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【リレーコラム】「自分自身になることを決める」 ──スタイル、ファッションそしてパーソナリティ(岡田進之介)

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PROFILE|プロフィール
岡田 進之介(おかだ しんのすけ)
岡田 進之介(おかだ しんのすけ)

1994年生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程。専門は現代英米圏の美学(分析美学)のフィクション理論。最近の著作に「悲劇を観てなぜ悲しむべきなのか:フィクション鑑賞における適切な情動的反応について」(『美学』、2024年)、「ファンタジーの魅惑――J・R・R・トールキン『妖精物語について』におけるフィクション理論」(『ユリイカ』、2023年)。共著に『世界最先端の研究が教える すごい哲学』(総合法令出版、2022年)。近頃はこげ茶色のセットアップがお気に入り。


画家のモディリアーニは人物像を描くときに、顔と首を細長く描くことで知られている。それが彼の人物の描き方なのだ。また押井守監督の映画『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』(2008年)には、読み終わった新聞を几帳面に折りたたむキャラクターが登場する。それが新聞を読むときの彼のやり方なのだ。また私のある知人はSNSで連絡を取るとき、独特の絵文字の使い方をする。それが彼女のコミュニケーションの仕方なのだ。
以上のように人が何かをするとき、そこに(意識的であれ無意識的であれ)その人ならではのやり方が見受けられることがある。そのような「やり方」は一般に「様式」あるいは「スタイル」などと呼ばれる。先に私が挙げた人たちは、特定の物事をする(人物を描く・新聞を読む・チャットをする)ときの彼ら・彼女ら自身のスタイルを持っていると言える。そしてもちろん服の着こなし方、つまりファッションもそのようなスタイルの一つである。ある人はシンプルなスタイルを好み、別の人は華美で装飾的なスタイルを好む。
私が以下で踏み込みたいのは、そのようなスタイルとしてのファッションと、その人のパーソナリティ(人柄・人格)の関係についてである。その話をする前に、スタイルとパーソナリティに関する哲学的な視点を導入しておきたい。
食事のスタイルも人それぞれ。
食事のスタイルも人それぞれ。
現代アメリカの哲学者ジェネファー・ロビンソンは、スタイルをその人の人となりの表現と見なすことができると述べる。つまり「私の服の着方、働き方、話し方、そして決断の下し方は多くの場合、私のパーソナリティ、性格、心性、あるいは感受性の表現である」(Robinson 1985: 229)と言う。ここで彼女は人格という「入力」が、スタイルとして「出力」されると考えている。話し手の〈機知に富んだ知的な心〉は〈機知に富んだ知的な話し方〉として、〈妥協しない勇気ある性格〉はその人の〈妥協しない勇気ある決断の仕方〉として出力され、表現される。そしてもちろんロビンソンはファッションにも話を広げる:「私の洗練されていない服の着方は、私の洗練されていない感受性の表現であるだろう」。
何かをするときの習慣的で持続したやり方、つまりスタイルをその人のパーソナリティの表現とするのは、私たちが常識的に受け入れている見方だろう。ある人が特定の物事を繰り返し特定の仕方で行うとき、私たちはそれをその人のスタイルだと見なし、その人のパーソナリティをそこに見出す。いつもゆっくりと温厚な話し方をする人は温厚な性格をしているとされるし、丸っこく愛嬌のある文字を書く人は愛嬌のあるパーソナリティを持つと見なされるし、そうでなかったときには意外に感じられる。
ただし私はロビンソンの図式には欠けている視点があると考えている。彼女が見落としているのは、ファッションはパーソナリティを表現する媒体であるだけでなく、特定のスタイルで装うことがパーソナリティを変える、あるいは少なくともそれに影響を与え得るということではないだろうか。たとえば私たちはスーツなどのフォーマルな恰好をすることで気合いが入ったり、あるいは責任感を持つよう自然と心がけるようになったりする。あるいは緊張しそうな場所でも、ゆったりとしたカジュアルな恰好であれば自然体でいられたりする。ここでは「入力」と「出力」の矢印が逆になっていることに注目したい。パーソナリティがファッションに単に表現されるのではなく、ファッションがパーソナリティに影響するのだ。
そうするとパーソナリティとファッションの関係は双方向的だとまとめるべきだろうか? 私はそのような面があることを認めつつ、しかしある位相ではそうではないということを以下で論じたい。
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