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【リレーコラム】内職とサンダルーー服を選ぶという行為から考える作り手の法的保護(駒村日向子)

PROFILE|プロフィール
駒村日向子
駒村日向子

お茶の水女子大学大学院博士後期課程人間文化創成科学研究科ジェンダー学際研究専攻所属。専門は社会学、労働研究。家庭空間における女性の労働ついて研究を行っている。

みなさんは身に纏う服にこだわりはあるだろうか。また、どのように服を選んでいるだろうか。
デザイン、色、シルエット、肌触り、使用されている生地、ブランド、製造地、価格帯など、人それぞれに服を選ぶポイントは違うだろう。もちろん服、あるいはファッションに関心がない、こだわりがないという方も多くいるだろう。

服を選ぶ際のポイントとして、そのときの流行を重視する人も多いと思う。トレンドを安価で追うならば、ファストファッションをチェックすることを考えるだろう。特に近頃ではオンライン通販のファストファッションブランドのウェブサイトを見ると、目玉の飛び出るような低価格で、ショッピングビル内のアパレルショップで販売されているようなアイテムが掲載されている。
どんなに安価な商品であったとしても、必ず販売者の側には利益が生じているはずだ。その商品を製造する労働者たちの賃金は適正に支払われているのだろうか、その労働環境に問題は無いのだろうかといった懸念が頭をよぎる。
繊維製品の工場労働というと、Diane Elson and Ruth Pearsonによる研究をはじめとし、豊富な蓄積がある(Elson and Pearson 1981=2002)。そこで、ここからは私自身の研究関心に引き付けて筆を進めていこう。
私は家庭空間でおこなわれる有報酬・無報酬を問わない、女性の営むあらゆる労働に関心を持っている。ファッション産業においては、縫製などの内職が挙げられるだろう。内職に従事する人口は減少傾向にあるものの、現在でも縫製などの衣服に関連する内職に従事する人、またその求人・募集は存在している。
多くの人がイメージする内職は、正式には家内労働の中で細分化された内職的家内労働を指す。家内労働者は「通常、自宅を作業場として、メーカーや問屋などの委託者から、部品や原材料の提供を受けて、一人または同居の親族とともに、物品の製造や加工などを行い、その労働に対して工賃を受け取る人」のことと定義されている(厚生労働省 2022)。家内労働には内職的家内労働以外の従事形態もあるものの、本稿では紙幅の都合上、今回は割愛させていただく。
家内労働者は雇用契約に基づく賃労働ではないため、労働基準法が適用されない。一方で家内労働には家内労働法が存在する。家内労働法第1条によると、家内労働法は労働者の生活の安定に資することを目的として、家内労働手帳の交付の徹底、工賃支払いの確保、最低工賃、安全衛生の措置などについて定めたものとされている。
しかし、2020年に行われた家内労働等実態調査では、家内労働全体の1時間当たりの平均工賃額は520円と、2022年12月現在の最低賃金額を大きく下回っている(厚生労働省 2021)。家内労働法による労働者の法的保護が十分であるかという点は疑問が残る状況だと言えるだろう。
みなさんはヘップサンダル事件(またはベンゾール中毒事件)をご存じだろうか。1958年頃から大阪や東京で、ベンゼン(ベンゾール)ゴム糊を使用してヘップサンダルの接着作業をしていた家内労働者たちがベンゼン中毒を起こし、死亡者も出たという事件だ。
このヘップサンダルとは、1953年に公開された映画『ローマの休日』で、主演のオードリー・ヘップバーンが着用していたサンダルのことで、公開・大ヒットを機にヘップサンダルが日本でも大流行した。
現代を生きる私も『ローマの休日』を初めて観たときには、そのファッショナブルなスタイルに心が躍った。当時ヘップサンダルが大流行するのも頷けるところではある。
橋本陽子や高野剛は、家内労働法の制定までの過程において、ヘップサンダル事件が大きな影響を与えたことを指摘している(橋本 2009; 高野 2018)。家内労働法では家内労働に従事する際の労働者の安全と衛生に関する措置が定められた。
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