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【リレーコラム】キンシャサの伊達男たち「サプール」に学ぶ、自慢と自己満足の大切さ(昼間賢)

PROFILE|プロフィール
昼間賢
昼間賢

東京理科大学教養教育研究院教授。フランス語フランス文学、芸術学、音楽文化論。主著『ローカル・ミュージック 音楽の現地へ』(インスクリプト、2005年)。共著『異貌のパリ 1919‐1939 シュルレアリスム、黒人芸術、大衆文化』(水声社、2017年)など。訳書に、アンドレ・シェフネル『始原のジャズ アフロ・アメリカンの音響の考察』(みすず書房、2012年)、ピエール・マッコルラン『写真幻想』(平凡社、2015年)など。

アフリカ大陸の中央部から南部にかけて、コンゴという名の広大な土地が存在する。その大半は熱帯雨林だ。そこに、今日ではコンゴ共和国とコンゴ民主共和国(旧ザイール)が国家としてある。
前者の首都はブラザヴィル、後者の首都は大陸有数の大都市キンシャサである。実に様々な人々の話す言語は、数え方によっては200を超えるという。したがって、19世紀後半から同地を植民地としたフランスとベルギーの言語であるフランス語が唯一の公用語として今日でも機能している。
イギリスのビール会社ギネスが2014年に制作した映像「The Men inside the Suits / Sapeurs」では、キンシャサの街中を、ひときわ目を引く男たちが闊歩している。サプールだ。原色を思いきり使った派手な色調の、それでいて、コーディネイトに使える色は3色(3系統)までと決められているように、その姿はすっきりとおしゃれで、独特の品格が保たれている。
©︎SAP CHANO 提供元 サプール協会日本支部
©︎SAP CHANO 提供元 サプール協会日本支部
1960年にベルギーから独立したものの、それから今日までずっと内戦や政情不安が絶えない世界有数の資源大国で、彼らの放つ異彩は強烈だ。日本でも10年ほど前からその存在が話題になり始め、2014年にNHKの紀行番組で現地の様子が紹介されてからは、日本の写真家、茶野邦雄の著書が二冊、サプールの活動を最初に世界に知らしめたイタリア人カメラマン、ダニエーレ・タマーニの著書が二冊、そしてイギリスの写真家、タリーク・ザイディの著書が一冊(邦訳)出版され、大小様々なネット記事とともに、コンゴのサプールは注目を集めている。
筆者自身は、20年ほど前にフランスに留学し、パリに4年半住んだことがある。その最後の時期を、ブラック・アフリカの人々が食料や衣料を求めて集まってくる18区のグット・ドール地区の近くで暮らした。彼ら彼女らの真っ黒な肌には、色とりどりでどぎついデザインの服がよく似合っていた。
男性特有の、ちょっと気取った歩き方。女性特有の、腰から下をゆったりと揺らしながら歩く歩き方。固有の肌だけでなく、身体の動きが衣服と一体化していた。ファッションとは本来そうしたものなのかもしれない。
音楽好きだった筆者は、日々の散歩の合間に、地区のあちこちから聞こえてくる音楽の断片に聞き入った。もちろん、今日のサプールたちの模範となったキンシャサの英雄、パパ・ウェンバ(1949-2016)の轟くような歌声も。
ジョルジオ・アルマーニのスーツを愛用した「ルンバ・ロックの王様」は、1980年代のワールド・ミュージックの流行に乗って成功し、フランスに定住。経済的指標からは世界最貧国の一つに数えられる故国の人たちに誇りと慰安と希望を与えていた。
そして2000年代の音楽ファンであれば、Konono Nº 1(コノノ・ニュメロアン)やStaff Benda Bilili(スタッフ・ベンダ・ビリリ)に導かれた通称「コンゴトロニクス」の強力なサウンドに触れたことがあるだろう。
長老ミンギエディ操る電気リケンベ(コンゴの親指ピアノ)の連打が延々と続くコノノの音楽は、華やかでサービス精神旺盛なウェンバの音楽とは一見対照的だが、ある一点では間違いなく同じ特質を有する。それは、目立つことだ。大都市の雑踏の中で、音楽性云々ではなく、いかにして競合するグループより目立つか。注目を集めるか。
コノノの出現に色めきたったジャーナリストたち、たとえば音楽評論家サラーム海上によれば「ミニマル・テクノやシューゲイザー・ロック、古くはヴェルヴェット・アンダーグラウンドやモロッコのジャジューカなどがもたらしたのと同様のサイケデリックでトランシーな酩酊感」の由来を探ろうとする人々に対して、ひたすら「大きな音で」「大音量で」踊りたかったからと、単純な説明を繰り返すマワング・ミンギエディ(1933-2015)は、グループの中でただ一人、サプールのような格好で演じていた。
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