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【日本未上陸】ポルトガル伝統のカーニバルをファッションへと転換、母娘で描く「Entrudo(エントルード)」の物語

2025.02.27
毎日がカーニバルだったらいいのに——。
そんな大胆な願いを形にしたファッションブランド「Entrudo(エントルード)」が、ポルトガル北部の伝統的なカーニバルの地から誕生した。
デザイナーのスサナ・リベイロ(Susana Ribeiro)は、この地域で生まれ育った経験から、古くから続くカーニバルの熱気と色彩を現代のファッションへと昇華させることを試みた。そのコレクションの多くは地元の職人たちの手によって丁寧に作られ、伝統的な手工芸技術と祝祭の精神が一着一着に息づいている。
今回は、ポルトガルのカーニバルの伝統と匠の技が融合した「Entrudo」の魅力に迫る。

PROFILE

スサナ・リベイロ(Susana Ribeiro)

「Entrudo」の共同設立者兼デザイナー

カーニバルが導いた新たな挑戦

カーニバルと聞けば、多くの人が南米ブラジルを思い浮かべるだろう。しかし、ヨーロッパにも数世紀にわたってカーニバルの伝統を守り続ける地域がある。ポルトガル北部に位置する小さな村、ポデンセもそのひとつだ。
ユネスコ無形世界遺産にも登録されているポデンセのカーニバルは、その起源をローマ時代にまで遡るとされている。春の訪れを前に豊作を祈る儀式から始まったという説が残されている。
3月上旬から中旬にかけての「肥沃な日曜日(Domingo Gordo)」から3日間続くこの祭りで特徴的なのが、「カレトス」と呼ばれる仮装者たちの存在だ。地元の若い男性たちが、マスクをかぶり、カラフルなフリンジ付きの衣装に身を包んで“逃げた悪鬼”に扮する。彼らは跳ね回り、叫びながら村中を駆け巡り、地元の人々もそれに呼応するように踊り騒ぐ。これこそがポデンセ流カーニバルの真髄なのである。
「素材、色、質感、音が非常に豊かなカーニバルで、ポルトガルの美しい伝統のひとつです。ポデンセだけでなく、ポルトガル北部の各村にその村独自の趣向を持ったカーニバルが受け継がれているんです。
“カレトス”は悪魔的かつ神秘的な存在で、フリンジの付いたベストで作られたカラフルな衣装を着て、マスクで顔を覆い、腰の周りにガラガラと鈴をぶら下げています。色と音に満ちたこの伝統の慣習と独創性が、この地のカーニバルをユニークで魅力的なものにしていて、そんな“カレトス”の存在が『Entrudo』の基盤にあります」
この地域で生まれ育ったスサナにとって、カーニバルへの参加は年に1度の特別な行事だった。しかし、その祝祭の美学とエネルギーを基盤としたブランド「Entrudo」の立ち上げは、彼女の人生の後半に訪れる。
高校卒業後、ポルトガル第2の都市ポルトにあるファッションスクールCITEMでデザインを学んだ彼女は、家業であるニットウエア会社に就職。当初は手工芸品の製造・販売を手がけていたものの、入社から数年後、生産工程は工業化され、職人による手作業から機械製造へと移行していった。
「時代には逆らえませんが、私はハンドメイドで作られる自社の製品が大好きでした。その想いこそ、私が今、『Entrudo』を通して手工芸品に情熱を注ぐ理由なのです」
その後、異業種の企業で経営に携わりながら、結婚・出産を経験。40代後半を迎え、同じくファッションデザインを学んだ娘が20代で独立した頃、新たな転機が訪れる。娘からの提案がきっかけとなり、母娘で温めてきた夢、ポルトガルの伝統的な手工芸を軸としたブランドの設立が現実のものとなったのだ。
スサナさん親子
「自分の作品を再び作れること、そしてもっとも好きなことに時間を費やせることに、ブランド設立を決めたときは心から喜びを感じました。
ビジネスの世界での経験は確かに貴重でしたが、やはりモノづくりこそが、私の人生に欠けていたピースだったのです。『Entrudo』は、家族との絆と創造への情熱から生まれた、まさに私たち家族の一大プロジェクトなのです」

地域の絆が紡ぐものづくり

スサナは娘のマリアと共に、2017年、ポルトを拠点にブランドを設立した。カーニバルを愛する家族の想いと、ポルトガルの伝統を独自の視点で融合させることを、ブランドの中核に据えた。
「ブランドの準備をしていた時期が、ちょうどカーニバルの季節と重なっていました。そこで、ポルトガルのカーニバルの別称でもある『Entrudo』をブランド名に選びました」
靴の生産量でヨーロッパ第3位を誇るポルトガル。その生産拠点の多くが北部フェルゲイラスに集中している。2人はこの地でシューズブランドとしてスタートし、2年後には室内装飾品やバッグへとコレクションを広げていった。
「私たちは手作業を大切にする小規模ブランドです。細部まで丁寧に仕上げ、在庫を持たないことで無駄を省いています。天然素材やリサイクル素材を使用し、余剰材料の再利用も心がけています。全ての製品はオーダーメイドで、協力してくださる職人や工房とは家族のような関係を築き、適切な労働環境と公正な賃金を提供しています」
この地で生まれ育ったスサナだからこそ築ける信頼関係。地元の工場や職人との強い絆は、『Entrudo』のものづくりの根幹となっている。

カーニバルの魂を纏う、色彩と素材のハーモニー

デザインは、カーニバルの熱気、情熱、そして喜びを映し出すかのような、カラフルな色彩と多彩な素材使いでブランドの独創性を表現している。
「“カレトス”の衣装から着想を得た、インパクトのある華やかな外観を目指しています。ボリュームのあるフリンジ、ベースとなるレザー、そして手作業で加工した天然素材—ラフィア、ウール、ニットなど—を組み合わせてディテールを作り込みます。籐や竹のハンドルも全て手編みで仕上げています」
「色彩や質感の組み合わせを楽しみながら、同じモデルでも一点一点が異なる表情を持つよう、装飾やディテールにアレンジを加えています。そうすることで、独自のストーリーと伝統が息づくユニークな作品が生まれるのです」
55歳という年齢を重ねた今、娘と共にブランドを育てるスサナは、その想いをこう語る。
「手刺繍、織り、かご細工、編み物、かぎ針編みなど、ポルトガルの伝統的な職人技を作品に織り込めることを、心から誇りに思っています。ファッションデザイナーとして、この伝統を守り伝え、手作りの製品を通じて、着用する人々に喜びと楽しさを届けることが、私の生きがいです」
母娘で紡ぐ『Entrudo』の物語は、まだ序章にすぎない。カーニバルのエネルギーを独創的なファッションピースへと昇華し、世界へと届けていく彼女たちの旅は、これからも続いていく。

Text by ELIE INOUE

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