2022.12.01

【リレーコラム】都市で「民族衣装」を着ることによる巡り合い――台湾原住民アーリンリンの工房を事例に(益田喜和子)

PROFILE|プロフィール
益田喜和子
益田喜和子

慶應義塾大学社会学研究科博士課程、日本学術振興会特別研究員。専門は文化人類学、先住民研究、人種・エスニシティ研究。台湾の都市に住む先住民の人々を中心に、異なる民族の共住関係や汎エスニシティについて研究している。論文に「台湾の都市における汎原住民的なつながり:台中市原住民族部落大学を事例に」『三田社会学』27号(2022年)がある。 researchmap

はじめてアーリンリンに出会ったのは、私が交換留学生として台湾にいたときのことだ。

卒業論文のテーマ探しのために参加していたイベントのうちの一つに、彼女が企画していた民族衣装の試着体験コーナーがあった。

台湾といえば漢人文化の印象が強いためか、「原住民族」(1)と呼ばれるオーストロネシア語族系先住民の人々がいることは意外と知られていない。現在では、言語や物質文化を異にする16の民族(2)が原住民族として公に認められており、その装い(3)のあり方も多様だ。

アーリンリンも、パイワン出身の原住民である。イベントを通してパイワンの衣装を試着させてもらい、アーリンリンと写真を撮り、話をしているうちに、彼女が近くで原住民族の服飾品を取り扱う工房を営んでいることを知る。

後日あらためて彼女に会いに行くと、工房だけでなく、それを中心に広がる一つの「都市原住民」集落がそこにあった。

都市原住民が着る「民族衣装」

都市原住民とは、原住民族地区(4)にある集落を離れ都会区へと移住した原住民の人々のことを指す。原住民族総人口(5)のうち、いまや半数以上が都市原住民であるといわれている。

アーリンリンの工房における顧客の大半は都市原住民の人々で、その利用目的はさまざまだ。原住民族文化関連のイベントや大会に参加するため、結婚式を挙げるためなど、原住民族服飾品が一時的に必要となるタイミングで借りに来る人が多い。

工房ではパイワンだけでなく、そのほか6つの民族(アミ・ルカイ・プユマ・ブヌン・タイヤル・タオ)の服飾品も取り扱っており、結婚式に使えるような正装から、カジュアルなものまで多種多様だ。どの民族のものであるかにこだわらず、とりあえず「原住民」風のベストだけを借りにくる人もいれば、レンタルではなく、自分が着用するために自民族衣装の製作を依頼する顧客もいる。

画像: アーリンリンの工房の様子。筆者撮影(2022年11月)。
アーリンリンの工房の様子。筆者撮影(2022年11月)。

台湾では1980年代以降に「文化産業」を軸とする政策に力が入れられ、台湾独自のものとしての原住⺠族文化に目が向けられるようになった。これに合わせて、伝統手工芸と女性を結びつける政策が積極的に打ち出されるようにもなっている(6)。こうした政策は、原住⺠族の伝統工芸活動を行う原住⺠女性による「工作室」(工房)の開業を支援しており、近年その数は大幅に増加している(田本 2021)。

アーリンリンの工房も、こうした台湾における文化行政の時流に乗ったものといえるだろう。

工房を起点に広がる都市原住民間のつながり

冒頭でも述べたように、アーリンリンの工房の周りには、いくつかの家屋や射場、彫刻や弓矢を扱う他の工房群などがあり、一つの都市原住民集落(以下、都市集落)を成している。

中心には広場のような大きな空間があり、地域の都市原住民の人々を集めて、原住民族文化関連の活動や大会が開催されたり、原住民族部落大学(7)の授業が行われたりすることもある。アーリンリンが住む都市集落を訪れる人々の多くは、都市にいながらも故郷に戻ったような気分をここでは味わえると口を揃えていう。

都市部にあるとはいえ、自然に囲まれた空間で、アーリンリンが植えた多種多様の原住民族植物と原住民族文化を想起させるモチーフが配置された都市集落は、政府によってつくられた高層マンション形式の原住民公営住宅などとは様相を異にする。

画像: 撮影:邱瑞山<br>アーリンリンの工房で行われた台中市原住民族撮影協会主催の大会「原風盃」での写真。パイワンの婚儀において、新郎新婦をブランコに乗せる習俗を演出している様子を撮影したもの。原住民族のなかでもタイヤル、セデック、サイシャット、プユマ、パイワン、ルカイ、ツォウ、ブヌンなどの民族がブランコを遊戯として、あるいは信仰や儀礼に関わるものとして使用してきたといわれている(馬淵 1939)。
撮影:邱瑞山
アーリンリンの工房で行われた台中市原住民族撮影協会主催の大会「原風盃」での写真。パイワンの婚儀において、新郎新婦をブランコに乗せる習俗を演出している様子を撮影したもの。原住民族のなかでもタイヤル、セデック、サイシャット、プユマ、パイワン、ルカイ、ツォウ、ブヌンなどの民族がブランコを遊戯として、あるいは信仰や儀礼に関わるものとして使用してきたといわれている(馬淵 1939)。

