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“推しの衣装”を支える布の魔法――創業97年の衣装生地「フジカケ」の軌跡

2025.07.14
プロから学生まで多くの人が布を求めて行き交う、日暮里繊維街。量販店では取り扱っていない布もあり、「服作りの聖地」といった印象がある。
多くのお店がひしめくなか、一際目立つのが「フジカケ」だ。同社は創業以来、舞台・衣装・インテリア業界を中心に、個性と派手さを兼ね備えた「衣装生地」の提供を行ってきた老舗専門メーカーであり、従来の生地にはなかった多彩な表現を可能にする素材群を生み出している。
長年、多くのクリエイターを支えてきたフジカケは、どのような軌跡をたどってきたのだろうか。今回は藤掛株式会社社長の藤嶋千広さん、統括マネージャーの中村正美さんにお話を伺った。

創業97年、田原町から始まった“特別な生地”

フジカケの誕生は、1928年(昭和3年)にさかのぼる。
創業当初のフジカケはテキスタイル商社として発足し、当時まだ希少だった輸入布地や劇場用の装飾素材を扱うことで注目を集めた。次第に舞台衣装や映画・テレビ業界からの需要に応える形で、独自の特殊加工を施した布地の開発へと歩みを進め、素材メーカーとしての地位を確立した。
1970年代から1980年代にかけては、東京・田原町に拠点を構え、舞台・イベント・ディスプレイ用の素材を求めるプロフェッショナルたちの間で“衣装生地のフジカケ”として名を広めていった。
長年の拠点としていた田原町から移転し、現在では日暮里繊維街に店舗を構えるフジカケだが、田原町と日暮里繊維街とでは異なるところはあるのだろうか。
「やはり客層と人の流れが違いますね。田原町のときは、卸しの雰囲気があるので一般の方は入りづらかったと思います。
当時は企業との取引が主流でしたので、一般の方に向けて販売もしていたのですが、特に宣伝はしていませんでした。今では、SNSなどの積極的な発信により一般のお客様が増えてきましたね」(藤嶋さん)
フジカケでは、時代によって売れるものも流行も大きく変わってきたという。その時代のニーズに合わせた生地を販売する――まさに、それが“フジカケの歴史”でもある。
「浅草が華やかだった頃は、松竹歌劇団やキャバレー文化もあって、内装にさまざまな布を使うのが流行していました。壁やソファが全部布で覆われていてね。そんな豪華な時代の“きらびやかさ”を支えていたのが、フジカケの生地だったんです。
浅草は芸能の街でもありましたから、舞台衣装やショー用のドレスなんかを作るために、多くの方が布を求めてフジカケに来ていました。1人分を作るわけでなく、ダンサーや歌い手さんなどチームで衣装を揃えるわけですから、その分の布の量もすごかった。
僕は34年前にフジカケに入社しましたが、その頃はシルクのプリント用の下地を売っていました。バブルの頃でもあったので、すごく盛り上がっていましたね」(藤嶋さん)
そして、フジカケのきらびやかな生地は、時代の空気を色濃く反映している。
「衣装生地の取り扱いを始めたのは、もう20年以上前になります。
バブルが弾けた頃は、状況が変わっていろいろと大変な時期ではあったのですが、それでも衣装デザイナーさんとの取引は多かったので、衣装生地に特化する方向に舵を切りました。
その頃は、海外での仕入れを始めた時期でもあったので、取り扱う商品やスタイルも徐々に変わってきました」(藤嶋さん)

