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【連載】身体の美意識をめぐるゲームチェンジ:Culture Studies: Fashion after 2010 #004

PROFILE|プロフィール
Yoshiko Kurata
Yoshiko Kurata

ライター / コーディネーター
1991年生まれ。国内外のファッションデザイナー、フォトグラファー、アーティストなどを幅広い分野で特集・取材。これまでの寄稿媒体に、Fashionsnap.com、HOMMEgirls、i-D JAPAN、STUDIO VOICE、SSENSE、VOGUE JAPANなどがある。2019年3月にはアダチプレス出版による書籍『“複雑なタイトルをここに” 』の共同翻訳・編集を行う。CALM & PUNK GALLERYのキュレーションにも関わっている。[Photo by Mayuko Sato]

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前回の連載で触れた2010年以降のファッションにおけるビジュアル表現の変容では、加速するSNSへの対抗としてフィルム写真や質量を感じられるものへの回帰が起きていた。SNS上で大量に流れる画像、誰でも加工/複製が可能となった写真、コンプレックス広告にもなりうる美的表現 ―― そういったビジュアルがオーディエンスの目に大量に写り込むようになり、また彼ら自身もiPhoneでいつでも撮影・編集ができることによって、ますます写真の質量は不確かなものとなった。そうしたときに生まれた難しさとは、90年代に影響力を獲得していた紙雑誌とは違って、SNSという新たな主戦場における親和性と驚きが試されるようになったこと。
その難しさを突破するためにファッションにおけるビジュアル表現で起きたゲームチェンジのには、「質量」と「バグ」がキーとなっているのではないだろうか?

質量 / 身体表現のアプローチ

前回の連載で触れた通り、SNS上で無数の情報や画像を受け取る(もはや受け取るではなく、スクロールしていくといったほうが適切かもしれないが)オーディエンスにフックを与えながらも、それは非現実的な表現ではなく、あくまでも彼らの等身大として受け入れられるものが自然と反響を呼んでいた。それは、日常生活で溢れかえる消費行動を推し進めるような広告、従来からステレオタイプとして掲げられる理想美に対する疲弊から生まれる現象でもあった。

一方で、オーディエンスが毎日のニュースやビジュアルをフィードされることを楽しみにしていたことも間違いなく、今となっては懐かしい”See now Buy now”や幾度となく販売されるコラボレーションアイテム、InstagramでのLIVE配信など購買欲を煽るようなプロモーション施策も同時期に行われていた。
そこで、従来の身体に対する理想美を打ち破るべく写真に映されたのは、ただ単なる哀愁漂うドキュメンタリーフォトだけとどまらず、ポージングやスタイリングによる奇妙なシルエットがフックとなった。このことは、2017年に刊行された直後に瞬く間と反響をよび、現在twelvebooksでは完売している書籍『Posturing』で言語化されている。
書籍の中では、総勢21組のフォトグラファーが過去に発表した作品とともに、インタビューを掲載。Charlie EngmanやJohnny Dufort、Hanna Moonなど2020年現在も活躍を続けるフォトグラファーなどを紹介。そして、書籍を編集したHolly HayとShonagh Marshallの視点が個性的であることには、エディトリアルをテーマに特集し、フォトグラファーだけではなく、あくまでもファッションフォトはスタイリスト、プロップスタイリスト、編集者など全員によってつくりあげられていることを強調しているポイントだ。彼らがつくりあげる新たなストーリーに映る身体の在りようはどのようなものなのか、それは従来の”完璧”な美とされるものを排除した新しいスタイルとして、身体とファッションが相互に与えうる意味を再定義できるほどのムーブメントになっていると彼らは語る。連載の第1回目でも書いたように、ゲームチェンジは服単体やデザイナーだけでは巻き起こらない。まるでチェスのようにひとつずつの駒を前進したり、倒していくことでゲームの方向性が変わっていくのだ。
それは、彼らが冒頭のページでも指摘している通り、2015年頃にスタイリスト・Lotta Volvoka とともにVETEMENTSとBALENCIAGAゲームチェンジを起こしたDemna Bazaliaが繰り返し提案したスタイリングの妙にあらわれている。彼らのクリエイティブがまさに身体とファッションの関係性を再構築した、と彼らは冒頭で語る。
わたしにとってはその光景の周辺に、メイクではIsamaya Ffrenchが凄まじい影響力をもたらしたように感じるし、服やスタイリング、アングルだけではなく、モデルの起用からもそれら両者の関係性は紡ぎ直しされていたようにも感じる。
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#Social Commerce
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