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なぜエレコムがバッグを? IT機器のプロが「ガジェット脳」で設計したバックパックの全貌

2026.02.19
PC周辺機器やモバイルアクセサリーの老舗として知られるエレコム株式会社。マウスやキーボード、ケーブルといったデスク周りのアイテムでお世話になっている人も多いだろう。そんな「IT機器のプロ」である同社が、本気で作り込んだバッグブランドがある。
「MNL(エムエヌエル)」と名付けられたそのシリーズは、都市生活者のための“ちょうどいい”を追求したプロダクトだ。
なぜ、エレコムがバッグなのか。そして、ガジェットメーカーならではの視点は、どのようにプロダクトに落とし込まれているのか。今回は、エレコム株式会社でMNLの開発を担当する赤松寛治さんに話を聞いた。

PROFILE

赤松 寛治(あかまつ かんじ)

エレコム株式会社 商品開発部 アクセサリ開発課

上田安子服飾専門学校卒業後、アパレルメーカー、バッグメーカーを経て2023年入社。デザイン設計、仕様書作成から工場開拓まで、バッグ作りの全工程に従事。 現在は「MNL」を中心にバッグ類の開発を担当。これまでの経験を活かし、プロダクトを形にしている。

ユーザーとの共創から生まれた「4つのM」

エレコムがバッグを手がけること自体は新しい試みではないが、MNLの立ち上げには従来とは異なるアプローチがあった。
「MNLは、アンバサダーマーケティングを取り入れたプロジェクトです。ワークマンさんの手法のように、サンプル段階でユーザーに試用してもらい、フィードバックを直接反映させる。社内完結ではなく、使い手と一緒に創り上げることに重きを置きました」
IT機器メーカーとしての知見にユーザーの声を掛け合わせ、導き出されたのが「Minimal(ミニマル)」「Mindful(マインドフル)」「Monologue(モノローグ)」「Modern Nomad Life(モダンのマドライフ)」の4項目だ。頭文字の「M」と、それをつなぐ「N」「L」で構成されるブランド名には、現代の都市生活者に寄り添う哲学が込められている。
MNL CITY PACK seriesは、多機能かつ実用的でありながら無駄のない研ぎ澄まされたデザイン。外から見える部分に、エレコムのロゴやブランドロゴがないのも特徴的だ
「『Minimal』は装飾を削ぎ落とした機能美、『Mindful』はユーザーへの配慮、『Modern Nomad Life』は、仕事と遊びがボーダレスな現代をシームレスに移動するスタイルの提案です」
中でも印象的なのが、独白を意味する「Monologue」だ。ここでは「モノが語る物語」としての意味合いを持つ。
「ユーザーの体験から導き出された最適解を形にする、という意味を込めました。使い手のストーリーが、プロダクトの物語性として表現されています」

「ガジェット脳」で導き出された空間設計

MNLの真骨頂は、やはり「ガジェットファースト」な設計思想にある。PC周辺機器メーカーとして長年培ってきたノウハウは、収納ポケットの一つひとつに色濃く反映されている。
たとえば、メインプロダクトである「MNL CITY PACK series」は15.6インチ、「MNL CITY PACK LITE series」は14インチまでのノートPCに対応している。これは市場で主流のサイズをカバーしつつ、クリエイターが使う大型PCをも想定した結果だ。
だが、単にPCが入るだけではない。赤松さんがこだわったのは、「PCを取り出した後のアクション」まで計算に入れた動線設計だ。
「PCルームは背面に配置しているのですが、そこから正面側に突き出した上部の空間に、ガジェット用の部屋を設けています。カフェなどでPCを取り出した際、すぐにAC充電器やマウスが必要になりますよね。それらをリュックの底から探すのではなく、上部の定位置からサッと取り出せるようにしました」
一般的なバックパックでは、上部の空間はデッドスペースになりがちだ。荷物は重力に従って底に溜まるため、物理的に上の空間が空いてしまう。MNLではその「余白」をあえて独立した収納スペースとして活用している。
パソコン気室の上部には独立したポケットを配置。マウスやAC充電器などのガジェットを分けて収納が可能。底に荷物が溜まるのも防ぐことができる。MNL CITY PACK CORDURA® re/cor
「ガジェットポーチを一つ取り出す手間すら省きたい、という発想です。そこにポーチ機能が備わっているような感覚ですね。もちろん、ガジェット以外を入れても構いません。セキュリティ上の観点から、PCルームを開けてからでないとアクセスできない構造になっているため、財布などの貴重品を入れるのにも適しています」
マウスや充電器をどこに収納し、どう取り出すのがもっとも効率的か。その問いに対する答えが、ポケットの配置やサイズに論理的な根拠を与えている。
これはまさに、ガジェットを知り尽くしたエレコムならではの「ガジェット脳」による設計だ。