アイドルからバレエ衣装まで。光る衣装の裏にフジカケあり

衣装の生地などを扱う専門商社であるフジカケと、衣装デザイナーの付き合いは長い。
衣装デザイナーは、映画や演劇、テレビ番組などで使用される衣装を担当する。さまざまなアーティストやアイドル、タレント、歌手、さらにはバレエの衣装までが、彼らの手で作り出されるのだ。
エンターテインメント業界で私たちの心を動かす衣装は、衣装デザイナーによって作られ、そしてフジカケは、そのベースにある衣装生地で一端を担う。
多くのスターを輝かせる特殊生地。その原点ともいえるのが、1990年代後半に一世を風靡した女性アイドルグループの衣装だというから驚きだ。
あのキラキラとした光り輝く衣装の数々は、まさに“フジカケの生地”によるものだったのだ。
「時代によって取り扱う生地の転換期をいろいろと経験しましたが、特に1990年代後半に登場した女性アイドルグループの影響力はすごかったですね。本来の衣装デザイナーだけではなく、一般の方の購入も多かったです。新曲の発売やグループ内ユニットが増えるたび、生地が飛ぶように売れました」(藤嶋さん)
また、某アイドルグループだけでなく、某2.5次元舞台、某テーマパークの衣装もフジカケの生地で制作されている。最近では、コスプレイヤーの活躍も増えてきたが、フジカケにも影響があったりするのだろうか。
「記者会見やステージ衣装の発表があると、“この生地どこ?”と、すぐにフジカケに来てくださる方も増えました。今ではプロもアマも垣根なく布を楽しんでくれていますね」(藤嶋さん)
まさに日本のエンターテインメント業界を支えるフジカケ。そこには、ファッションとしてだけではなく、エンターテインメントも含めたトレンドも意識しているという。
「やはり全体的な世の中のトレンドは意識しますよね。単純な流行だけじゃなくて、時代の雰囲気や、エンタメ的な要素も取り入れています。衣装デザイナーの方も流行には敏感ですので、具現化できるように努めています。
そういった意識は会議で生まれるのではなく、お客様との会話の中で、トレンドをキャッチすることもよくありますね」(藤嶋さん)

フジカケが考える日暮里繊維街の未来とこれから

フジカケの向かいにある姉妹店「フリカケ」も、ユニークな存在感を放つ。
ステージやコスプレ衣装に欠かせない装飾パーツの専門店で、名前の由来は「衣装にトッピング=ふりかける」から。スタッフ自ら海外で仕入れたアイテムがずらりと並び、キラキラと輝く空間に思わず心がときめく。
「中国に自社の拠点があるので、素早く買い付けできるんです。この品揃えには自信がありますね」(中村さん)
さらに、ものづくりをサポートする「フジカケ工房」も展開している。
「転写プリントやレーザーカッター、刺繍ミシン、Tシャツに直接印刷できるガーメントプリンターなどを依頼できるサービスを提供しています。ぜひものづくりに役立ててほしいです」(中村さん)
SNSで精力的に情報を発信するフジカケは、プロ御用達であると同時に、ものづくりを愛するすべての人に開かれた場所だ。店内にあふれる魔法のような布たちは、まさにフジカケだからこそ出会える逸品ばかり。
「今はネットで何でも見られる時代ですが、やはり店舗に来て、見て、触って、布そのものからインスピレーションを受けてほしいんです。衣装デザイナーさんの中にも、うちの店を訪れてからデザインを考える、という方は少なくありません。リアルな“感覚”は、これからもっと大事になると思います」(藤嶋さん)
「何か新しいもの、面白いものを探しているなら、まずフジカケに来てみてください。ものづくりで困ったことがあれば、いつでも相談してほしいですね」(中村さん)
創業から97年。日本のエンターテインメントを布で支えてきたフジカケは、これからも変わることなく、“魔法の一枚”を探すすべての人を迎えてくれるだろう。
フジカケが届けるのは、単なる布ではない。それは誰かの夢を形にする力であり、舞台の裏側をそっと支える“魔法”そのものだ。
“布のプロフェッショナル”として、フジカケはこれからもクリエーションの最前線を走り続ける。

PROFILE

藤嶋 千広(ふじしま ちひろ)

藤掛株式会社 社長

PROFILE

中村 正美(なかむら まさみ)

藤掛株式会社 統括マネージャー

Text by Tajimax

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