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愛着界隈

【AKIRA Tシャツ】の界隈(前編) 有名コレクターとともに追う「アニメTブーム」の誕生

2025.12.12
ファッションとカルチャーを深く愛する人々を訪ねるスペシャルコンテンツ「愛着界隈」がスタート。いまやGUCCI×ドラえもんやLOEWE×ジブリがコラボレーションし、“ファッション×アニメ”は世界的トレンドとなっている。
その原点にして象徴的存在が『AKIRA』(作:大友克洋)だ。1980年代に登場した「AKIRA Tシャツ」のなかには、1枚50万円超えの希少アイテムもある。その世界有数のコレクターのひとりでもある、衣装デザイナー/スタイリストの高橋毅さんを初回ゲストにお招きして、「AKIRA T界隈」の話を聞いた。

PROFILE

高橋 毅(たかはし つよし)

東京都生まれ。武蔵野美術大学卒業後、スタイリストに。代表作に「JOJO×資生堂」「米津玄師×PlayStationⓇ」(広告賞ACC・衣装賞)、「MUSIC AWARDS JAPAN 2025」オープニングでのダンサーズの衣装などを担当。雑誌「GENIC」にて撮り下ろし作品を連載中。2010年より「AKIRA T」のコレクションを開始。
Instagram

マンガ・アニメTシャツの最高峰『AKIRA』

『週刊ヤングマガジン』懸賞品 1990年ごろ TAG&BODY:atelier Morita(あとりえモリタ)
「数えてはいないですが、たぶん200着以上」──。高橋さんが持参した「AKIRA T」が床を埋め尽くす。時価にして数百万円のコレクションは、どのようにして集められたのか。
「『AKIRA』は、1982年から1990年まで『週刊ヤングマガジン』(講談社)でマンガ版が連載され、1988年にアニメ映画版が公開されています。その当時からTシャツやトレーナーなどの公式アイテムが作られていました。ほかにもライセンス取得したTシャツ、ブランドとのコラボT、作者の大友克洋先生の展示の記念Tシャツなどが存在します。僕はフリマアプリを中心に、古着屋で買ったり、時にはコレクター同士で交換したりして手に入れています」
そう高橋さんは語る。「『AKIRA Tシャツ』はバリエーションが多いうえに、ほとんどが限定品ばかり」。オマージュやブートも含めれば全貌はとても追いきれない。だからこそ集めがいがある。高橋さんがコレクターとなった理由とは──?
「『AKIRA』の連載時、僕は9歳~17歳くらい。かっこいい作品だとは思っていたけれど、当時は『サブカル好きの、おしゃれな先輩』の家にあるマンガ、という印象で、少し距離を感じていました。Tシャツがあることも知らなかったし、周りに『AKIRA T』を着ている人もいませんでした」
いまでこそ争奪戦となる「AKIRA T」だが、1990年代には「界隈」すら存在しなかった。そして高橋さんがコレクターになるのはそれから約20年後、2010年ごろのことだ。

たったひとりの「愛着」活動

高橋毅さん。着用しているのは「士郎正宗の世界展(2025年)」×大友克洋コラボT
1990年代末、高橋さんは20代でスタイリストとなる。裏原ブランドからドラァグクイーンの衣装まで、どんなファッションでも吸収し、それを仕事に生かしていた駆け出しのスタイリスト時代に、「AKIRA T」はどう映っていたのだろうか?
「当時、ファッション業界で着ている人はほとんどいなかったと思います。ただ、2000年代のはじめごろに中野ブロードウェイのバンドTやポスターが売っている店舗で見つけて3枚ほど買ったんです。1枚3,000円くらいだったかな? 『AKIRA』だ、懐かしい! という感覚でした」
カルチャー感のあるキャラクターグッズ、という印象だったという。しかし数年後、高橋さんはその認識がひっくり返る経験をする。行きつけだった中目黒の「おでん屋」で、アルバイトのスタッフが「AKIRA T」を着ていたのだ。
「彼は......すごく変な男で(笑)。店で『おでん』だけでなく自作のハンバーガーを勝手に売っているような異色のスタッフでした。髭も長いし格好も汚らしい。でも強烈にスタイルがあるカッコイイ男だったんです。その彼が古い『AKIRA T』を着て働いていたんですよ」
高橋さんいわく「裾がボロボロに擦り切れて腹が見えていた」らしい。クロップド状態の「AKIRA T」を目撃した瞬間、中野ブロードウェイで投げ売りされていたキャラグッズは高橋さんの中で「ファッション」になった。
おでん屋のスタッフが着ていたものと同型の「AKIRA T」 1990年代 TAG&BODY:FASHION VICTIM
「彼にとっては、いつも着ているチープなTシャツのひとつ。でも僕にとってその出で立ちが最高にカッコよく見えたんです。それから自分で調べはじめました」
Tシャツのタグには「FASHION VICTIM」という謎の表記があったという。ヤフオクやeBayといったオークションサイトで検索し、コレクションが始まる。「ハマると集めすぎてしまう性格」という高橋さんは、並行輸入品から出自不明のものまで手当たり次第に買い集め、プライベートでも着るようになった。もちろんコレクターコミュニティは存在しない。たったひとりで愛着を募らせていった。