都市生活を支える機能美とディテール

移動の多い都市生活者にとって、バッグの使い勝手は死活問題だ。MNLには、日々のストレスを軽減するための細やかな工夫が随所に施されている。
その一つが「自立性」へのこだわりだ。底面をフラットにし、しっかりとした芯材を入れることで、床に置いた際にも倒れにくい設計になっている。カフェでの作業中や、商談の席でバッグが足元で転がるストレスから解放されるのは地味ながら大きなメリットだ。
バッグ底には芯材が入っているため、荷物が少なくても自立し、地面に置いても倒れづらく安心。MNL CITY PACK CORDURA® re/cor BM-MNLBP01NBK
また、メイン収納部が180度フルオープンになる「クラムシェル」構造も特徴的だ。
「ガバッと開くことで、スーツケースのように荷物を整理できます。私たちはこれを『テトリスみたいに詰める』と表現したりするのですが、隙間なくきれいにパッキングできるんです。底の方にある荷物を取り出したいときも、上から手探りで探す必要がありません」
メイン気室は大きく180度開くクラムシェルオープン仕様。パッキングや外出先での荷物の出し入れもスムーズ。
さらにユニークなのが、キーストラップの仕様だ。バッグ内部の複数箇所にループが設置されており、ユーザーは自分の利き手や好みに合わせて、ストラップの取り付け位置を自由に変更できる。
「右利きの人、左利きの人、あるいは改札を通るときの癖など、バッグの使い方は人それぞれです。自分の動作に合わせて定位置を決められるようにしました。一度場所を決めてしまえば、何も考えずにサッと鍵を取り出せる。そんなルーティン化をサポートしたいと考えています」
2つのフロントポケットおよびサイドポケットの内部にループがあり、キーリールやパスケースなどを好みの位置に取り付けられる。
体への負担軽減についても、工学的なアプローチがなされている。ショルダーハーネスのカーブは、人間の胸のラインに沿うように何度も試作を重ねて設計された。
「一般的なリュックのハーネスは直線的なものも多いですが、MNLでは体にフィットするカーブを描いています。また、背面やハーネスの裏側には、よくあるメッシュ素材ではなく、ストッキングのように滑らかで伸縮性のある素材を採用しました。
メッシュは摩擦で服を傷めたり毛玉ができたりすることがありますが、この素材ならその心配も少なく、見た目もミニマルで洗練された印象になります」
試行錯誤を繰り返し導かれたハーネスのカーブ。ガジェットで重量が増しても、安定したフィット感を保つ。

本気度を示す素材選定と、品質への執念

MNLを語る上で外せないのが、採用されている素材のグレードの高さだ。「CORDURA® re/cor」「CORDURA® Ballistic」「X-pac® VX21」という、バッグ好きなら誰もが知る高機能素材をラインナップしている。
左から、MNL CITY PACK series CORDURA® re/corタイプ BM-MNLBP01NBK 30,459円、CORDURA® Ballisticタイプ BM-MNLBP02BK 38,148円、X-pac® VX21タイプ BM-MNLBP03BK 45,848円(すべて税込)
特にX-pac® VX21は、ヨットの帆(セイルクロス)のシェア世界一を誇るDimension-Polyant社が開発した素材で、軽量かつ強靭、そして高い防水性を誇る。高価な素材であるため、採用するメーカーは限られるが、エレコムはあえてここに踏み込んだ。
「正直なところ、『エレコムがバッグ?』と思われる方もいらっしゃると思います。マウスを作っている会社が片手間でやっているのではないか、と。そのイメージを払拭したかった。バッグ専業メーカーにも引けを取らない、むしろそれ以上の素材を使い、我々の本気度を示したかったんです」
左から、「CORDURA® re/cor」「CORDURA® Ballistic」「X-pac® VX21」
赤松さんは、自身もバッグメーカー出身という経歴を持つ。だからこそ、素材やパーツ選びには妥協がない。ジッパーには信頼性の高いYKK製を採用し、プラスチックパーツには軍用装備にも使われるWoojin製を選んだ。これらは耐久性が求められるプロユースの現場で選ばれている部材だ。
「バッグは結局のところ、素材と部材の集まりです。一つひとつのパーツにこだわることで、プロダクト全体の価値が決まります。安価な部材を使えばコストは下がりますが、MNLではそれをしたくなかった。長く使ってもらえる耐久性と、所有する満足感を提供したかったんです」

ガジェットとバッグが融合する未来へ

ユーザーの声を取り入れながら進化を続けるMNL。大手ECサイトのレビューやSNSでの反応は、開発チームにダイレクトに届いているという。
「厳しいご意見をいただくこともありますが、それは期待の裏返しだと受け止めています。たとえば『裏地をもっと高級感のあるものにしてほしい』という声を受けて、素材のアップデートを進めています。作り手としては耳が痛いこともありますが、それを糧に改善していくのがMNLのあり方です」
今後は、トラベルラインの拡張も計画しているという。リモートワークやワーケーションが定着した今、仕事と旅の境界線はますます曖昧になっている。そんな現代のノマドワーカーに向けて、さらに選択肢を広げていく予定だ。
単なる「入れ物」ではなく、テクノロジーとライフスタイルをつなぐインターフェースへ。エレコムが描くバッグの未来は、ガジェットメーカーならではの合理性と、使い手への温かな眼差しによって、着実に形作られている。機能美を愛するすべてのクリエイターにとって、MNLは頼れる相棒となるだろう。

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