アーリンリンの工房を起点とする活動は、地域に住む多くの都市原住民の人々を巻き込みながら展開されている。これらの活動の参加者は、特定の民族に限らない「原住民」の人々だ。ここでの出会いをきっかけに、原住民の新たな民間団体が立ち上がったり、原住民族文化関連の活動が企画されたりすることも少なくない。

アーリンリンの工房は、単に民族衣装のレンタルサービスを提供しているだけではなく、地域の人々の関係を紡ぐ役割も果たしているのだ。

最後に

試着体験イベントを通してパイワンの民族衣装に触れ、アーリンリンの協力のもと、工房を拠点に現代の都市原住民について研究をしている私もまた、こうした工房を中心とする関係性のなかに組み込まれていったメンバーの内の一人である。

ただ、ここで留意すべきは、私が彼らにとって「日本からやってきた子」であるということだ。過去の出来事を全く知らないまま、それを知ろうともせず、ただ原住民族の民族衣装を着て、写真を撮るだけで終わってしまえば、それは「文化の盗用」とも看做され得る行為となってしまう。

「日本からやってきた子」である私は、「親日的な台湾」という言説が蔓延るなかで、その植民地主義的な暴力性に無自覚にならないように、奇しくもつながったご縁をもとに何ができるのか、日々考えている。

(1)1980年代半ば以降に展開された「原住民族運動」の一つに、蔑称ではなく正しい名前の使用を求める「正名運動」があった。これを通して、1994年に「原住民」、1997年に「原住民族」が正式名称として憲法に記載された。日本では「先住民族」という語が一般的に使用されているが、中国語の場合、これに「すでにいなくなってしまった人々」という意味合いが含まれてしまうため、「もともといた人々」を表す「原住民族」が採用された。本稿では現地の用法をもとに、台湾の先住民族のことを一貫して「原住民族」と記す。
(2)人口が多い順に、アミ[阿美族]、パイワン[排灣族]、タイヤル[泰雅族]、ブヌン[布農族]、タロコ[太魯閣族]、プユマ[卑南族]、ルカイ[魯凱族]、セデック[賽德克族]、サイシャット[賽夏族]、ツォウ[鄒族]、ヤミ(タオ)[雅美(達悟)族]、クヴァラン[噶瑪蘭族]、サキザヤ[撒奇萊雅族]、サオ[邵族]、サアロア[拉阿魯哇族]、カナカナブ[卡那卡那富族]。
(3)宮脇(2017)は、中国雲南省のミャオ族の事例をもとに、従来の伝統的かつ不変のものとしての「民族衣装」の用法を批判し、それを「装い」という、より広い枠組みから捉え直すことで、変わりゆく現代の「民族衣装」のあり方を提示した。
(4)2005年2月に施行された「原住民族基本法」において「原住民族地区」は、「原住民が伝統的に居住する地域で、原住民族の歴史的な淵源および文化的特色を有しており、中央原住民族主管機関の申請を受け、行政院によって承認された地域」と定義されている(法務部全國法規資料庫 2018)。原住民族地区には、山間部30地域と平地25地域の計55地域(郷、鎮、市、区)が含まれる(詳しくは原住民族委員會 2020を参照)。
(5)2022年時点で583,299人(原住民族委員會 2022)。台湾総人口の約2.5%。
(6)例えば、1999年の「伝統工芸産業及び婦女副業生産創業経営指導」計画では、伝統工芸産業を通して原住⺠女性の副業や起業を指導することが目的とされた(盧 2007)。
(7)原住民の人々を対象とする生涯教育機関。詳しくは、益田(2022)を参照。

参考文献
法務部全國法規資料庫2018『原住民族基本法』(https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawAll.aspx?pcode=D0130003)[2022年11月10日最終アクセス]。
盧梅芬 2007『天還未亮:台灣當代原住⺠藝術發展』藝術家出版社。
益田喜和子 2022「台湾の都市における汎原住民的なつながり:台中市原住民族部落大学を事例に」『三田社会学』27:54-68。 
馬淵東一 1939「高砂族に於ける鞦韆」『人類学雑誌』54(7):9-21。
宮脇千絵 2017『装いの民族誌―中国雲南省モンの「民族衣装」をめぐる実践』風響社。
田本はる菜 2021『山地のポスト・トライバルアート―台湾原住⺠セデックと技術復興の⺠族誌』北海道大学出版会。
原住民族委員會 2020『原住民地區(30個山地郷及25個平地郷鎮市)』(https://www.cip.gov.tw/zh-tw/news/data-list/C6DFB32460630CF4/0C3331F0EBD318C213147655B37A59D5-info.html) [2022年11月10日最終アクセス]。
——— 2022『11110台閩縣市鄉鎮市區原住民族人口-都會比例.xls』(https://www.cip.gov.tw/zh-tw/news/data-list/940F9579765AC6A0/D27A985131FA61B7E92C4E62FD3681A7-info.html)[2022年11月10日最終アクセス]。

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