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「汗の膜」がムレを生んでいた! ミズノが挑んだ“ぬれた状態での優れた通気性”

2026.07.27
ミズノ株式会社が、汗でぬれた状態でもずば抜けた通気性を維持する新素材「ドライエアロフロー」を開発した。従来の吸汗速乾ウエアが抱えていた「汗の膜」による機能低下という根本課題に、新たなアプローチで挑んだ成果である。
原料メーカーではなくスポーツメーカーであるにもかかわらず、彼らはなぜ素材開発の根幹にまで踏み込んで、業界の常識を覆すほどの困難な挑戦に踏み切ったのか。
開発を担当したミズノ株式会社の田島和弥さんに、アスリートのパフォーマンスを科学で支える開発思想と、その技術的ブレイクスルーの背景を伺った。

「汗の膜」こそ解決すべき本質的な課題

夏の過酷な環境下や激しい運動時、アスリートのパフォーマンスを左右する大きな要因のひとつが「汗」である。これまで多くのスポーツウエアが吸汗速乾性を謳ってきたが、どれだけ通気性の高いメッシュ素材でも、大量の汗で生地がびしょぬれになってしまえばその機能は失われてしまう。今回ミズノの開発チームは、その常識のさらに奥にある課題に目を向けた。
総合スポーツメーカーとして多様な競技のアスリートと関わるなかで、競技を問わず共通して挙がっていたのが、汗でウエアが身体に張り付き熱がこもる不快感だった。田島さんは、この現場の声と発汗のメカニズムにフォーカスを合わせ、根本的な原因にたどり着く。
「どんなウエアでも汗をかけばびしょぬれになってしまう。その状態では、本来どんなに機能性が高いものだとしても、それが発揮されなくなってしまうという声が積み重なってきました。そこで、生地がぬれた状態で何が起きているのかを突き詰めていったところ、不快感や熱のこもる感覚の一番の原因は、汗が生地の隙間を塞いでしまうことで発生する“汗の膜”なのではないか、ということが分かってきたのです」
発汗は体温を下げるための重要な生理現象の一つだ。肌上で汗が蒸発する際の気化熱が体温の上昇した体から熱を奪っていくが、生地表面に「汗の膜」が形成されると空気の流れが遮断され、汗の蒸発が妨げられてしまう。
結果として体温調節機能がうまく働かず、さらなる発汗を促し、脱水症状やパフォーマンス低下のリスクを高めてしまう。ミズノは、この「汗の膜」こそ解決すべき本質的な課題だと結論づけた。それは、従来の吸汗速乾の概念を根底から見直す挑戦の始まりでもあった。

相反する機能を一枚に。常識破りのアイディアと、社内の壁

開発チームが導き出した答えは、一枚の生地に「疎水・撥水」と「吸水」という、本来相反する性質を共存させることだった。空気の通り道となる穴の周辺に水を弾く撥水性素材などを配置して「汗の膜」の形成を防ぎ、一方でかいた汗は吸水素材部分がしっかりと処理する。この構造なら、生地がぬれた状態でも空気の通り道が確保され、通気性が維持できると考えたのだ。
吸水性素材と撥水性素材のバランスを緻密に計算して生地表面に配置
撥水と吸水を組み合わせた素材自体は新しいものではない。しかしミズノが目指したのは、それらを高度な設計思想のもとに組み合わせ、明確な目的を持って「汗の膜を防ぐ」機能を実現することだった。ただ、この前例のないアプローチは開発当初から順風満帆だったわけではない。田島さんは当時をこう振り返る。
「新しいものは、なかなか理解を得るのが難しい側面もあります。しかし、このコンセプトに強く共感してくれたメンバーもいました。そうしたメンバーと強いパートナーシップを組みながら開発を進め、少しずつ形にしていくなかで、『これはすごいものになるかもしれない』という認識が社内に広がっていったのです」
常識を打ち破る挑戦には、技術的なハードルだけでなく、組織内の理解を得るという壁も存在していたのだ。

3桁に及ぶ試作とトレードオフとの戦い。ベストバランスを求めた3年間

2016年に課題へ本格着手してから、2019年に「ドライエアロフロー」として世に出るまで約3年。その間のプロトタイプの数は3桁にまで上り、100種類を優に超えた。
最大の壁は、複数の機能要件を同時に満たす「ベストバランス」の発見だった。通気性のために穴を大きくすれば強度と耐久性が落ち、シャツでは「透け感」も無視できない。機能性と耐久性、アパレルとしての品位は複雑なトレードオフの関係にある。
「耐久性と機能性はトレードオフの関係にある要素が多く、その両方を満たす最適なバランスを見つけることがもっとも難しかったです」(田島)
空気の通り道の確保に重きをおけば、耐久性が損なわれうる表裏一体の関係にある
開発チームは、穴の大きさや間隔、糸の種類や太さ、編み方など無数のパラメーターを一つひとつ検証していった。何がどの機能にどう影響するのかを丹念に洗い出す地道な試行錯誤の先に、ようやく理想のバランスが見えてきた。

湿潤状態でも際立つ通気性。データが示した“呼吸し続ける生地”

開発チームは、その革新性を「湿潤状態での通気抵抗の測定」という独自の手法で証明した。一般的な通気性測定は乾燥状態で行われるが、ミズノが挑んだのは「汗をかいた後」のパフォーマンス維持だからだ。
生地が「湿潤した状態」で測定した結果、同程度の厚みの一般的なTシャツ素材の通気抵抗値が「60」以上を示したのに対し、ドライエアロフローはわずか「約0.1」を記録した。
「この通気抵抗値は空気の通りやすさを示し、値が低いほど通気性が高いということになります。測定時の比較品が60以上の値を示したなかで、このドライエアロフローは約0.1という値になりました。それぐらいの差がある、ということです」(田島)
ウエアがぬれた状態での通気抵抗を調べた結果、際立つ性能を叩き出した
この数値は、汗でぬれても生地が「呼吸」し続け、空気の通り道を確保していることの証拠となった。感覚的な快適さだけでなく、パフォーマンス維持に直結する機能が客観的データで裏づけられた瞬間だった。

終わりなき進化

2019年のデビュー以来、技術は進化を続けている。当初の競技スポーツ向けから、ライフスタイルウエアや過酷な環境下で働く人々の作業着へと領域を広げ、近年はそのほとんどがリサイクル素材を採用している。クーリング機能や速乾性を高めた派生モデルも生まれている。
競技ごとに特化した商品も販売。「ドライエアロフローゲームシャツ(ラケットスポーツ)」10,450円(税込)
「汗の膜」という大きな課題をクリアした今も、開発チームの探求が終わることはない。「本当に100%やりきったというテーマはない」と田島さんは語る。
環境が年々シビアになるなか、テクノロジーも進化させ続けなければならない。目指すのは、アスリートがどのような動きをしても、アパレルの力で身体への負担を限りなくゼロにすること。ドライエアロフローはそれを実現するひとつの完成形であると同時に、ミズノの終わりなき進化を示すマイルストーンでもある。その挑戦はこれからも続いていくだろう。

PROFILE

田島 和弥(たじま かずや)

2016年 ミズノ(株) 入社

アパレルの材料開発チーム所属。

温熱コントロール素材の研究開発を主に担当。

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