2021.11.05

【連載】身体の美意識をめぐるゲームチェンジ:Culture Studies: Fashion after 2010 #004

#Culture Studies: Fashion after 2010
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PROFILE|プロフィール
Yoshiko Kurata
Yoshiko Kurata

ライター / コーディネーター
1991年生まれ。国内外のファッションデザイナー、フォトグラファー、アーティストなどを幅広い分野で特集・取材。これまでの寄稿媒体に、Fashionsnap.com、HOMMEgirls、i-D JAPAN、STUDIO VOICE、SSENSE、VOGUE JAPANなどがある。2019年3月にはアダチプレス出版による書籍『“複雑なタイトルをここに” 』の共同翻訳・編集を行う。CALM & PUNK GALLERYのキュレーションにも関わっている。[Photo by Mayuko Sato]

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前回の連載で触れた2010年以降のファッションにおけるビジュアル表現の変容では、加速するSNSへの対抗としてフィルム写真や質量を感じられるものへの回帰が起きていた。SNS上で大量に流れる画像、誰でも加工/複製が可能となった写真、コンプレックス広告にもなりうる美的表現 ―― そういったビジュアルがオーディエンスの目に大量に写り込むようになり、また彼ら自身もiPhoneでいつでも撮影・編集ができることによって、ますます写真の質量は不確かなものとなった。そうしたときに生まれた難しさとは、90年代に影響力を獲得していた紙雑誌とは違って、SNSという新たな主戦場における親和性と驚きが試されるようになったこと。

その難しさを突破するためにファッションにおけるビジュアル表現で起きたゲームチェンジのには、「質量」と「バグ」がキーとなっているのではないだろうか?

質量 / 身体表現のアプローチ

前回の連載で触れた通り、SNS上で無数の情報や画像を受け取る(もはや受け取るではなく、スクロールしていくといったほうが適切かもしれないが)オーディエンスにフックを与えながらも、それは非現実的な表現ではなく、あくまでも彼らの等身大として受け入れられるものが自然と反響を呼んでいた。それは、日常生活で溢れかえる消費行動を推し進めるような広告、従来からステレオタイプとして掲げられる理想美に対する疲弊から生まれる現象でもあった。

一方で、オーディエンスが毎日のニュースやビジュアルをフィードされることを楽しみにしていたことも間違いなく、今となっては懐かしい”See now Buy now”や幾度となく販売されるコラボレーションアイテム、InstagramでのLIVE配信など購買欲を煽るようなプロモーション施策も同時期に行われていた。

そこで、従来の身体に対する理想美を打ち破るべく写真に映されたのは、ただ単なる哀愁漂うドキュメンタリーフォトだけとどまらず、ポージングやスタイリングによる奇妙なシルエットがフックとなった。このことは、2017年に刊行された直後に瞬く間と反響をよび、現在twelvebooksでは完売している書籍『Posturing』で言語化されている。

書籍の中では、総勢21組のフォトグラファーが過去に発表した作品とともに、インタビューを掲載。Charlie EngmanやJohnny Dufort、Hanna Moonなど2020年現在も活躍を続けるフォトグラファーなどを紹介。そして、書籍を編集したHolly HayとShonagh Marshallの視点が個性的であることには、エディトリアルをテーマに特集し、フォトグラファーだけではなく、あくまでもファッションフォトはスタイリスト、プロップスタイリスト、編集者など全員によってつくりあげられていることを強調しているポイントだ。彼らがつくりあげる新たなストーリーに映る身体の在りようはどのようなものなのか、それは従来の”完璧”な美とされるものを排除した新しいスタイルとして、身体とファッションが相互に与えうる意味を再定義できるほどのムーブメントになっていると彼らは語る。連載の第1回目でも書いたように、ゲームチェンジは服単体やデザイナーだけでは巻き起こらない。まるでチェスのようにひとつずつの駒を前進したり、倒していくことでゲームの方向性が変わっていくのだ。

それは、彼らが冒頭のページでも指摘している通り、2015年頃にスタイリスト・Lotta Volvoka とともにVETEMENTSとBALENCIAGAゲームチェンジを起こしたDemna Bazaliaが繰り返し提案したスタイリングの妙にあらわれている。彼らのクリエイティブがまさに身体とファッションの関係性を再構築した、と彼らは冒頭で語る。
わたしにとってはその光景の周辺に、メイクではIsamaya Ffrenchが凄まじい影響力をもたらしたように感じるし、服やスタイリング、アングルだけではなく、モデルの起用からもそれら両者の関係性は紡ぎ直しされていたようにも感じる。

