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パリから発信する日本の着物文化:Comptoir de Kimonoの挑戦

2024.11.18
パリの街角に佇む和の空間「Comptoir de Kimono(コントワール ド キモノ)」。オーナーの福西 園さんは、この場所から着物の魅力を世界に発信している。
「Comptoir」とはフランス語で、主に「カウンター」や「売り場」を意味する。このお店は単に着物を売るだけでなく、名前の通り、着物やそれに関する文化に触れたい人や相談したい人の駆け込み寺でもあるのだ。
しかしファッションの都パリで、なぜ着物なのか。その思いと挑戦について伺った。

PROFILE

福西 園(ふくにし その)

Comptoir de Kimono オーナー
Instagram
Comptoir de Kimono 公式Instagram

着物への情熱、パリでの挑戦

まず、パリで着物店を開くことになった経緯を教えてください。
私は2002年、ニューヨークに本校のあるパーソンズ美術大学のファッション科に入学しました。ファッションを人を変える力のあるアートの一形態だと考えていたからです。当初はパリとニューヨークで2年ずつ学ぶ予定でしたが、パリ滞在中にアルベール・エルバスがデザイナーを務めるランバンの研修生になる機会を得ました。その経験があまりにも刺激的だったため、大学はドロップアウトしてしまいました。
その後、スタイリングの仕事などが増え、ビザの関係もあって会社を設立。ファッションと食関連のコンサルティングや輸入を手がける有限会社を立ち上げ、しばらくファッション業界などで活動していました。しかし、ファストファッションが台頭し始めた頃から、業界の楽しさが失われていくことになります。
ファストファッションブランドは、大量生産と効率的な物流システムによって低価格で商品を提供することができます。さらに、トレンド分析も的確で、消費者にとっては魅力的な選択肢となっています。しかしその結果、若手デザイナーたちの創造性や努力が報われにくい環境になってしまいました。
2011年の東日本大震災後、パリ在住の日本人女性たちと共に着物を着て被災地支援をするNPO法人『パリ小町』を立ち上げ、チャリティーイベントに参加する機会が増えました。その経験から着物の魅力を再認識し、新たな可能性を探り始めました。
その後、ファッション業界のエグゼクティブを育成するIFM(Institut Français de la Mode)のExcecutive MBAプログラムに参加。ここでの学びや人脈が、後の事業立ち上げに大きく役立ちました。
最終的に、パリ市が運営する市営店舗を見つけ、約1,000万円の資金で着物の販売、レンタル、ギャラリー、サロンスペースを併設した店舗をオープンすることができました。この過程は決して容易ではありませんでしたが、Excecutive MBAでの経験が生かされ、夢を実現することができました。
開店後はコロナ禍に見舞われ大変な時期もありましたが、この濃密な経験を経て、現在の事業に至っています。
提供/Comptoir de Kimono
着物という伝統的な日本の衣装を、パリの方々にどのように伝えているのでしょうか?
お客様の中には、普段着として購入する人もいれば、着物をアートとして求める人も一定数います。それぞれの予算や用途に応じて、浴衣や着物をお勧めし、必要であれば長さの調整も行っています。
男性用の着物は、ジャケットやコートのように着用する人もいます。女性用の着物は、カジュアルからフォーマルまで幅広く、正式な着物として着用したい人も多いです。お茶や弓道を嗜む方など、特定の目的で着物を求める人たちの拠り所にもなっています。
着物文化の継承には、単に着物を販売するだけでなく、着付けや作法など、細やかな知識の伝達も重要です。着物自体は古着店などでも見つかりますが、お茶会での色や柄の選び方など、詳細な作法を説明できる人は少ないのが現状です。
そのため、小物類の取り扱いや着付けの方法など、実践的なアドバイスも提供しています。プロフェッショナル、たとえば映画やCMの制作者からの相談にも応じ、特定のテーマや人物に合わせた着物選びのアドバイスも行っています。
文化を伝えるにあたり、課題は多いかと思います。
着物文化は日本国内だけでなく、海外でも注目を集めています。その楽しみ方は人それぞれで、特にフランスでは独特の受け止め方があるようです。
着物の柄や季節感に関する文化的な「ルール」も外国人のお客様にとっては理解が難しい点でした。たとえば、鶴の柄は礼装用で浴衣には適さないことや、浴衣は夏物なので桜の柄のものはないことなど、外国人が想像する「着物」のイメージと実際の着物文化には大きなギャップがあります。
さらに、「着物」という言葉自体にも誤解があります。フランス語で「着物(kimono)」は柔道着を指すこともあるため、柔道着を探しに来るお客様もいます(笑)。
外国人のお客様からよく受ける質問には、「着物は外でも着て大丈夫ですか?」「男性も着物を着てもいいのですか?」などがあります。これらの質問に対しては、「着物」が日本語では元々「服」を意味することを説明し、ユーモアを交えて対応していますね。
このように、日本人が当たり前に思っている着物の文化や知識と、外国人の持つイメージや理解度には大きな差があります。その差を埋めながら、着物の魅力を伝えていくことが、パリでの着物店経営の醍醐味であり、課題でもあります。
着物は非常に特殊な文化です。海外の方が英語で情報を探そうとしても、十分な情報を得られないことが多いのが実情です。そのようなとき、着物をよく理解している日本人として、通訳あるいは文化の橋渡し役となれることが私たちの強みだと考えています。
この店は、着物や日本文化に関心を持つ多様な方々が集う場所として機能しています。課題は山積していますが、私たちは着物文化を世界に広めるための重要な拠点としての役割を果たしつつあると自負しています。
店名の「Comptoir de Kimono(着物のカウンター)」が示すように、当店はさまざまな背景を持つ人々が着物文化と出会い、交流する場となっています。ここでは、着物に関する知識の共有だけでなく、文化的な対話や相互理解が生まれる空間を提供しています。

