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200年の歴史の原点がここに! クラークスのピータースバーグが 物語る“静かなる贅沢”の価値

2025.11.17
デザートブーツやワラビーなど、数々の名作を世に送り出してきたClarks(クラークス)。そんな2万2,000点以上ものアーカイブを擁する英国の老舗シューズブランドが最初に手がけたのは、意外にもムートンボアで仕立てられた一足のスリッパだった。
そして創業200年を迎えた今年、クラークスはその始まりを象徴する「Petersburg(ピータースバーグ)」を復刻した。素材から製法に至るまで、不変のブランドコンセプトである「快適さ」を体現したその姿は、現代に生きる私たちに何を語りかけるのか?
クラークスの創業者であるジェームズ・クラーク氏(写真左)とサイラス・クラーク氏(右)

靴づくりの始まりは、端材を使ったスリッパ

最初にスリッパが作られた理由は、ブランドのルーツに深く関係している。クラークスは1825年、ジェームズ・クラーク氏とサイラス・クラーク氏の兄弟によって、英国南西部サマセット州ストリートで創業された。
もともとクラーク家はシープスキンを使ったラグづくりを家業としており、その革は兄サイラスが営むタンナーから仕入れていた。
ピータースバーグのオリジナル。復刻モデルと比べてすっきりとした細身のフォルム
ジェームズ・クラーク氏は、ラグづくりには使われない短毛の羊から取れるムートンボアを有効活用するため、一足のスリッパを作ることを思いついた。地元の靴職人エソー・ウィットネル氏と協力し、3年の歳月をかけて完成させたのがピータースバーグである。
当時、英国ではムートンボアを用いたルームシューズは珍しく、その暖かく柔らかな履き心地が評判を呼び、クラークスは本格的な靴づくりへと歩み出した。当初はまだ自社工場を持たず、職人やその家族が自宅で製作し、金曜日になると兄弟のもとへ納品するという体制をとっていた。
創業当時の工場が描かれたポスターには「SLIPPERS(スリッパ)」の文字も
ピータースバーグという名称の由来は、いまだ明らかになっていない。該当する地名はなく、当時の記録にも言及は見られない。おそらくその響きの心地よさから、愛称のように名づけられたのではないかと考えられている。
創業200周年を記念して、10年ぶりに200足限定で復刻された「ピータースバーグ」。サイズ展開は23、25、27、29cm。17,600円(税込)

天然のハイテク素材・ムートンボアを使用

では、復刻モデルをチェックしよう。素材はオリジナルと同じムートンボアが使われている。前述した通り、この革が使われた理由はサステナブルな観点によるものだった。しかしムートンは同時に、自然が生んだハイテク素材でもある。
シープスキンが使われていることを示すライニングのネームタグも2025年の限定仕様
ふんわりとした毛足が足をやさしく包み込み、高いクッション性を発揮する。さらに繊維が空気をたっぷりと含むことで優れた通気性と断熱性が生まれ、冬は暖かく、夏でも蒸れにくい快適な履き心地を実現する。
オリジナルよりゆったりとしたフォルムが特徴。つま先も丸みのあるスクエアトゥに
デザインは1825年当時の姿が可能な限り忠実に再現されている。ベースはスリッポンタイプで、ロゴなどもなく、極めてシンプル。履き口に施されたステッチが手仕事の温もりを感じさせる。
オリジナルのピータースバーグは現在、英国本社近くの資料館に展示されており、その実物と遺された資料をもとに復刻が進められた。
一方で、足型は現代人の形状に合わせて微調整され、軽量化も図られている。また、マシン縫製では仕上がりが整いすぎてしまうため、当時の温もりある表情を再現する目的で、毛並みやステッチの仕上げには職人の手作業が採用された。
アッパーとライニングの両方にムートンボアを使うことで、厚みと縫製のバランスを取るのには苦労したが、この繊細な工程は熟練の職人技によってクリアした。
刻印がデザインされたアウトソール。素材には床を傷つけにくい起毛したソフトレザーが使われている
アウトソールには、創業200周年を記念する特別な刻印が施されている。クラークスのロゴや創業年、メッセージが刻まれたそのデザインは、オリジナルにはなかった新たな要素であり、復刻モデルを過去と未来をつなぐ象徴的な一足として位置づけている。

外面から内面へ。現代のラグジュアリーを再定義

そんなピータースバーグには、クラークスの特別な思いが込められている。今回の復刻モデルが提案するのは「ルームウエアスタイル」。このキーワードには、単なる室内履きではなく、“家の中で過ごす時間をより上質にする靴”という意味がある。
つまりこのスリッパは、ブランドの原点である「家庭の中の快適さ」へと立ち返り、外に見せるためではなく、内面的な豊かさにフォーカスしたプロダクトとして生まれた。
この思想は近年のファッション業界でも注目を集める“控えめで上質な贅沢”──「Quiet Luxury(クワイエット・ラグジュアリー/静かなる贅沢)」の概念にも通じている。
クラークスストアとオフィシャルオンラインストアのみで販売中
さらに、工程に手仕事を取り入れ、数を200足に限定したことにも意味がある。そこには、「長く愛用できるものを選び、大切に使い続けることが真のサステナビリティ」という思いが表れている。
創業200周年を迎えた今年、クラークスは「200 YEARS OF COMFORT」という言葉をコンセプトに掲げた。ピータースバーグはその理念をもっとも純粋なかたちで体現する、特別な一足である。200年の時を超えて蘇ったその姿は、ブランドの“原点”であり、未来へと続く“快適さ”の証しでもある。

Text by Ryota Osujo 

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