例えば、Gosha RubchinskyやL otta Volvokaなどデザイナー自身の友人が登場したVETEMENTSはポップなニュースとして話題を集めたが、現在もBALENCIAGAで引き続きストリートキャスティングで起用したモデルを貫き通し、今ではほかメゾンもストリートキャスティングでモデルを起用することは当たり前となった。それも文字通りの”ストリート”キャスティングではなく、InstagramやSNSなどがストリートに置き換わった時代におけるキャスティングは、容姿に加えてInstagram上から見えるその人のライフスタイルやセンスなども加味されるようになったことが、Kate Mossを代表する90年代のストリートキャスティングの様相とは明らかに違うポイントかもしれない。そうしたことで、Clara 3000やFernanda Lyなども抜擢されるような時代になった。

SNSの加工を逆手に取ったアプローチ

そのようなアナログなアプローチで身体への新たな美意識を掲げていたムーブメントは、2020年代に近づくにあたり、私たちの日常で身近にあるInstagramやTiktokなどの加工文化ともダイレクトに接続するようになり、さらに従来の理想美を打ち壊すような過激な表現へと変形していった。

といっても、『Posturing』で紹介しているような写真表現から急な変化を遂げたわけではなく、地続きでブランド側は、オーディエンスに日々見慣れてしまったフィード画像の中で、ちょっとしたバグを起こしリアクションさせるか、というフックの作り方へと少しずつシフトしていったように思う。

前兆として、まずバーチャルな表現として先手を打ったのは、Nicolas Ghesquière率いるLouis Vuittonのファイナルファンタジーとコラボレーションした2016 S/Sキャンペーン。2012年にPRADAもキャンペーンで起用はしているが、Louis VuittonのキャンペーンではNicolas Ghesquièreの言葉のとおりリアルとバーチャルの境目が揺らぎ始めたタイミングだったこともあり、大きな反響を呼んだことを覚えている。

ビデオゲームのバーチャルな美は、このコレクションにおいて重要な存在です。そして、ヒロイン像や、優れたアイコンとなるような勇敢な行動を取る女性の姿を表すものをプロモートしようとすれば、バーチャルな存在がブランド創立の理念と合致するは明らかです。ライトニングは、グローバル、勇敢な女性、そして生活の中でソーシャルなネットワークとコミュニケーションがシームレスに張り巡らされた世界を体現する完璧なキャラクターです。また彼女は、新たな描画プロセスの象徴でもあります。フォトグラフィーとデザインの伝統的な原理を超えたグラフィックは、どのように創り出せるのだろうか?ライトニングは、表現の新しい時代の到来を告げる存在なのです」 ──ニコラ・ジェスキエール *1

しかしそれは予兆ではあったが、加工文化とはまた異なり、モデル→ストリートキャスティングからのネクストステージとして起用した時代のムードの方が強かったかもしれない。Fashion News Tech note記事『フォロワー160万も、人間を超えつつあるバーチャルインフルエンサー。今注目の12人』で紹介されている「バーチャルインフルエンサー」が2016年頃に続々と世界各国で生まれ始めた背景も相まって起きた現象なのではないだろうか。

その後、2017年頃にBALENCIAGAとGUCCIが従来のブランドイメージを一新し、時代のゲームチェンジャーとして登場したことで、より一層従来の理想美というものは過去のものになっていった。Demna Gvasalia 率いるBALENCIAGAにおける『Posturing』で指摘しているような身体/服の新しい関係性はデビューキャンペーンでフォトグラファー・Mark Borthwickを起用したことからスタート。

そこから加工文化への接続は、まず写真からではなく、過剰なドロップショルダーシャツや変形バッグなどをリアルな世界で発表したことで、リアルにもバグを/ルック画像にバグを起こさせ、2019S/Sではアーティスト・John Rafmanを起用したショーのほか、CGアーティスト・Yilmaz Sen によるウネウネとモデルの身体が変形していくキャンペーン動画を公開したことにより、さらにリアルとバーチャル双方にバグを引き起こしていった。

次回は、そのようにリアルとバーチャルという分断がもはや存在しないように感じ始めた現代において、『Posturing』で語られたムーブメントの次に起きている「バグ」について振り返りながら、いま現在進行形の現象まで捉えてみる。

*1 https://jp.louisvuitton.com/jpn-jp/articles/lightning-a-virtual-heroine

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