文化の交差点:ギャラリーの役目

店内にはギャラリースペースも設置されています。今後のComptoir de Kimonoの目指すビジョンにも、このスペースは大きく関わってくるといいます。
このギャラリーは、私が支援したい職人さんや企業の方たちに適切に利用していただけるようにしています。展示する作品は多様で、パリの老舗メゾンや、フランスで着物に関連する作家もいます。
たとえば、私が持ちかけて実現したプロジェクトで、フランスの老舗扇メゾン「デュヴェルロワ」が丹後ちりめん発祥300周年を記念して、丹後織物工業組合の6社の生地を使用した特別な扇6点を製作し、当ギャラリーで展示しました。
提供/Comptoir de Kimono
螺鈿や植物を織り込んだ布を用いた扇は、訪れる人々に「旅をするような感覚」をもたらし、丹後の職人技とデュヴェルロワの卓越した技法が織りなす作品に多くの来場者が感嘆の声を寄せました。
また、セネガル人男性がフランスで立ち上げたブランドの展示販売会を開催しました。日本文化からインスピレーションを得たこのブランドは、文化の融合を体現しています。
手仕事には、文化を超えて共通するものがあります。私は日本人として着物文化を広めたいという思いで活動していますが、それだけでは広がりに限界があります。セネガル人の彼の展示会では、普段とは異なる客層が来店しました。彼らはセネガルの手織りの生地と和装からインスパイアされた独特なカットに惹かれて来店し、他の着物にも興味を示してくれたのです。
このように、少しずつ領域を拡大し、さまざまな人々を巻き込んでいかなければ、着物愛好者は増えないと感じています。もちろん、もともと日本や着物が好きな人も多数いますが、それ以外の層にも着物の魅力を伝えていく必要があります。
提供/Comptoir de Kimono
ほかにも、フランス人落語家を招いて公演を行いました。その際に訪れた観客のうちの何人かが能の勉強をしていました。彼らにとっては、落語も能も演劇の技法のひとつであり、シェイクスピアと同様に捉えているのです。これは日本人にない視点で、新鮮な驚きがありました。
このような交流を通じて、日本人が知らない視点に触れられることも、この店の魅力のひとつです。異なる文化背景を持つ人々が、着物を通じて新たな発見をし、互いの文化への理解を深めていく。そのような文化交流の場として、今後も活動を続けていきたいと考えています。

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