に「プロペルv4」で走ってみて感じたのは、人それぞれの活用法がありそうだということ。のんびりと走っていると、フューエルセルの柔らかさと、プレートが支えてくれることによる安定性を強く感じる。そしてレース気分でペースを上げてみると、より反発が感じられるようになる。とはいえ、カーボンプレートのような硬さは感じず、反発自体もマイルドな印象だった。
筆者は、走力・脚力不足のため、レースでカーボンプレート搭載シューズを活かしきるのは難しそうだなと思っているのだが(実際この春、ノンプレートのシューズでハーフマラソンを走った)、「プロペルv4」なら、レースシューズとして躊躇なく選択できそうだと感じた。きっと、同じように感じるランナーの方も多いのではないだろうか。
ニューバランス ジャパン フットウエア企画部でランニングカテゴリーを担当。高校まで陸上部に所属して1500mを中心に競技をしていた。社会人から再び走り始め、フルマラソンのPBは3:11:37(名古屋ウィメンズマラソン2023)。 街ラン~トレイルまで幅広く楽しんでいる。
Text by Fumihito Kouzu