「AKIRA T」発掘の日々......「界隈」からの“手紙”が届いたようだった

『週刊ヤングマガジン』公式販売品 1999年製 TAG:YOUNG MAGAZINE
2010年当時、オークションサイトで『AKIRA T』は1枚数千円。1万円を超えたら高額という相場感だったという。ただ驚いたのはバリエーションの多さだ。誰が何のために作ったのか? 好奇心のままにネットを探り、未見のプリントを落札しては記録する日々を過ごす。
「おでん屋の彼が着ていた『FASHION VICTIM』は、1990年代中ごろに海外で発売されたライセンスTシャツらしいとわかりました。『週刊ヤングマガジン』のタグのモデルを見つけ、連載当時の号を揃えたこともありました。すると読者向けの懸賞品や、雑誌の付録チケットで買えるアイテムなどが載っていた。流通経路もかなり特殊だったんです」
プリントは『AKIRA』単行本の表紙や、大友克洋氏の直筆イラスト──マンガのコマを加工したものまで多彩で、ボディもジャージーズやFRUIT OF THE LOOMまでさまざまあることがわかった。
最初の海外ライセンスT「KIMONO MY HOUSE」版。BODY:FRUIT OF THE LOOM
高橋さん私物の『週刊ヤングマガジン』 1995年 誌面より(画像提供:高橋毅)
「なかでも僕が大好きなのは、大友先生のマンガのイラストが描かれた『あとりえモリタ オリジナル』版です。ボディが下着のようにペラペラで、ずっとニセモノだと思っていましたが、ヤンマガの『懸賞品』を作っているメーカーだったんです」
誰も知らない情報が、自らの手で明らかになっていく──。孤独なコレクターの熱狂に浸っていた時期、高橋さんは忘れられない経験をしている。
「ヤフオクで『あとりえモリタ』のTシャツを買ったら、当選者宛ての封筒が入っていたんです。持ち主がずっと保管していたんだと思います。大事にしろよ、と言われたみたいで......」
日焼けした封筒から、懸賞を当てた興奮が伝わってくる。当時も「界隈」はあったのだ──そして、ついに世間が「AKIRA T」に気づくときが来た。

2017年、AKIRA Tブーム「覚醒」の瞬間

左:Supreme×AKIRAコラボT 右:「大友克洋トリビュート展」記念Tシャツともに2017年製
2017年は「AKIRA T」の転換点だ。現在も高額取引される『Supreme×AKIRA』コラボが発売された。人気ファッションブランドからのラブコールだが、高橋さんの気持ちは複雑だったという。
「当然、買いましたよ。公式コラボでデザインも良い。かつて若者を夢中にした『AKIRA』がユースカルチャーのど真ん中に帰ってくることもうれしかった。でも同時に、トレンドに巻き込まれて消費されてしまうような嫌な予感もありました」
その数年前から、高橋さんは毎日のように「AKIRA T」を着て仕事や撮影現場に行き、「『AKIRA Tシャツ』のスタイリストさん」として知られていた。しかし2017年を境に見方が変わる。感度の高い業界人がこぞって「AKIRA T」を着て『AKIRA』愛を語りはじめる。現在まで続く「AKIRA T界隈」誕生の瞬間。その勢いは止まらなかった。
「決定的だったのは2019年の渋谷パルコのイベント『AKIRA ART OF WALL』ですね。ファッション好きの人やインフルエンサーが殺到し、ジェット音が鳴るように過去のTシャツの取引価格が上がっていきました」
『AKIRA ART OF WALL』展(2019)ではREADYMADE版も発売。河村康介さんのコラージュアートが施される(画像提供:高橋毅)
気づけば、あの日「おでん屋」で見た「FASHION VICTIM」は時価数十万円のスーパーレアとなっていた。こうして「AKIRA T」はヴィンテージカルチャーとして復活した。『エヴァ』や『lain』、京都アニメーション系などの他作品にも飛び火し、世界的なアニメ・マンガTブームを生んでいく。
「このブームで、コレクターとしての自分を再確認できた部分もあるんです。あえてSupremeコラボと同じ年に発売された『大友克洋トリビュート展』Tシャツを着たり、まだ誰にも注目されていない『あとりえモリタ』版を着たりして、ひとりで悦に入っていました(笑)」
たったひとりの「愛着」から始まった高橋さんのコレクター活動は続く。2020年「AKIRA T」専門のインスタグラムアカウントを開き、愛好家・フェイク品・転売ヤーが入り乱れる国内外の「界隈」との交流が始まる。
後編に続く──

Photo by Hiroyuki“Lily”Suzuki(StudioLog)
Text by GANTAN

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